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ガスマスク少女、失踪する

前回、突然一人でどこかへと走っていったゲヘナ。

その様子のおかしさに、夏希は連絡を試みるもーー?


今回はセリフ文だけなのにちょっと長いです。

お楽しみください!

「むにゃむにゃ……」 zzz zzz


「――て……」


「うぅん……」 zzz zzz


「――きて……ねぇ……」


「ねむ……もちょっと……」 zzz zzz


「――太郎!! 起きろって――」 ユサユサッ


「うぅーん……ヤダ……」 ゴロンッ zzz zzz


「…………」 イラッ


「…………」 スヤスヤ


「――好太郎! 起きてってば!!」 バサァッ


「zzz……うわぁっ!! 夏用掛け布団がぁっ!」


「好太郎! 聞いて!!」


「なっ、夏希!? ま、また起こしに来て――」


「――ゲヘナさんに、連絡がつかないの」


「……はい?」


「昨日の夜からいくらLINEしても電話しても、全然返事がないの!!」




「――うむ。状況を整理しよう、2人とも。まずは好太郎。他の家族たちに話を聞かれないように、部屋のドアを閉めておいてくれるか」

「ああ。流石にこの話は妹たちには聞かせられないしな」 ガチャン


「さて、好太郎の部屋で話をするのは2日ぶりか。その時は4人だったが――それで夏希。好太郎に話の触りだけ聞いたが、ゲヘナに連絡が取れないというのは本当なのか?」

「……うん。昨日の別れ際、少し様子がおかしかったから気になって……。家に帰ってご飯を食べてからと今日の朝、何度もLINEも電話もしたけど、両方ダメだった」

「つまり、何か事件に巻き込まれているかもしれないってことか?」

「かもしれないって思ってる。もしかしたら本当にスマホ見れてないだけかもしれないけど……」

「うむ。昨日の今日だからな。ヨシタロウが言うように何か問題が起こっていると考えられなくもない。しかし一体なぜ……」


「……とにかく! まずは本当にゲヘナちゃんが何かに巻き込まれているのか、そうじゃないのかを調べよう!」

「でも、どうやって……? あのお店はまだ空いてないと思うし……」

「うむ、それなら家に訪ねてみようではないか」

「カツジ、ゲヘナちゃんの家知ってるのか!?」

「一昨日、ゲヘナをこの部屋に招いた時に聞いておいたのだ」

「それじゃあどうしよう? 好太郎と私の学校が終わったら急いで行くことにする?」

「ああ、そうだな。カツジ、ゲヘナちゃんの家の最寄り駅ってどのあた――」


「――待て待て。お主らちょっとゆっくりし過ぎではないか!?」

「「えっ?」」

「学校なんてサボればよかろう?」

「「はいっ!?」」




ガタンッゴトンッ ガタンッゴトンッ


「あぁ~……本当にサボっちゃった……どうしよぅ……お父さんとお母さんにバレたら絶対に怒られちゃうよ……」

「お、俺も……。というかこんな制服でどうどうとサボって大丈夫なのか? 補導とかされないかな……?」

「おぬしら……何というか、悪いことができないタイプというか、小心者というか……」

「しょうがないだろ!? 初めてなんだからさ!」


「私は最初から堂々とサボったものだがな」

「えぇっ!? カジェちゃんでもそういうことするんだ!?」

「そりゃあするとも。私なんて幼少時代は学業に習い事に色々縛り付けられておったからな。時折の息抜きくらいは必要だろう?」

「へぇ〜! あれ? 幼少時代ってことは、今は学校とかには行ってないの?」

「うむ。そもそも私は学校に通っていた訳ではないがな。家庭教師というやつだ。芸術・学業・武道・魔導などを全般的に習うのは15の歳まで。それ以降は父上の側で家督を継ぐ者として振る舞いなどを学ぶ傍で、自分の適正に沿った勉学に励んでおったわ」

