桃色美少女との出会い
金曜日の放課後から時系列は土曜日の夜へ動きます。
現実、こんなに一瞬で土曜日の夜になっちゃったら泣きますよね・・・
「あれっ? 私の休日はっ!?」
好太郎は自室のベッドの上で微睡んでいる。
今日も良い日だった。家族で気になっていた映画を観に行った後、美味い中華を食べた。
鮮やかな赤をした麻婆豆腐は好太郎の大好物だ。
妹に何口か勝手に食べられて叱ったりもしたが、それを含めて家族の団欒というやつで、幸せな1日だった。
明日は日曜日、今日寝ても明日も休み。
明日は1人で、今度はもう1つの大好物であるカレーを食べに行こうと思い立つ。
どこにしようか、今まで行った数々のお店が頭に浮かんでは消える。また、新しいお店を開拓するのも悪くないとも考えた。
神保町はカレーと古本の街。
古参の店も新しい店もあり、巡るのに飽きはこない。
ああ、幸せな毎日だ。
好太郎はこのような平穏な日々がいつまでも続くのだと、そう信じて疑うことはなく、その日も微睡みへと身を委ねていく。
――シュガッ
「身体が海に沈んでいくかのように重く……、でも心地よい……意識が……ボヤけて……zzz」 zzz zzz
※
「……本当に1人で行くのだな? カッジェ」
「……はい、お兄様。もはや一刻の猶予もないと考えるべきです。枢機院の決定を待っていては遅すぎます」
「……そうか」
「……」
「お前が卓越した魔術師であることは知っているが、やはり待つことはできないのか? あと1週間、いや、あと5日あればルーセンテンス家のクラシカなどの強力な魔術師へ同行の依頼をすることもできるんだが」
「お兄様、お言葉ですが彼が世のために動くとは思えません。同じ志を持たない人間と共闘関係が結べるとは思いません」
「うむぅ……」
「大丈夫です、無茶はしません。それに、この指輪があれば問題もないでしょう」 キラーン
「王から預かりし遺物か。……そうだな、それさえあれば今回の件の大抵のことは何とかなるだろう。お前の身の危険も知ることができるしな」
「はい。このニマケーズ家長女・カッジェが、必ずや我が国ーーシキジリッツ・トップ国に、そして世界に"表現"を取り戻して見せます!」
「……うむ。それではくれぐれも、気をつけるのだぞ?」
「重ねてのご心配、ありがとうございます。……それでは、行って参ります。……ゲートッ」 ブォォン
「……行くぞ、私。まずはこの世界の真裏。ニホンのジンボウチョウヘ!!」
※
「今日も快晴だっ!! いい天気だなぁ」 テクテク
「今日はカレーを食べに神保町にやってきてしまったな。それにしても、いつ来たって人の数がちょうどいい町で大変好ましいや」 テクテク
「とりあえず今日は辛いカレーが食べたいし、〇ーマにでも行くかな、いやそれとも少し並んでエ〇オピアかな。とにかく、どちらにしても秋葉原方面に歩いていこう」 テクテク
「神保町は結構裏道が多いから、今日は多少坂はあるけれども運動だと思ってこの小学校の裏手にある道を通っていくことにしよう」
ブォォン ゴォォォォォォッ
「うわっ!! なんだ!? 急に前方斜め上に黒い穴のようなものが!!」
ヒューッ ドンッ!
