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幼馴染と恋する少年

メインキャラクターの追加回!! そして次の話へのつなぎの回です。

前回マンガー・オーブを破壊したことによって、世界の表現が戻りました。

つまり小説としては情景・心理描写が書かれるようになっています。

文体を急激に変えたわけではありませんので、ご承知おきくださいm(__)m

 仮面メイド喫茶から出ると、すでに外には西陽が差しており、真上から照りつけるようだった太陽はビル陰に隠れて見えなくなっていた。しかしながら熱さられた地面や建物のコンクリートは余熱を放ち続け、今立っている細い路地にはムシムシとした空気が立ち込めている。


「そういえば今って夏だったっけ」


 出し抜けに好太郎は本来なら言うまでもない事を口にする。言葉にしてから、自分でも何故急に季節のことを考えてしまったのか分からない様子で首を傾げた。

 しかし、カッジェはそれをさも当然の事だとばかりに受け止める。


「ああ、"表現アクセス"が復旧しているようだからな。突然の切り替わりに勝手が違うように思えるのは仕方のないことだ」

「えっ? それって確かマンガー・オーブのせいで上手く機能してない何かだったよな……?」

「その通り。そのために私やヨシタロウを含め人々は世界的表現を受け取ることができなくなっていたわけだが……。どうやら先程のオーブが割れたことによって一時的にではあるが、"表現アクセス"が復旧したようだな」


 つまり、好太郎が『今の季節は夏だ』と再認識したのは、世界的表現が復活して言外に情報を受け取ることができるようになったためだ。

 そこまで理解して、好太郎は1つ気になった点をカッジェへと問いかける。


「今、『一時的に』って言ったよな? ということは今後また"表現アクセス"ができなくなるってことか?」

「うむ、恐らくな。先にも言ったが、マンガー・オーブは全てで7つある。その内の1つは壊れたことを確認したが、残る6つはまだ影を潜めたままだ。その内、活動をーーマンガー・フォースを放ち始めるだろう」

「それってつまり、今まで活動していたマンガー・オーブは1つだけだったってことか?」

「それもまた恐らく、だな。全ては推測に過ぎん。この世界1つの"表現アクセス"を封じるくらいなら、動かすマンガー・オーブは1つだけで事足りる、そう判断したのかもしれんな」



 そこまで話すと質問の流れを切るかのように、カッジェは仮面メイド喫茶に来た道を歩き始めた。好太郎もそれを追う。好太郎としてはまだまだ聞きたい事は山ほどある。カッジェの世界についてやカッジェの使命について、それに魔王やマンガー・オーブに関してどうしてそこまで知っているのか、後は――自分に目覚めた力のことなど。

 しかし今それらを聞いても答えは返ってこないような、一種の寄せ付けない雰囲気というものをカッジェの背中から感じた好太郎は、とにかく最優先で聞いておくべきことのみ口にした。


「今、歩いてるけどさ……行く当てあるの?」


 ピタリッ、とカッジェの足が止まる。

 好太郎はやっぱりな、と予想が当たった事に苦笑いをしながらも、用意していた言葉を掛けた。


「俺の家でよければ来るか?」







 カッジェを家に連れて帰った結果、好太郎を待ち受けていた家族の反応は様々だった。

 両親は息を飲むなり奥の部屋に引っ込み、


「ママ、ネクタイは? ネクタイ何処に仕舞った?」

「そんなことよりパパ、ケーキ買ってきて! あとお紅茶も!!」


 などとテンパり、妹は妹で、


「わおーんっ!! 兄ちゃんがっ! 兄ちゃんが美少女お持ち帰りしてきおった!!」


 などと騒ぐ始末。


 家に着くまでの間に考えた、


『来日して観光をしていたはいいものの荷物を丸ごと盗まれてしまい大使館に駆け込むも、手続きに相当時間がかかると言われ、その間無一文なので泊まる場所も無く途方に暮れていたカッジェ・ニマケーズという少女に偶然出会った好太郎が親切心から家に連れてきた』


