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英雄と凱旋

1章クライマックスです!!

好太郎たちは果たしてゲヘナを救うことができるのか!?

ぜひお楽しみください!!

「救う……? この我からか……? ふははははぁっ!! 何とも低く見られたものだな!! もう一度吹き飛ぶがいいっ!!」 ズォォォオオオッン


「ヨシタロウ!! まともに受けるなっ!!」

「分かってる!! ーー"滑れ"!!」 ツルッ


「チィッ!! 塵は塵らしく吹き飛ばされておけばいいものを!! この程度と思うなっ!!」 ズォォォオオオッン ギュロロロロロロッ


「ーー"逸れろ"!!」 スィッ


「ヨシタロウッ!! まともに受けていては拉致があかん!! 走り回って狙いを外すぞ!!」 シュタタタッ

「おう!!」 シュタタタッ


「ふんっ!! 我が攻撃を掻い潜る間に何かを仕掛けるつもりかっ!! ならばこの身体の全方位、半径50メートルに渡りマンガー・フォースを爆散させてやる!!」


「ーーさせるかっ!! "勅撰和歌集(ちょくせんわかしゅう)新古今(シンコキン)ー"!!」


「なんだ!? 短冊が我を中心に四方の床へと張り付いたぞ!?」


「私の武器が指輪に宿る"ドークショ・カンソーブーン"だけと侮ったな? 確かにあれは此度の使命を全うするために王より預かりし武器だ。しかし、私には私自身の武器がある!! それこそニマケーズ家に代々伝承されし魔術・"勅撰和歌集"!!」


「はっ!! どんな技かは知らぬが今のところ効果はない!! さぁ我に抗いし愚か者よ!! 我が力を受け倒れ()すがよい!! 爆・散!! …………」


 ーーニヤリ


「……ッ!! なにぃ!? 何故マンガー・フォースが爆散しない!?」


「"勅撰和歌集"の技が1つ・"新古今"。効果は"新古今ルール"に従わない技の発動を抑止すること!! ルールは1つ、"技の発動時のセリフが短歌である"、それだけだ!!」


「ぐぅぅぅっ!! 何と馬鹿らしい魔術があったものか!!」


「しかしおぬしはその馬鹿らしい魔術の前に動きを止めるのだ!! さぁ手はず通りヤツの動きは止めた!! 後は任せたぞ、ヨシタロウ!!」


「よしきた!! ーー"聞け"!!」


「ーーふんっ!! 我に貴様の言葉など聞かぬわ!! 揺さぶられるほどヤワな魂ではない!!」


「ーー誰がお前に語り掛けると言ったよ? "聞いてくれ"、ゲヘナちゃん!!」


「なっ!! この身体の持ち主の心を揺さぶろうというのか!!」


「ゲヘナちゃん!! 手に持っているオーブを放すんだ!! それ以上持ってたらダメだ、本当に君は君自身の表現力を無くしてしまう!!」


「魂は完全に我が内側へと取り込んだと思うがーーしかし万が一ということがある、阻止をせねば!! しかし、短歌だと……」


「ゲヘナちゃん!! 自分を取り戻してくれ!! 一番初めの願いはこんなことじゃなかっただろう!?」


「えーっと、季語、季語……"惡の華"とかどうだろうか、春の季語となるか? "惡の華 仮面メイドに 咲き誇り"っと……えー……あー……」


「"アイドルになりたい"という純粋な願いのために、これまで沢山の努力をしてきたんだろ!?」


「うるさいちょっと黙れ!! 今考えているだろうが!! "惡の華 仮面メイドに 咲き誇り マンガー・フォースを 爆散せしめり"!! どうだ!?」

「最後が8文字だからアウトだ!!」

「クソが!!」


「なぁ、ゲヘナちゃん、内側に居たってちゃんと聞こえてるだろ!? 君の描いた夢までの道程にこんな光景はあったか!? 人々を傷つけ、自分も傷つく、その果てに君の目指すアイドルはあったのか!?」