「なんだかカッコいいね!」

「う、うむ。そうか? カッコいいか?」 テレッ

「ふーん、ていうことは、カツジって今はいくつなんだ?」


ピシリッ


「好太郎……あんた……」

「おぬし……私がそう聞かれて即答できる年齢だからいいものの……」

「えっ? なにっ? 俺なんかマズいこと言った!?」

「気軽に女性に年齢を聞くんじゃないのっ!!」

「あっはい!! ごめんなさい!!」

「まぁ私は幸い18だからな……これが20を超えてくると、『いくつに見える?』と嫌味で返すところだ。覚えておけ」

「大変、失礼いたしました……」




「うむ、聞いた話によるとこのアパートのこの部屋で間違いないのだが」 ピンポーン

「……反応ないねぇ」

「表札が『田無』なんだけど、本当に合ってるのか……?」

「分からないけどさ、少なくとも『ゲヘナ』っていう名前が本名だとは思わないなぁ……」

「まぁそれは確かに……」


ガチャリ


「あっ、隣の部屋から中年女性が出てくるぞっ? ちょっと話を聞いてみよう」

「それじゃあ私が聞いてみるよ……。すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが……」

「はい?」

「御宅の隣の部屋に住んでいる『田無』さんってご存知じゃないですか?」

「『田無』……? ああ、『ゲヘナ』ちゃんのことねっ! 知ってるわ、いつもお世話になってるもの」

「ええっ!? まさかのそっちの名前でご存知だとは!!」

「あの娘は誰の前でも『ゲヘナ』と名乗っているわよ。日常生活からアイドルとして振る舞おうとしてるとかなんとか……」

「じゃあゲヘナさん、ガスマスクも……?」

「ガスマスクをしてるところは見たことないわね……」

「そ、そうですか……」

「夏希! 話題がずれておるぞ……!」

「あっ、ごめん! つい好奇心が先走っちゃって……」


「それで、あなた達はあの娘の友達?」

「うむ、私が話そう。……ええ、そうです。私たちは連絡が取れなくなったゲヘナさんを探しに来たのです」

「ええっ!?」

「何かご存知ありませんか? それか昨日の夕方以降にゲヘナを見かけたりしませんでしたか?」

「そ、そうねぇ……昨日は私の知る限りだと部屋に帰ってきた音はしなかったわ。このアパートは壁が薄いから、隣の部屋でドアが開いた音なんかはすぐ分かるもの。もしかして私がお風呂に入ってたり洗い物をしてたりして聞き逃したなんて事はあるかもしれないけど……」

「そうですか……分かりました、ありがとうございます」

「ねぇ、警察に電話とか……」

「そうですね、私たちの方でもう少し探してどうにもならなさそうだったら、その時は警察にお任せしようかと思います」

「そ、そう……? 心配だわ……」




ガタンッゴトンッ ガタンッゴトンッ


「結局、ゲヘナさんの家では手掛かりを掴めなかったね……」

「うむ、直接的なものは、な」

「うん? カツジ、それはどういう事だ? 間接的になら手掛かりはあったってことなのか?」

「うむ。ゲヘナは昨日は帰っていないということ、それだけだ」

「なんだよ……そんなことか。てっきり捜索に進展のある何かかとばかり思ったよ」

「ふん、些細な手掛かりとて重要なパズルのキーだ。覚えておけ」

「そんなもんかな〜?」

「ところでカジェちゃん、次はどこに行く?」

「うむ、そうだな。次は秋葉原へと行く」

「順当に当たっていくとそうなるな」

「ゲヘナはバイト先に寄っていくと言っていたろう? だから仮面メイド喫茶に行ってゲヘナの手掛かりを探す」

「もしかすると仮面メイド喫茶内で寝てるかもしれないしね!」

「いや俺は流石にそれはないと思う……」


「あっ! そういえば仮面メイド喫茶って12時オープンって書いてた気がするよ?」

「なに?」

「あちゃあ……今が10時を少し過ぎたところだから、あと2時間近くあるなぁ……」

「うむぅ……時間を無駄にするのもなんかもったいないしな……」

「あ、じゃあお昼ご飯に向かうのはどうかな?」

「お昼?」

「うん。秋葉原駅に着いて、そこから少し歩けば神保町があるんだけど、私美味しいカレー屋さん知ってるんだ!」

「えっ!? カレー屋!? 夏希そんなところいったい誰と行ったの!?」

「えっ? お姉ちゃんとだけど……」

「ああ……そっか。よかった……」

「ヨシタロウはちょっと心配のし過ぎだな。ところでそのカレー屋とはこの前ヨシタロウが連れて行ってくれたアレか?」

「ああ、そうだよ」

「えっ? 好太郎とカジェちゃんって2人でカレー食べに行ったことあるの?」

「うむ、実はあーー」

「あ、いや! 違うんだ! 俺はただカツジがお腹を空かせていたから、このままじゃ可哀想だと思って……! 別に2人でデートとかそういうことをしていたわけじゃ……!!」

