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桃色美少女と頼りある仲間

●作者的女性キャラクター立ち位置表

・カッジェ ⇒ お姫さまキャラ、カッコイイ

・夏希   ⇒ 幼馴染キャラ、可愛い

・ゲヘナ  ⇒ メイドキャラ、ツンデレ 《New》


 自室のドアを開けて好太郎がまず目にしたものは、メイドの恰好でガスマスクが特徴的な少女であった。


「シュコー シュコー」

「……えっ?」


 一瞬、部屋を間違えたかむしろ家を間違えたかと狼狽するが、その少女の隣にいる人間を見て、いや自分は何も間違ってはいないと確信する。


「カツジ、なんでゲヘナちゃんがここに?」


 その正体は仮面メイド喫茶のメイド・ゲヘナ。

 つい昨日、マンガー・オーブを使って好太郎とカッジェを害そうとした、アイドル志望の少女である。

 そんな彼女がなぜここにという疑問に答えるべく、カッジェが「うむ、実はな……」と説明をしようとする。


 がしかし。


「昨日ぶりでシュコね、ご主人様。お会計も払わずによくもスタコラお出かけなさいましたでシュコ」


 部屋の扉を開けて固まっている状態の好太郎に掛けられた一声はそれだった。


「あぁ……うん」


 好太郎としても何と答えればいいのか分からず、曖昧な返事をしたきり閉口してしまう。

 そういえば注文はしたけどお金を払ってなかったなぁ、と今更ながら思い至りはする。

 しかし注文の途中であの奇異なパフォーマンスが始まったものだから、無かったことになってるんじゃないかと考えていたのだが。

 そんな思考を読み取ったかどうか定かではないが、ゲヘナが言葉を続ける。


「まぁ? 注文を受けはしたけど席に持って行けなかったのは私の不徳の致すところでシュコ。だから、とりあえず? メイドとしては、受けたオーダーは果たさなくてはいけないシュコから? お望みのものを持ってきてやったでシュコよ? ……感謝するシュコね!」


 やたらと長い弁明? の後にゲヘナは自身の持ち物だろう大き目の手提げから何かを取り出す。


 そして、ドンッ、と勢いよく置かれたのは、おどろおどろしい薬瓶と禍々しい酒瓶。


「ご注文いただきました"有機リン酸アセチルコリンエステラーゼ阻害剤ソーダー(錠剤)"と、"ヨード酢酸エチル"の五代目でシュコ!!」


「………………これ本当に毒とかじゃないんだよね?」


 あの時は確か、ソフトドリンクの欄にあった名前のものを注文したはずなのだが。


「なんで私がわざわざ毒を持ってこなきゃいけないシュコか!?」


 ゲヘナの憤慨のし様から見るに、どうやら普通に飲める? ものらしい。


「いやだって見た目がおかしいもん……名前もだけど……」


 だからといって、常識的な家庭で常識的な飲料を摂取して育った好太郎にとっては、その見た目は受け付けがたいようだった。


 そんな好太郎の反応に頬を膨らませる(ように見える。顔を覆うガスマスクでよく分からない)ゲヘナと、プリプリしたゲヘナに困る好太郎の茶番のようなやりとりを止めたのは、全くの蚊帳(かや)の外であった夏希だった。


「あの、あちらの方はどちら様……?」

「ああ、えっと仮面メイド喫茶に勤めてるゲヘナちゃんっていう人で……」

「メイドっ!? ガスマスクつけてるよ!?」

「ああ、うん。そういう設定でーー」

「私としてはご主人様はそんなモテそうもないのに、何で当たり前のように2人も女性を侍らせているのか知りたいでシュコね。何シュコか? ハーレム漫画の主人公様シュコか?」

「いやカツジとは昨日会ったばかりだし、夏希は幼馴染でーー」

「というか帰りが遅かったではないかヨシタロウ。よもや寄り道をしてきたわけではないだろうな?」

「ーーちょっと待って!! 順番に話させてくれ!!」







 好太郎は3人に相槌以外を許さずに、滔々(とうとう)と事実を飾らずに全て話す。

 その甲斐あって、一応、好太郎を合わせた4人のうちで共通の認識を持てるに至った。


「しかし、異世界ねぇ……そんなのフィクションの世界だけかと思ってたわ」

「そうだよね、俺もカツジが突然目の前に現れてなかったら流石に信じられないよ」

「私としては夏希が素手であのマンガー・オーブを破壊したことの方に驚きなのだが……」

「いやまぁ、あれは不意打ちみたいなものだったから……」

「何か武道の心得でもあったのか?」

「一応、空手をね……」

「夏希は地区大会優勝者だからな!!」


 突然自慢話を始めるかのような声を割り込ませたのはもちろん好太郎だった。


「チクタイカイ? それはすごい催しなのか?」

「いや、この地区一帯の女性だけが対象の大会だよ?」

「しょっぱいではないか!」

「なにをぅ!? あの時の夏希はすごくカッコよかったんだぞ!? いや、いつだってカッコ良くはあるんだけど、特別カッコよくて、決勝の上段後ろ回し蹴りからの逆足空中背面蹴りは凄すぎて、一瞬時間が止まって見えるほどだった!!」