「ならば最後を終止形"せしむ"に変える!!」

「くっ!! 短歌が完成してしまう!! 急げヨシタロウ!!」

「"惡の華 仮面メイドに 咲き誇り マンガー・フォースを 爆散せし"ーー」


「ーー"思い出せ"。夢の原風景を。君が本当に目指したもの、君が本当になりたかったものを!!」








「(ーー暗く深い海に沈んでいるようだ。身体が怠い。指1本でさえ動かすのが億劫な気持ち……)」


「(……あれ? 何だろう? 底の辺りで何かが光っている……。日差しを感じさせる暖かな光だ。身体は重いけれど、あれに触れてみたい……)」


「(ここが海なら、手で水を掻けば近づけるハズ………………よし、近づけた。指先で触れてみよう……)」


「(これは……! 昔の記憶が流れ込んでくる……。そうだ、私がアイドルに憧れたのは小学生の頃だった。テレビで可愛い衣装を着てみんなにチヤホヤされている、そんなアイドルたちが羨ましくて、私もそうなれたらって思ったんだ)」


「(アイドルになること、それが本当の夢になったのは両親にねだって連れて行ってもらった、当時のお気に入りのアイドルのライブコンサート。ドームにはそれまで私が見たこともない大人数が集まっていて、ライブが始まると割れんばかりの声援、コールが飛び交い、その熱気は持ち込んだペットボトルのジュースがすぐに生温くなってしまったほど。でも本当に凄かったのはーー)」


「(ーーその万人の中心で煌びやかな汗を流しながら笑顔で踊り、歌い続けるアイドルたちだった。その姿は、私を含め、そこにいる全ての人々を魅了し尽くしていた。そしてライブが終わり満足感溢れる顔をして、とても嬉しそうに帰っていく人々を見て、私もステージ上で輝いていたあのアイドルたちのようになりたいと、心の底から願うようになったんだーー)」


「(私は今ーー何をしている? 私の目が映すのは言葉を失ったファンと同僚たち、そして私に対峙する2人。ーーこの光景のどこに笑顔がある?)」


「(そして何より、こんな暗く冷たい海の底はーーアイドルがいる場所じゃないっ!!) ピシィッ」









 ピシィッ 「なぁっ!!?」


「よし!! ゲヘナちゃんが起き出したぞ!!」

「本当か!! よくやったぞ、ヨシタロウ!!」


「クソ!! 短歌という縛りさえ無ければ!! この四方を囲む短冊さえ無けれ……うん? そうだ、この囲われてる場所から出ればよいのではないか」 ヒョイッ


「くそっ!! 気付かれた!!」

「何それ!? 縛り弱いな!!」


「貴様らァッ!! 死んでもらうぞ!!」


「ーーいや!! もう遅いぜ!! ゲヘナちゃん、悪夢から目を覚ます時だ!! ーー"邪悪を打ち砕け"!!」


 パシィンッ!

「なっ……!?」


「よしっ!!」

「ヨシタロウ、いったい何がどうなった!?」


「グォォォオオオッ!? 我がマンガー・フォースが急速に身体から押し出されていく!! この身体の持ち主が心の中の邪悪を打ち砕き、マンガー・フォースの拠り所を無くそうとしているのか!?」


「ーーつまりヨシタロウの言葉を引き金に、ゲヘナ自身がマンガー・オーブによる支配から抜け出そうとしているのか!?」


「その通りだ。俺はゲヘナちゃんが心の中の邪悪さを追い出してくれるような、そんなきっかけを少し作っただけだ。言ったろ? ゲヘナちゃんだって最初から悪いことがしたいわけじゃなかったんだ。彼女本来の目的を、夢を思い出してもらえればきっと元に戻ってくれると思ってたんだ」


「クソ!! 我が……こんな利用されるだけの小娘の心ごときに、負けるとは……!! 無念……!!」


――シュンッ





 今まで身体を支えていた黒い(もや)が晴れ、ゲヘナは膝をつく。

 そして、マンガー・オーブはその力を全て失ったのか、ゲヘナの手から転がり落ちるとヒビが入り、そのまま2つに割れる。それと同時にこれまで張りつめていた空気も無くなり、ステージ上には静寂さだけが残った。