「白い霧のようなものに包まれた何かが落ちてきたぞ? いったい何だ……?」
「いててて……」
「な、な? 霧が晴れたその場所に俺と同い年ぐらいのピンクでロングな髪をした美人でナイスバディな女がいるだと!? さっきまで誰もいなかったのに!! はっ!! まさか霧に包まれて落ちてきたのはお前か!?」
「うむ、そうだ。驚かせてしまってすまないな。落ちてきたのは私だ。名をカッジェ・ニマケーズという。おぬしの名前は?」
「俺の名前は好太郎。古本好太郎だ」
「フルモト・ヨシタロウというのか、よろしく頼む。それと確認したいのだが、ここはジンボウチョウという場所で合っているか?」
「ああ、そうだ。メイン通りからは少しは離れているものの、みんな大好き古本とカレーの町の神保町だぞ」
「そうであったか! それは良かった。次元内転移魔術は成功したようだ」
「転移魔術だって!? お前は魔法を使ってここにきたのか?」
「そうだ。私はこことは異なる世界からとある使命がありやってきたのだ」
グギュルルル~
「……ひどくお腹が空いておるのだが、おぬし、何か食べるものを持っていたりしないか?」
「……腹が減っているなら一緒にカレーでも食べに行くかい?」
「かれー? 分からんが、私に好き嫌いはないゆえにぜひ連れて行ってもらいたい」
「OK。じゃあ俺についてきてくれ」
「大変お腹の空く匂いのする店だなここは」
「だろう? 国民の9.9割が大好きな国民的料理カレーの匂いだ。ところでこれからお前のことは何と呼べばいい?」
「何でも構わんぞ。私は初めて出会った現地人ということで親しみをフルモトと呼ばせてもらおう」
「いやフルモトはファミリーネームだ。ヨシタロウと呼んでくれ」
「そうだったか。文化体系が私の世界と少し異なるようだな。この世界で活動するにあたって、その辺り詳しくヨシタロウに教えてもらいたいものだ」
「……俺としては言葉も通じているカツジがそれほど異なる文化体系の中で育った人間には見えないんだがな」
「……カツジって誰だ?」
「お前だ」
「なんでカツジなんだ!?」
「だってカッジェって呼びにくいじゃないか。カツジの方が呼びやすいだろう」
「それにしたって男っぽいだろうそのあだ名は!! むしろあだ名よりしっかりした名前っぽいぞ!?」
「はい、お待たせいたしましたー」
「おっ! きたぞ。この店のデフォルトのカレーだ! お好みで粉チーズをかけるのはアリだが、まずはこのまま食べてみて欲しい」
「むむっタイミングの悪い……、ってなんだ!? このライスに豪快にぶっかけられたこの黄ばんだ液体はなんだ!? 全体的にぐちゃぐちゃで食べる気を失うぞ!!」
「コラ!! 店の人の目の前で何てこと言いやがる!! ここのカレーはそういう形なんだ。騙されたと思って食ってみろ。絶対美味いから」 ハフハフモグモグ
「そ、そうか。では……」パクリ
「…………辛っ!!」
「ふふふ、この店のカレーは辛口が標準だからな。しかもそれでいて容赦なく辛い、子供は絶対に食べれん……。しかしだな……」
「美味いッ!! 辛いが美味いぞ!!どうなっているのか、黄ばんだライスを掬う手が止まらない!! 後引く辛さが不思議とツラくなく、そしてこの口が次へ次へとかれーを求めておる!!」
「そしてコイツを食べている間に活性化された新陳代謝の大暴れよっ!! 食べる口も止まらなければ汗も止まらないぜっ!!」 汗ダラダラ
「むむっ! 汗で髪が顔にくっつき食べにくいのだ! でもこの手はだけ止めたくない!!」
「そうだろうそうだろう。あと引く辛さに濃い目の味付けが口へと米を呼び寄せるだろう!?」
「最高だな!! この料理、最高だな!!」
「ふふふ」
「さて、腹を満たしたところで本題に入りたい。私にはある使命があるのだ」
「その前に俺に言うことがあるんじゃないか」
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
「よろしい。とりあえず落ち着ける場所として下島珈琲店に入ったわけだし、早速その使命とやらを聞こう」
「うむ。この町の近くにマンガー・オーブの存在を確認したんだ。私はそれを破壊し、祖国……、いや全ての世界を救わなければならん」
「なるほど」
「マンガー・オーブによって、"世界的表現"が閉ざされたことにより、これから多くの世界の歯車が狂っていくだろう。だからこそ、私はこの世界に散らばる7つのマンガー・オーブを――」
「待った待った、話に全くついて行けていない。1から説明してくれないか」
「え? さっき"なるほど"と言ったではないか」
「現代日本での"なるほど"はただの相槌や感嘆詞にすぎん。大体の"なるほど"と言う人間は説明された内容を理解していない」
「そうだったのか。なるほど、勉強になるな」
「……。それで"マンガー・オーブ"? "世界的表現"? "世界の歯車が狂う"? いったい、どういうことだ?」
「……うむ。ゴホンッ」
「……そうだな。後でしっかり説明はするが、まずは今起きている事象から言おう――」
「……」 ゴクリ
「――今まさに、マンガー・オーブによって、この世界の表現力は奪われているのだ」
「……は?」
1章を読み切ると、この小説の大体の構成がお分かりいただけるようになるかと思います。
もしご興味を引き続き持っていただけるようであれば、お付き合い願いたいです(>_<)!!