 というでっち上げを説明し、どうにかある程度の期間は古本家への居候が認められた。


 しかしそんな説明以上に異国情緒漂う雰囲気を持ち、なおかつ超が付くほどの美少女カッジェに古本一家は興味津々であり、両親と妹の質問が雨あられのように降り注ぐ。

 一家が落ち着きを取り戻し始めたのは、夕飯を食べ終わってその後の団欒(だんらん)の時間がいくらか経過した後だった。


 両親やら妹やらに色々と振り回されたカッジェの顔には、流石に疲労の色が見えていた。

 グッタリとソファにもたれかかり、その疲れて濁った目で、家の中の誰一人として興味を持って観ていない、賑やかしのバラエティ番組を反射させている。

 仮面メイド喫茶での死闘の後でさえ疲れた顔を見せなかったカッジェに、それほどの精神的疲労を与えた張本人の1人である妹――名前はくるみ。今年で小学5年になる――が、ひと通り聞きたいことが聞けたのか満足気な顔をして、カッジェの元から好太郎の方へニマニマとした表情を浮かべてやってきた。


「なんだよくるみ、そんな嫌な笑い顔浮かべて……」

「嫌な顔って!! 兄ちゃんひどぉーい!! 私はちょぉ〜っと聞きたいことがあって来ただけなのにぃ」


 そうしてぶぅ、と頬を膨らませて怒ったかと思うと、コロっとまたニマニマ顔に戻る。

 そして、悪魔の尻尾が幻視できるかのようなイタズラ顔で問いかけた。


「ねぇねぇ兄ちゃん、ナツ姉ちゃんはもう諦めちゃったのぉ〜??」

「んなっ!!」


 突然出てきた『ナツ姉ちゃん』という単語に好太郎は大袈裟とも思えるほどのリアクションを返した。

 そしてその反応に興味を持ったのか、カッジェが瞳に色を戻し、尋ねる。


「『ナツ姉ちゃん』、というのは? この家には姉もいるのか?」


 その問いを待ってました、とばかりにくるみは目を輝かせる。


「うんうん、違うよ。私が勝手にお姉ちゃんって呼んでるの。ナツ姉ちゃんは、え~っとねぇ……兄ちゃんのぉ、とぉっても大切な人なんだよね〜?」


 好太郎とカッジェの関係を勘ぐっているくるみは、何やら爆発したら面白そうな爆弾が目の前にあるみたいだから爆発させてみよう、という邪気100パーセントの笑顔で好太郎に同意を求めた。しかし、好太郎とカッジェとの間柄はくるみが想像しているような甘酸っぱいものではないため、その発言は不発に終わる。


「ふむ、そうなのか。ヨシタロウには好きな女性がおるのか」


 くるみは肩透かしを食らったような顔をして好太郎を見やる。


「くるみが何を楽しそうにしてたのかは大体分かるけど、残念だったな。俺とカツジはそういう仲じゃない。今日会ったばかりだって言ったろ?」

「むぅ〜……」


 くるみは心底不満げに唇を突き出す、かと思いきやまた表情を一変させる。


「まぁいいや。それよりも、ねぇねぇ!! カツジさん!! 一緒にお風呂入ろうよ!」


 くるみの切り替えの早さはもはや一芸に数えることができるのではないかというくらいで、好太郎としては全く関係の無い話題への急な方向転換頭をクラクラさせる。

 同時にそこまでカッジェをくるみに付き合わせるのは申し訳ないという気持ちが起こり、くるみをたしなめようとするも、しかし迷惑がるのではないかという好太郎の予想に反して、カッジェが「うむ? よいぞ?」とその提案を快諾した。