「へ……?」

「ヨシタロウ、お前はちょっと心配をし過ぎるぞ……」




「ちょっと夏希! 本当にこんな細い階段の先にカレー屋さんなんてあるのか!?」

「あるよー。つべこべ言わずに、上がってきなさーい」

「ふむ、夏希おすすめのカレーか。いったいどんな味なのかワクワクするな……!」


「いらっしゃいませー! 何名様で……?」

「3人です」

「奥の席へどうぞー!」

「はーい。好太郎、カジェちゃん、空いてるって。早く早く」

「夏希、なんだか楽しそうだな?」

「えっ? そう? でも楽しみなのは本当かな。私ここほどに美味しいカレー食べたの初めてだったから、また食べられると思うと嬉しくて!」


「失礼しまーす、レモン水ですー」


「ありがとうございます。それで、『赤の薬膳カレー』を3辛で3つ下さい」


「「えっ!?」」


「まあまあ、2人とも。いいから何も言わずにここのベーシックなカレーを味わってよ。2人とも辛いのも大丈夫なんだよね?」


「うむ、夏希がそう言うなら……」

「え〜。俺は牛スジカレーも気になってたんだけど……」

「他のはまた次の機会でもいいでしょ? 好太郎はカレー好きなんだからいつだって食べに来るじゃない。また食べに来ようよ」

「えっ!? 夏希と一緒に!?」

「えっ? 嫌?」

「ぜ、全然嫌じゃないよ!! ぜひ来よう!」


「お待たせしました、赤の薬膳カレーです」


「これは……!?」

「あ、赤いっ!!」

「すごく真っ赤でしょ? でもだから辛いってわけじゃないから、まずは食べてみてよ!」

「それじゃあ……」 パクリ

「うむ、私も……」 パクリ


「……どう?」


「「う、美味ぁあああ!!」」


「なんなのだっ!? もの凄く複雑な香りが爽やかさの極点を目指して調合されたかのような、鼻に抜ける芳香は!? それにサラサラとしたスープのようなルーは一見ライスとアンマッチングに思えたが、全くの検討違いだった。スープがライスに染み込んで絶妙な塩梅の味付けがたまらないっ!」


「ゴロゴロと大きめに切られて入っている野菜と、骨つきチキンはグツグツとしっかり煮込まれたのか味が染み込んでいて、噛むとジュワリとカレーのエキスが口の中に広がる! ……なんだ!? 入っているのはそれだけじゃないぞ、これは……カルダモン!? ホールスパイスもまるごと入っているのか!? 噛み砕くと柑橘系の爽やかな香りが口を満たす……!!」


