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[第一部]三つの正義 第7話:修一の正義①

 滝沢修一は、中堅のコンサルティング会社に勤める元銀行マンである。滝沢が26歳の時に、金融機関の独特の組織に馴染めず、顧客のために働ける仕事がしたいと思い、経営コンサルティング会社に転職した。当初は、花形である外資系の戦略コンサルタントやM&Aアドバイザリー業務なども考えたが、信用金庫出身の彼は、中小企業の会社の支援がしたいと考え、中堅コンサルティング株式会社である日本マネジメントセンターに転職した。

 日本マネジメントセンターは、グループ会社で、監査法人や税理士法人、社労士法人など中小企業をバックアップできる体制が整った会社で、創業50年の老舗の会社である。特色としては人材育成に力を入れており、従業員の教育を行う部署の力が強いことだが、滝沢は人材育成だけで会社が良くなるわけがないと全く興味が無かった。滝沢は、会計をベースとして、企業の経営状態を見える化し、マーケティングやコスト削減など合理的な仕事で、数値的な効果を出す事にこだわっていた。

 「滝沢くん。先日の件、考えてくれましたか。」

 滝沢の上司である西岡和真が話しかけた。先日の件とは、マネージャー昇格の件である。日本マネジメントセンターの役職は、コンサルタント、シニアコンサルタント、マネージャー、パートナーと4段階で、滝沢はシニアコンサルタントであった。シニアコンサルタントは各案件のリーダーで、マネージャーからは管理職となり、複数案件の採算管理やトラブル対応など現場から少し離れる職種であった。

 「西岡マネージャー。先日も話したとおり、現場から離れたくはないので、今回は見送りでお願いします。」

 「現場が好きなのは分かるが、多くの案件の品質を上げて、多くの顧客を救える事になると思うよ。」

 「理解はできるのですが、まだ、直接現場で顧客とふれあっていたいんですよね。私は中途採用なので、まだ経験が足りないと思っています。」

 「分かりました。ただ、来年は上がってくださいね。」


 お世辞でもうれしいのだが、やはり管理職で現場を離れると感覚が鈍ってしまうと滝沢は思っていた。感覚が鈍ると自分の役割である収益にしか目が行かなくなってしまうのではないか。そうすると、金融機関時代に嫌だと思う上司に近づいてしまうことが滝沢は嫌であった。ただし、自分がマネージャーにならないと部下も昇進できないため、今年が最後だとも同時に思っていた。


 日本マネジメントセンターは知名度は低いが、真剣に顧客をよくすることを考えている人材が多い為、ファンも多く、顧客からの紹介が非常に多い。そのため、特別な営業をしなくても仕事の依頼が来る。滝沢は、金融機関出身という事もあり、金融機関からの依頼を受けることが多い。金融機関からの依頼で最も多いのは、企業再生であった。債務超過になって財務的に厳しい会社に対して、再生の道筋をつける仕事であり、重要な仕事だと思っていた。


 「清水くん。昨日訪問した会社の報告書できているか。」

 「あ、はい。企業概要とヒアリングをまとめております。」


 企業再生の仕事の流れは、まず、金融機関などから紹介を受けたら、企業概要と決算書をもらい、簡単に調査を行い、実際に訪問してヒアリングをする。ヒアリングのなかで、再生に至った原因を探り、実際に会社を見る事で、大まかな仮説を立てる。その上で、デューデリジェンスと呼ばれる調査を行う。デューデリジェンス(通称DD)は事業DD、財務DDや法務DDなど問題に応じて行う種類は増減する。中小企業の場合は、主に事業DDと財務DDを実施するが、コンサルティングファームが事業DD、監査法人が財務DDを行う事が多い。日本マネジメントセンターではグループ会社に監査法人もあるため、両方を受けられるため、金融機関にとっても便利な会社であった。DDを通して、その会社の事業の将来性や財務的な問題が洗い出され、それを解決するための事業計画書をつくる。事業計画書は表向きは会社が作る事になっているが、それを作れる中小企業の社長はほぼ皆無なので、我々が代理で作っている。この事業計画書が実際に実行可能なレベルまで落とし込めるかどうかはコンサルタントの手腕にかかっている。滝沢は勝てるか、儲かるか、実行可能かの三点で事業を評価し、計画を策定することにこだわっており、金融機関に対しても厳しい対応をすることもある。


 「明日から財務デューデリジェンスを始めるぞ。林くんと神野くんにも声かけておいてくれ。」

 「分かりました。林さんは出張中なのでメールしておきます。」


 林と神野は公認会計士で所属は監査法人だ。財務DDを行うのに資格は不要だが、会計士がチェックした方が安心感があるということで参加してもらっている。本人達も監査業務は単純作業ばかりだから非常に面白いと言ってくれるしWin-Winの関係と思っている。また、財務DDでは、領収書と会計上の記録の突合作業など地味で工数のかかる仕事も多いため、人手がいるので、本当に助かっている。滝沢は、清水、林、神野と自分で企業再生部を創ろうと思ったこともあったが、パートナーから儲からないだろと一蹴されてしまった。社会的にも仕事のやりがい的にも意義があると思っている為、諦めてはいない。


 「今回の財務DDは、売掛金と在庫を重点的にチェックしたい。あと神野くんには、固定資産と有価証券のチェックをお願いするようにメールに記載しておいてくれ。」

 「分かりました。今回は今までより会社ですからね。みんなやる気に満ちあふれてましたよ。」


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