桃色美少女の説明
ちょっぴり難しい概念の説明などが入ってきます。
ただ、作中で重要な語は充分にかみ砕いて説明できていると思いますのでご安心を!!
どうしてもダメだったら流し読みしちゃってください・・・・・・
あと末尾に付録的なものついてますが、こちらは読み飛ばして全然問題ないやつです。
気になった方だけ読んでくださーい!
「……この世界の表現力が奪われているだって?」
「うむ。その通りだ」
「そんなの……全然、意味わからんぞ!? 何だよ、表現力って!?」
「まあ、実際に体感しないことには意識し辛いだろう」 スイッ キラーン
「ん? その右手の指に嵌めてかざしている指輪がどうかしたのか?」
「今からこの指輪の力を使い、一時的に“世界的表現”を取り戻す」
「へ?」
「後は自分が感じたままの"違和感"を頭に焼き付けろ」
「えっ? それってどういう……?」
「……はぁぁぁあああッ!!」 ブォンッ
「なっ……なっ!? ゆ、指輪が……光って!?」
「"ドークショ・カンソーブーン"……形態・防御壁……"カダイトショ其ノ三"――」
「光が……膜状に膨らんで……!!」
「――"羅生門"ッ!!」 ブァァァアアアンッ!!
――シュンッ
その光の膜は好太郎とカッジェを覆うように広がった後、空間に固定される。
その膜自体は透明で目に見えるわけではなかったが、膜内は光の粒子に満たされているようにキラキラときらめき、外界との境目をはっきりと作り出していた。
現実離れした――それも美しい光景に――好太郎は唖然としながら息を呑む。
「す、すごい……これが、魔法――?」
「ああ。かなり高位の、な。私自身が使える魔法ではなく、この指輪自体に込められた魔法なのだが――まぁそれは今関係ないか」
「でもこれって、いったいどういう効果なんだ?」
好太郎は首を傾げた。
好太郎の知る魔法はあくまでRPGなどで描かれる魔術師が使うものだった。
その効果は目に見えて分かるもので、HP回復だったり、攻撃力などのアップだったり、状態異常の回復だったりした。
しかし現在、身体が軽くなったわけでも、疲労が回復するわけでもない。
「うむ。もうすでに効果は出ている」
「えっ!?」
「先程までの世界と異なる点、"違和感"を覚えないか?」
――"違和感"。
どうしてだろう。そういえばどこかで聞き覚えのある言葉だった。そして、これまたどこかで経験のある先ほどの世界とのズレを確かに感じた。
好太郎は俯き、記憶を探る。
それは昨日? いや、休みに入る前だったか。
そう、それは友人とのやり取りをして、その後教室を出る際に――
「どうやら、思い当たることがあるみたいだな」
カッジェの言葉に好太郎はハッとして顔を上げた。
「おぬしは、この"違和感"を経験している。そうだな?」
「あ、あぁ……そうだ。金曜日、学校の教室を出る前に似たようなことが起こった気がする……」
「うむ。その感覚が掴めれば問題ないだろう。さて、魔法の力も無限ではない。そろそろ効果を切らせてもらうぞ」
カッジェの指輪から放たれていた光が消える。
すると今まで2人を囲うように覆っていた光の膜は弾け、空間に
――シュガッ
「留まっていた光の粒子が霧散していく……あれっ? 俺は今いったい何と口走った……!?」
「"説明口調"。それが表現力が失われた世界の特徴だ」
「"説明口調"……?」
「今まで世界自身が様々な事象を"表現"していてくれたが、その機能がなくなったため、相手に何が起こっているのかを伝えるためには自身で言葉にして表さなければならなくなったわけだ」
「そんなことが、本当に……」
「今、体験したろう?」
「……そうだな。詳しく、教えてもらっていいか?」
「もちろんだ」
「では1から説明しよう。"マンガー・オーブ"や世界からなくなった"表現"の話ではなく、まず私の世界について知ってもらおうと思う」
「わかった」
「私の世界は元々、純文学や新書を愛する人間が多く、人々の表現力は周辺の同一次元世界の中で最も高かった。しかしいつからか、挿絵の入ったライトノベルが月間ランキングに割り込んでくるようになり、これまた気が付くとマンガまでもが幅広い世代の人間に受け入れられるようになっていたのだ。元々はまだ字を読むのが覚束ない子供向けの書籍がマンガだったのだが、今では大人向けマンガという種別の中にジャンルが細かくできるほどだ」
「ふむ、今の日本ととてもよく似た現状だな」
「そうなのか。しかし、それだけならまだよい。知識の収集を幅広い書籍に求めるのはむしろ良いことだからだ。しかし問題なのは書籍全体からドンドンと活字が無くなっていることだ。恐ろしいことに効果音としてしか文字がないマンガもあるほどだ」
「それはキツいな……」
「うむ。そうしてその傾向が極まってとうとう――私たちは表現力を失った」
「……いや!? 普通そうはならんだろ!!」
「なってしまったのだ!! それこそ諸悪の根源、"ジバカリ・ネムクナール・ダールイ"という魔王の狙いだったのだから!!」
「な、なんだって――!!?」
「……本当に驚いているのか? ちゃんと信じているか?」
「正直、突拍子もなさ過ぎて、あまり……魔王とかフィクション臭くって……」
「うむ。しかし魔王と呼んで差支えはない。何故なら、私の世界は"ジバカリ・ネムクナール・ダールイ"の放った"マンガー・オーブ"によって表現力が制限されたことにより、重大な被害を受けているのだから」
「被害……? 表現が封じられると"説明口調"になって面倒くさいっていうのは分かったけど、それがそんなに致命的な事なのかな……?」
「確かに1つ1つへの影響は小さいものだった……しかし、その1つ1つの物事を表現するための文章量が嵩張って、人々のコミュニケーションに大きなな遅れを生み出した」
「遅れ……?」