「すごいでしょ、私もお姉ちゃんと来たときに感動しちゃったんだから!」


「美味い! 美味いぞ!!夏希! おぬし、最高だなっ!!」




「うむ。大変美味であったな。心なしか身体の中から健康になった気さえする」

「あ、分かる分かる! 何だか身体がポカポカするし、胃の中が綺麗に浄化された気がするよね」

「う~む、俺としてもこのカレーは初めての出会いだったな。今までガッツリ系を多く食べてたけど、今日の経験で新しい食嗜好に目覚めそうだ」

「そこまで気に入ってもらえたならよかったよ」

「さて、そんな話をしている間に仮面メイド喫茶に着いたな。時刻は11時半、ちょうどいい時間帯だ。早速入るとしよう」


「お帰りなさいませー。あ、ゲヘナのお友達シュコね?」


「うむ、ゲヘナを訪ねに来たのだが、今来ていたリするだろうか?」

「いいえ、いないシュコよ? 今日は非番シュコ」

「そうか……昨日の夕方ゲヘナが一度ここ寄っていると思ったんだが、何をしに寄っていたのか分かる人はいないか?」

「うーん、それなら店長が知ってるかもしれないシュコね。てんちょー!! てんちょーにお客様シュコよ!」


「あら? 私に何か用事かしらぁん?」

「う、うむ。おぬしが店長か? ずいぶんと逞しい体つきのご婦人のようだな……?」

「アんラ!! ご婦人ってあなた、いい娘ねぇっ! ああ、何だかこの前はうちのゲヘナがご迷惑をかけたとかで、ごめんなさいねぇ」

「ああ、それは全く問題ない。ところでゲヘナについて伺いたいのだが、昨日の夕刻ここに顔を出したと思うのだが何か知っているか?」

「そうっ! あの娘ったらホント、ちょっとあなた聞いてくれるぅっ!? 昨日ゲヘナが突然来て待合室に入ってきてね、すぐに出ていったと思ったら、私が〇OOKOFFで買った本の1ページを破って持って行っちゃったのよ!! 100円だったから別に本はいいんだけど、反抗期かしらぁ……」

「そうか、それは災難だったな……。ところで、その本のタイトルを教えていただくことはできるだろうか」

「タイトル? 確か、『世界ごっちゃ混ぜ有名詩集(2)』よ」

「うむ、ありがとう」

「あなたたちはこれからゲヘナに合うのかしら? もし会ったら『本は破っちゃダメよンっ!!』って代わりに叱っといてちょうだいね」

「ああ、分かった。質問に答えてくれてありがとう、店長」




「ふぅ、ずいぶんと個性的な店長だったね……」

「本当にな。俺、男の人かと思っちゃったよ」

「こら、失礼なことを言うでない。ところでやはりバイト先にもゲヘナはいなかったな。これはやはり『失踪』ということだな」

「みたいだな……」

「そして失踪の直接的な原因となるのはやはり、マンガー・オーブに他なるまい……」

「しかしゲヘナちゃんがいったい何で? 1人での行動は絶対に禁止だって言っていたのに……」

「うむ。それが私も腑に落ちんのだ……」


「えっと、私の勝手な想像だけど……いいかな?」

「夏希!? 分かるのか?」

「確かに1番早くゲヘナの失踪を察知したのはおぬしだったしな、想像でもいいから言ってみてくれ」

「もしかするとゲヘナさんは昨日の形で調査が終わったことがやっぱり不満だったんだよ」

「なにっ!? 確かに、最初は調査の終了に反対していたが……。しかし、最終的にゲヘナは納得していたようだったぞ?」

「うん。確かに説得される形で受け入れていたようだけど……。多分、人の心ってそんなに簡単じゃない」

「それは、どういう……」

「あの別れ際でゲヘナさん、すごく真剣な表情で考え事をしているように見えた。約束を守る事と、自分の中の大事なモノーー例えば信念とか、そういったものを(はかり)にかけているようだったんだ。どうしても譲れない考えが心の底にはあったんだと思う」

「そんな……それなら俺たちにもっと相談してくれれば……」


「いや……これは私の失策だな」

「えっ!? どういうことだ?」

「カジェちゃん、そんなことない。私が昨日の内に違和感を話しておくべきだったんだよ。ごめん、こんなことになってから言うのもなんだけど……」

「いや、ゲヘナのマンガー・オーブを追いたいという強い気持ちがあるのは知っていたのだ。ならば議論がどれだけ平行線を辿ろうとも、私だけはゲヘナと互いの信念が一致するまで話し合うべきだった。しこりがあるということを見ないフリをして、中途半端で終わらしてしまった私の責任だ」

「カジェちゃん……」

「やめろよ、カツジ。俺たちは4人で頑張ろうって誓った仲だろう? ならこの件に関しての責任は誰か1人にあるもんじゃない、全員にあるものだ」

「ヨシタロウ……」

「だから、次にどうしたらいいかをみんなで考えよう?」

「好太郎……そうだね、そうだよねっ!! みんなで考えて、早くゲヘナちゃんを見つけてあげよう!」

「うむ……そうだな。ありがとう、ヨシタロウ、夏希」

ここまで読んでいただきありがとうございます!(^^)!


作中でちょくちょく出てくるカレー屋さんですが、全て神保町内に実在するカレー屋さんです。

作者、カレー大好きです。

名前は出してませんが、気になった方はカレー大好きで気になるって方は少し調べてみると面白いかもです。本当に美味しいし。


さて、次回も来週の更新となると思いますが、楽しみに待っていただければと思います。

面白いと思っていただけたら、評価・感想などもお待ちしております(*‘ω‘ *)

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