「ぃやったぁー!! それじゃあ早くいこう? 今お風呂溜めてる最中だけど、背中流しっこしてる間に溜まると思うし!!」

「うむ。承知した」


 そんなやり取りをしつつ、2人は居間を後にしてお風呂場へと向かう。

 途中、


「おっぱい大きいねっ!?」

「うむ? 私の母からの遺伝だな」

「おっぱい揉んでいいっ!?」

「うむ? よいぞ?」

「ぃやったぁー!!」


 なんてやり取りが聞こえてくる。


 半ば本能的に耳をそば立てるもそれ以上は聞こえない。

 好太郎はカッジェに意識してしまっている自分にハッとして、頭をブンブン横に振りよこしまな気持ちを頭から追い出した。

 そして、同じくらいの歳の可愛い女の子と同じ屋根の下で一夜を過ごすことになるんだな、と今さらながらに緊張してしまう。

 この浮足立つようなフワフワした気持ちが落ち着かないし、今日はなるべく早く寝てしまおうと好太郎はそう思った。







 夏は朝も日差しが強い。

 それを嫌がる人も多いが、少なくとも好太郎はそんな季節の日差しがとても好きだった。

 冬のように薄暗い朝よりも、暑くても元気をもらえるような明るい朝から1日を始めたいと常々思っている。

 そんな朝、好太郎は肩を揺さぶられて意識を覚醒させた。

 いくら好きな季節でも、やはり眠いものは眠い。それに昨日は早くに布団に入ったものの中々寝付けないでいたので、かなり寝不足気味である。

 まだ睡眠を欲する頭がその肩を揺する相手を鬱陶(うっとう)しがる。


「ん~……。なんだよぉ……」


 目覚め立ての頭は高校への通学を拒否する。月曜日特有の怠さもそれを助長した。


 しかし――



「なんだよぉ~、じゃねぇんだよぉ~。起きろよ~」



 その声を聞いた瞬間、ガバッ、と自分の上に載っていた薄い夏用掛け布団を蹴飛ばして好太郎は飛び起きる。


 驚いたからではない。

 その人の前では少しでも自分をよく見せたい、という思いから飛び起きたのだ。

 今まさに高校生にもなって朝1人で起きれないという失態を見せているのだが、そんな事を考える脳みそはこの瞬間に限って頭からすっぽ抜けている。


「お、おはよう! 夏希!」

「おっす~」


 好太郎の部屋には、自分と同じ高校の指定の制服に身を包むスレンダーな女の子、桂木夏希(かつらぎなつき)が立っていた。


 その女の子の造形を説明すると、一重で大きな吊り目は初めて彼女を見る人に"恐い"という印象を抱かれがちで、髪は背中に掛かるくらいの長さの明るい茶色。耳には銀色の小さな輪っかのイヤリングを付けていて、それが見えるようにヘアピンでサイドの髪を留めている。制服はだらしなく無い程度にちょっと気崩されていており――


 ――総じて、"不良少女"というレッテルが貼られるに相応しい見た目をしている。


 また、カッジェのように規格外の美少女というカテゴリではなく、仮面メイド喫茶にいた和美人のゲヘナと比べても、多くの人はゲヘナの方が女の子として魅力を感じると答えるだろう。


「好太郎はさ、もうそろそろ自分で起きれるようにならないとねー? いつまで私に頼る気だっての」


 肩をすくめ、夏希は軽い口調で好太郎をなじる。

 自分の恋する少女には何を言われても嬉しいのか、好太郎はニヤケ顔で「いや~あはは」と笑って照れた。

 この瞬間、好太郎の心を満たしていたのは深い感謝だ。

 それは幼馴染という身近な存在に自分が恋をしていることへの、世間一般の男の節穴な目への、そして夏希を顔パスで自分の部屋まで通してくれる両親への心の底からの感謝だった。


 ただでさえ好きな夏の朝が、夏希に起こされることでさらに素晴らしい朝へとなっている。

 これで何度目になるか分からないが、強く幸せを噛み締めた。 

 そして同時に疑問を抱く。


 なぜ夏希の可憐(かれん)さに誰も気付かないのか、と。


 物心のつかないほど幼い頃から夏希を一番近くで見てきた好太郎は、夏希が多くの人に抱かれる第一印象に反してどれだけ可愛く、優しく、慎ましい人間なのかよく知っていた。


 例えば、その大きな目は本人の感情を色濃く反映し、特に笑った顔なんかは目尻がユルっと垂れて世界一可愛い表情をするということを好太郎は知っている。


 例えば、耳に着けるアクセサリーがピアスではなくイヤリングなのは、耳に穴を開けようとしていた夏希を好太郎が必死に止めたからであり、自分のファッションよりも好太郎の心配を優先してくれる優しさの表れであると好太郎は知っている。