「勝った、んだよな……?」


 その静けさを破ったのは好太郎だ。ボソリと呟いたはずのその言葉は、何1つ音の立たない店内においてはとても響いて聞こえた。


「そうだな。何とか、勝てたようだ……」


 深い安堵のため息を吐いてカッジェが応じる。


「しかし、何ともギリギリの戦いだった……指輪も壊されてしまったしな……」

「まぁ、命があってよかったと思おうぜ」

「全くだな……」


 聞こえる声は2つ、好太郎とカッジェのもののみで、他の仮面メイドやファンたちは、未だ突然襲った非日常の光景に何も言葉が出ない様子だ。

 そんな中、3つ目の声が上がり、その声の持ち主――ゲヘナへと視線が集まる。



「……私は…………今まで、何をしてたのかしら。アイドルが夢だった子供の頃の私が今の私を見たら、きっとショック過ぎて泣くわね。…………情けない……」


 それは独り言のようでありボソボソと呟かれた小さな言葉だったが、音の無い空間にはひどく響き渡った。誰もがその声に含まれた自分への怒りとも、哀しみとも取れない複雑な感情を読み取れるほどに。

 好太郎は1歩踏み出す――小さな肩をさらに縮めるかのようにして顔を伏せるゲヘナに言葉を掛けようとして――しかし、隣のカッジェに押しとどめられる。


「今は1人にしてやれ、慰めの言葉が聞きたくない時もある」




 誰も言葉を発さない店内には、いつからかすすり泣く音だけが響いていた。

 カッジェの手が好太郎の背中に添えられて、出口へと押される。

 好太郎は、最善の結果を出せたという思いがあったし、これ以外に自分が取る道は無かったと言い切れる。しかし、幼き頃のゲヘナの夢を思い出させる代わりに、現実を直視させることで今のゲヘナを傷つけてしまった。誰かを救おうとする過程において救いの無い道を突き付ける、そのやるせなさに歯嚙みした。

 カッジェに押されるがまま、後悔を残してその光景に背を向ける、


 しかし、その時――


「……おかえり!!」

「おかえり!!」


 最初はポツリと、しかし次第に大きな声でゲヘナへと投げかけられる言葉が増える。

 そして――


「「「ゲヘナちゃん、おかえり!!」」」


 汗臭く野太い、しかし温かく愛のある声が重なって店に響いた。

 その言葉は連鎖(れんさ)し、「おかえり、ゲヘナ!!」と、同僚たちも大きな声で叫びかける。

 しかし声を掛けられる当の本人は、その声の中心に座り込みポカンとした表情を浮かべたままだ。

 何でそんな言葉を掛けてもらえるのか心底分からない、そういう表情だ。


 好太郎とカッジェは悟る。

 救いは確かにあったのだと。


 アイドルになるために毎日努力して、仮面メイドとしてパフォーマンスを日々磨き、地下アイドルとして精力的に活動し続けたゲヘナの、その努力を近くで見続けてきた同僚とファンたちこそが救いだった。


 道を踏み外すにはまず、正しい道を歩いていなければいけないというのは道理だ。

 彼らは、正しき道を――(いばら)の道を傷つき疲れ果てながらもひたむきに歩き続けていたゲヘナの姿をしっかりと見ていた。


 罰など求めている者はどこにもいない。

 これは凱旋(がいせん)だ。

 日々の苦労に、辛さに、心の弱さにつけ込む邪悪を打ち倒し、そして無事な姿を再び見せた強き少女の凱旋だ。


 だから、みんな「おかえり」と。

 嬉しそうに、その目の端に涙さえ浮かべて。

「おかえり」と。




「……うむ。もう、何も問題はなさそうだな」

「……ああ、そうだな」


 好太郎は今度は誰に背中を押されるでもなく出口まで歩き出す。

 もうそこには重たげな表情は無く、軽やかな足どりで、割れんばかりのゲヘナコールで満たされる店を2人は後にした。


とりあえずここまでが物語の導入です!!


そして、読者の皆さま方、ここまで読んでくださりありがとうございます。

次の2章からは新キャラも登場。

お話もどんどん盛り上がっていく予定です。


少しでもご興味をお持ちいただけましたら、ぜひブクマをよろしくお願いします!!

これからも1週間おきに定期更新していきますので!


もちろん評価・感想もお待ちしておりますm(__)m


ぜひこれからもよろしくお願いします!

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