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幼馴染も歩けばオーブに当たる

今回は好太郎と夏希ちゃんの関係性をもう少し掘り下げてみました。

放課後に一緒に寄り道できる同級生の女の子なんて、現実では中々いないですよね、、、(T ^ T)


三白眼の可愛い女の子の友達が欲しかった!!

 キーンコーンカーンコーン――


 6限の授業の終わりを報せるチャイムが学校に鳴り響き、教室にいた生徒たちの会話に花が咲く。

 これから帰る者、部活がある者、寄り道をして行こうと考える者、それぞれが思い思いに放課後の予定を語り合っていた。

 そんな帰りのHR(ホームルーム)までの少しだけの自由時間、夏希が好太郎の先までやってくる。


「どうしたの?」

「今日は寄り道したくてさ、好太郎は放課後の予定空いてる?」

「うん、全然何の予定も無いよ!」

「秋葉原のア○メイトに行きたいんだけど、一緒に行かない? ついでにガチャガチャやりに行こうよー」

「うんうん! いいね! 行くよ絶対行く!」


 無論、好太郎としてはどこに誘われても喜んでついて行く次第である。もし犬のように臀部(でんぶ)に尻尾が付いていたなら、今は確実にブンブン振っている状態だ。


 それを周りの生徒たちはチラチラと横目で見ている。それは冷ややかなものではなく、むしろ生温かいものだ。

 好太郎と夏希の関係性は学校内ではかなり有名で、本人達の知らないところでは「癒し成分カップル」と呼ばれている。好太郎の分かりやすい純粋な好意と夏希の鈍感さは、第三者から見るととても微笑ましいものだ。

 高校に入学して1年経った今も関係が全く進展しないところも、かえって2人の純粋さを表しているようだと好評らしい。

 そんな目線はつゆとも知らず、HRが終わると2人は連れ立って教室を出て行く。




「あ〜羨ましい……」

「青春してるよなぁ……」


 そんな声が教室のどこらとも無く上がる。

 このクラスになってから3ヶ月あまり。

 最初はそのやり取りを聞いて、あまりの甘酸っぱさ具合に舌打ちを(こら)える者が多発していたのだが、毎日のように繰り返されるその光景にいつのまにか、男子は『好太郎もっと頑張って!』と心の中で応援し、女子は『夏希ちゃん気付いてあげて!』と心の中で叫んでいた。


「今日のやり取りも可愛かったよね」


 ある女子生徒のその言葉に、教室は呼応するように『2人の今日のピュアやり取り』や、『今日のチグハグ会話』、果ては『授業中に好太郎が夏希を見てため息を吐いた回数』などの話題で盛り上がった。


 このように同じクラスの生徒達に、小学校の教室内で育てられるハムスター並みに愛ある目線を向けられて日々を過ごしていることを、本人たちは知る由もない。







 月曜日にも関わらず、秋葉原はそれなりに人が多い。理由としては秋葉原は観光地であり様々な国から人が絶えず訪れているということ、もう1つはそれなりにオフィス街であるということが挙げられる。

 JRの改札を出て、そんな人混みの通りを進んだ先にあるア○メイトに好太郎と夏希は向かう。


 好太郎はここに至って自分がカッジェに放課後はすぐ帰るような旨を伝えてしまっていたことに気づいたが、別にオーブを探しにきたわけでもないし、時間通りに家に着かなかったことは帰ってから謝ればいいかと思い直した。