 例えば、髪を染めたり制服を気崩したりしているのは、自分の顔が恐いと言われていることを認識しているから、それに見合った格好をしていればかえって目立たないのではないか、という試行錯誤を重ねた結果だと好太郎は知っている。


 そして、これほど清らかで優しい心根をしている女性を、好太郎は夏希以外には未だ知らない。




「……ねぇ。そろそろ用意し始めないと本当に遅刻するよ?」


 目の前の想い人に見惚れてボゥっとしていた好太郎は、少し呆れたような口調で夏希にそう言われてようやくいそいそと動き出す。

 このままここで話し続けられるなら、どれだけ遅刻したって構わないのにな、と心では思いながら。




 ※




「ほほう……この子がナツ姉ちゃん、なのだな?」


 居間に降りるとすでにカッジェが食卓に着いており、興味津々な様子で夏希を眺め回す。


「えっと……だれ?」


 夏希は夏希で古本家に自分の知らない人間が朝っぱらから居ることに驚いている。

 どうやら好太郎の部屋に来るにあたっては、まだお互いに遭遇(エンカウント)していなかったらしい。

 好太郎としては、夏希にカッジェとの間柄を不審がられないようにしたいので昨日家族に説明した話を再度繰り返そうと口を開――


「えっとねぇ、昨日兄ちゃんがお持ち帰りしてきた人だよぉ!」


 ――こうとした瞬間、くるみの言葉に空気が固まる。


「あっ、あとおはよう! ナツ姉ちゃん!!」というくるみの言葉は凍った空間の上を滑っていくように誰の耳にも入らない。


「え〜っ!!!?」


 その静寂の間を壊したのは夏希の仰天したような声だった。




 くるみの爆弾発言に目を白黒させていた夏希を、好太郎はしどろもどろになりながらも何とか落ち着かせる。くるみに軽くゲンコツを喰らわせるのも忘れない。

 そしてカッジェは一連のやりとりを面白そうにして隅で見ていたのだが、好太郎に釈明のために引っ張り出されて大人しく経緯を説明させられていた。


「――というわけで、古本家にはしばらくご厄介になる。気軽にカッジェと呼んでくれて構わん。よろしく頼むぞ」

「うん、こちらこそよろしくね。カッジェさん」

「おお、この世界に来てから初めてまともに名前を呼ばれた気がするな……!!」


 今までカツジなどと男のような名前で呼ばれ続けていたカッジェは、ただ普通に名前を呼ばれたことに対して声を震わせて感激しているようだ。




「夏希、そろそろ学校行かないとマズくないか?」


 居間にかけてある時計を見て、思ったよりも時間が経っていることに好太郎が気づく。


「ホントだ、そろそろ出ないと」


 急ぎ家を出ようととする好太郎と夏希だったが、玄関に向かう好太郎をカッジェが呼び止める。


「ヨシタロウ、学校は大体何時くらいに終わるのだ?」

「授業が終わるのが15時で、帰ってくるのは15時半くらいかな」

「うむ、承知した」


 そう頷き、それから少し声のトーンを落として続ける。


「……好太郎、1人で探しに行ったりするなよ……?」


 その言葉の意味が瞬時に分かった好太郎は、それに頷き返す。


「分かってる。カツジの世界の援軍が来るまでは大人しく、だろ?」

「うむ」


 古本家に来る途中に好太郎とカッジェの間で取り決めていたことの確認だ。取り決め、というよりもカッジェの方から一方的に『独断行動は決してするな。後は私たちで解決する』と言われていただけだが。


「好太郎! 遅刻するよー! 早くー!」


 玄関先から夏希の急かす声が聞こえる。


「それじゃ行ってくるから」

「うむ、行ってこい」


 そしてカッジェに見送られ、好太郎はいつも通り夏希と共に学校へと向かった。

夏希ちゃん、皆さんならどうでしょうか?

私なら睨まれてもいい、むしろ睨まれたいのですが・・・・・・

その後に優しくされたら何でも買ってあげちゃいそうです。

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