「例えば国会。1国会で話し合える議題が1/4までに減った結果、国の動きが極端に鈍った。例えば病院。手術の際の執刀医と補助医師の意思伝達に時間がかかり、手術成功率が10%減少。ただの遅れと軽んじることはもはや誰にもできなくなった」
「それは……確かに。重大な被害だ」
「そうだろう」
「それにしても何で"マンガー・オーブ"によって表現力が失われるんだ?」
「それに関してはまだ推測の域を出ないが、世界への"表現アクセス"に対する妨害電波のようなものがマンガー・オーブによって出されているのではないかと考えられている」
「えーっと……"表現アクセス"って?」
「"世界的表現"が作られるキッカケになるものだな。簡単に言うと我々の表情や動作、見たものや感じたことを適切な表現として落とし込み"EXP次元行間"へと書き込むものだ」
「"世界的表現"? "EXP次元行間"?」
「うーむ……詳細に説明しようとすると、中々難しいからな。簡単に理解してくれ。"世界的表現"とは、世界が私たちに代わって起きている物事を説明してくれること。"表現アクセス"とは、その"世界的表現"を作るために必要なもの、とな。"EXP次元行間"については……理解しなくて問題ない。こちらの世界ではまだ提唱されていない概念のようだからな」
「まぁ、何となく今の説明で概要は理解できたよ。これ以上難しいことを話されても、正直俺の頭じゃついていけなさそうだ」
「いや、違和感を知覚でき、その原因を大まかにでも掴んでもらっていれば充分だ」
「しかし何でその、"ジバカリ・なんちゃら・かんちゃーら"は表現力を低下させたいんだ?」
「魔王の名は"ジバカリ・ネムクナール・ダールイ"だぞ。表現力を低下させる意図については、詳しく分かってはいない。しかし現実問題として表現力を低下させられているというのが大きな問題になっているからには見逃すことはできない」
「じゃあオーブなんて気にしないで、先に魔王を倒しちゃえばいいんじゃないか?」
「それはできない……。行方が分からないんだ」
「行方不明なのか!?」
「恐らく意図的に自分の姿を隠しているんだろう。何かの準備をしているのか、もしくはすでに始めているのか、それすらも分からない状況だ」
「なんだよ、何にも分かってないのか」
「だから! 魔王が作ったオーブの破壊を当面の目的としているのだ! 現在分かっているのはそのオーブが表現力を奪っているということだけなんだからな」
「ふーん、なるほどね」
「それも感嘆詞か?」
「いや、よく分かりましたの意味だ」
「難しいな、この世界の言葉は」
「さて、それではどうするんだ? 今は当てもなく外をブラブラしているだけだが、マンガー・オーブを破壊するという使命を果たさなければならないんだろう?」
「うむ。近くにマンガー・オーブが存在すると私は言ったな?」
「ああ」
「実は7つ全てがこの近くにあるのだ」
「ええ!? 全部がここに!? 何で!?」
「うむ。恐らく、この近くに膨大な"マンガー・フォース"が感じられる。オーブはそれに引き寄せられたのではないかと考えている」
「"マンガー・フォース"?」
「表現力の低下を促進する力の波動のことだ。ヨシタロウ、この近くにライトノベルやマンガ、もしくはそれに類するものを多く取り扱っている場所、あるいはそういったものへの趣向がある人間が大勢集まっている場所はないか?」
「……全部当てはまっている箇所があるな」
「それは一体……?」
「秋葉原だ」
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==【シキジリッツ・トップ国:広辞苑より抜粋】
【EXP次元】《えくすぷじげん》:
目視できず、かつ机上での確認もできないが生物間のコミュニケーション内に存在を認識できることができる次元概念の1つ。表現 = 『EXPRESSION』の頭文字を取って付けられた名称。
【EXP次元行間】《えくすぷじげんぎょうかん》:
生物が発信する表現アクセスが情報を書き込む先のEXP次元のこと。
例えば汗をかき口を真っ赤にしてカレーを食べている少年がいる時、その少年が自分の状態に関して言葉を連ねなくとも、人々はその様子だけで『少年が辛そうなカレーを食べて大変そうだ』と認識することができる。それはこのEXP次元行間に少年から無意識に発信された表現アクセス内の『カレー、辛い、食べるのが大変』という情報が書き込まれて世界的表現として人々に共有されるからである。
【世界的表現】《せかいてきひょうげん》:
人々の表情や挙動、感覚などを言葉を介さずに表すことのできる世界のシステムの1種。それだけで有用なものとして使われる場面も多いが、ほとんどが言葉の補足として役立っている。
例えばある男が目の前のカレーを表現する際、名詞に述語のみで「カレーだ」という言葉で表せる。しかし世界的表現が補足に入ることによってその言葉を聞く人々には以下のように認知できる。(《》内が世界的表現)
《様々な香辛料がふんだんに使用されているのが分かるほど香り立つカレーが目の前に置かれる。》
「カレーだ」
《男は目を輝かせてカレーに目を落とす。ゴロゴロとした肉と野菜がトロトロに煮込まれて美味しそうだ。》
上記の例はあくまで一例であり、その場の状況に応じて差し込まれる世界的表現は異なる。
男が発した言葉は「カレーだ」という一言だけだが、世界的表現により目の前に置かれたカレーがどういったものか、男がカレーに対してどのような印象を持ったかが人々に共有される。
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え? 広辞苑部分まで読んじゃいましたか? ありがとうございます!!
書き手冥利につきます!!
え? あ、読んでない?
そうですか、そうでしたか・・・・・・