「好太郎は何か買うものないの?」

「うんと、今日はないかな」

「そうなの?じゃあ付き合わせちゃって悪かったかな……」


 夏希は少し申し訳なさそうな表情になる。

 それを見た好太郎は慌てて言葉を取り繕った。


「そ、そんなことないって! ほら、最近は世の中も物騒で危ないし、それに今日はすごく散歩がしたい気分だったし……!!」


 かなり苦しい言い訳で、好太郎は自分でも理由になってないと感じる。

 時折、こういった必死さを見抜かれて、一方的に好意がバレてしまうのではないかと不安になることがあった。


「あはは、私が危ないって? そんなこと絶対に思ってないでしょー?」

「い、いやちゃんと思ってるよ……」


 しかし例に漏れず、鈍感な夏希はさして好太郎のあたふたした姿を気に留めずに、平坦な会話を続ける。

 好太郎としてはホッとしたような気もするし、少し残念な気分でもあった。


「でも、ありがと」

「えっ……?」

「私のこと女扱いしてくれるのなんて多分好太郎くらいのもんだからなー」


 振り向きざまにスラスラとそんなことを言う夏希に。


 ドキッ、と。好太郎の胸が高鳴る。


 その素直さはズルい。

 あっけらかんとした表情で、自分の気持ちをそのまま表現するのだ。

 初夏の日差しが夏希の横顔を照らしてかがやく。

 その姿が1枚の美しい絵のように好太郎の目には映り、カメラの購入を本気で検討してしまう。


 好太郎の想いは今日も夏希に一直線であった。





 ――シュガッ




「ア○メイトに着いたね」

「そうだね。今日はいつも読んでるマンガの新刊を買いに来たんだ。マンガのコーナーは2階にあるんだよ」

「そうなんだ、じゃあ早速行こう」


「あれ〜? ないなぁ……」

「何を探してるの?」

「『ご愁傷様貞子さん』の21巻が今日発売のはずなんだけど……」

「何そのタイトル!?」

「ちょっと奥の方も探してくるね」

「うん……それにしても、最近は変わったタイトルのマンガが流行ってるんだなぁ……。こっちは『呼吸法セミナー師範代の尼崎さん』、こっちは『異世界に転生したら世界最大国の第一王子で人生ウハウハな件』? オチまで全部言ってるような気がするんだけども……」


 ――ザワザワ、ザワザワ


「あれ? なんだか店内が騒がしいような気がするな。客達が店員さんを取り囲んで何やら質問攻めにしているようだ。ちょっと何を話しているのか聞いてみよう」


「――大変申し訳ございません! 現在、他の出口を調べておりますので、もうしばらくお待ちください!」

「シャッター開けろって言ってるだけだろ!? なんで閉めたんだ! 何が起こってる!」

「原因が分からないのですが、何故かシャッターが開かないんです! 降りた理由も不明です! なのでもうしばらく――」


「シャッターが降りている? 1階の様子を見に行ってみよう」 タッタッタッ


 ――ザワザワ、ザワザワ


「本当だ、シャッターが閉まっていて、その前に人がたむろしている……! 店員さんの慌てようから見て、他の出口も開かないみたいだ……」


「――おいみんな!! 通信状況を見ろ!! 圏外になってるぞ!!」


 ――ザワザワ!!


「――それに固定電話もだ!! 電話線が切られていないのにも関わらず、ツーとも鳴りやしない!!」


 ――ザワザワ!!


「マズイ!! 一部の客が騒いでいる! このままじゃ他の客の不安と不満がパンクして大変なことになるかもしれない!! 夏希を探さなきゃ!! 急いで2階に戻るぞ!!」


「――その必要はないさ」

「だ、誰だ!?」

「俺はこのア○メイトの店長、売田一斗(うりたいっと)。そして君が探しているのはこの女性で間違いないかな? クイッ」


 ――フラフラ


「なっ? 夏希! どうしたんだそんな魂をぬかれたようにフラフラと!!」

「ふふふ、彼女に声は届かないさ。このオーブの力で洗脳しているからね」

「その手に持っているのはマンガー・オーブか!?」

「むっ? ……ほほう、このオーブのことを知っているということは、以前この街のオーブを破壊したのは君だね?」

「夏希の洗脳を解け!!」

「それは無理だね。私の洗脳は1人単位で行なっているものではない。今やこのア○メイト秋葉原支店の2階から上の階全てのお客様は洗脳されている!!」

「なんだと!! 今すぐ洗脳を解け!!」


「ああ、あとほんの少しで解くつもりさ……このお客様達を重度のマンガ中毒にさせたらなぁっ!!」

「マ、マンガ中毒……!?」


「とらのあな、メ○ンブックス、ゲー○ーズ……秋葉原には数多くの書籍取扱店がある、それは今も昔も変わらない。しかしどうだ最近は!! ネットでなんでも安く買えるじゃあないか!! しかもネット販売でしか取り扱っていない限定商品さえあるときた! おかげさまで大手だけじゃない中小の小売企業たちの勢いは止まらず、ついでにア○メイトの1店舗当たりの減益もとまらない!!」


「お、おう……」


「にも関わらず世の中の変化についていけない頭の固い上層部は『営業努力が足りない』なんて生産性のかけらもないデスク越しに言ってくる!! どれだけ努力をしているか、どれだけスタッフ達に苦労してもらって利益を積み上げてもらっているかなんて、上は営業利益の前年比でしか知ろうとしない……」


「う、うん……」


「だったら目に見える形で成果出してやろうじゃないかってさぁっ!!」


 ――ビクゥッ!!!


「手始めにぃぃぃいっ!! 今ご来店いただいているお客様にはぁぁぁあっ!! マンガ中毒になってもらぃぃぃいっ!! 週一ペースでその月の新刊をご購入して帰っていただくのだぁぁぁあっ!!」


「そ、そんなことは絶対にさせないっ!!」


「黙れぇぇぇえっ!!」 ブワッ


「黒い(もや)のようなマンガー・フォースがア○メイト店長の背後に湧き上がった!! くそっ、また戦わなくちゃいけないのかっ!!」

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