「う、うむ、そうか……」

「また好太郎はそうやって大袈裟に言う……」


 あまりの好太郎の熱弁ぶりにカッジェはちょっと引き気味で、夏希は呆れたようにため息を吐いた。


「ところでこうやって私たち4人の繋がりができたシュコが、これからどうするシュコか?」


 話題を元の路線に戻したのはゲヘナだ。

 好太郎はゲヘナの質問の意図が掴めずに聞き返す。


「どうするって、何をだ?」

「決まってるシュコ。残るマンガー・オーブを壊しに行くのか、行かないのかでシュコ」


 その言葉に、3人は顔を見合わせ、




「ダメだ」




 そう、最初に答えたのはカッジェだった。


「これ以上現地人を危険な目に合わせるわけにはいかん。元々、私たちの世界で撒かれた種なのだ。ヨシタロウには言ったが、その内私の世界の仲間が増援に駆けつける。お前たちは全て忘れ、元の生活に戻るのだ」


 有無を言わさぬ強い口調で言い切る。

 しかし――


「断るでシュコ」


 ――一切気圧されず、堂々たる物言いでその言葉を拒否したのはゲヘナだった。


「私は自分を見失い、多くの人たちに迷惑をかけてしまったシュコ。ファンや同僚たちは気にしなくていいと言ってくれたシュコが、自分がそれを許せるか許せないかはまた別でシュコ。私は私の行いを償う方法が必要なんでシュコ」

「むぅ……しかし――」


「カツジ、実は俺もこのまま何も無かったことにして元の生活に戻るのは嫌なんだ」


 ゲヘナの言葉に渋面を作ったカッジェに、さらに好太郎が言葉を重ねる。


「確かにマンガー・オーブなんてものが生まれた原因はカツジ達の世界にあったのかもしれないけど、今それが存在していて被害を受けているのはこの世界だ。俺は自分の世界の危機に何もしないで、何も知らないフリをしているのは嫌だ」

「ヨ、ヨシタロウまで……」


 戸惑いを顔に出したカッジェは、そのまま夏希の方へと顔を向けた。


「……」

「……えっ、なに?」

「あ、夏希は2人みたいなことは言い出さないのだな。いや、うむ。流れ的に夏希も何か言い出すんじゃないかと思ったのだ」

「え……あ、なんかごめん」


 そうしてカッジェは自身の言葉へと反対をしてきた2人に向き直る。


「2人の考えは承知した。しかし、やはり危険だ。現地人に迷惑をかけたくないという気持ちを抜きにしても、やはり現地人を――それもただの一般人を戦いに巻き込むのは道義に反する」


 頑なに突っぱねるわけではないものの、カッジェはやはり譲りたがらなかった。

 カッジェのその精神は頑固とはまた違う、貴族として生まれ育ったもの特有の責任感に起因するものだった。

 貴族と言えば、領地を持ち、贅沢な暮らしをし、領民を虐げ、やたらと威張り散らすような、そんなマイナスのイメージを持つ者もいるかもしれないが、カッジェの世界においては違う。


 カッジェの世界での貴族はあくまで、"誇り高く、強く慈悲ある領主"であることが領民はもちろん他の貴族からも尊ばれる。そのため領主は必ずしも長男が受け継ぐ訳ではなく、優れた道徳観、あるいは経済能力や領地管理能力、魔法の才能があるなどで選ばれるのだ。


 貴族の子は幼き頃からそれぞれの才能を育まれ、同時に貴族の常識として"領民は命を懸けて守るべき対象"だと教育される。

 結果、貴族は気高くも憐れみ深い血筋が脈々と連なってきた。


 カッジェも今やその末端の血を引く者として、単なる一般人である好太郎たちを矢面に立たせることに深い罪悪感を抱いてしまうのだ。


 先の戦いでまさしくその誇り高い姿を目にしていた好太郎とゲヘナはカッジェの貴族気質の一端は掴めていたようで、自分たちの安全を心底から考えているからこその頑なさだということが分かっており、渋い顔となる。

 どちらにも、どちらなりの理由があって譲ることができない。

 そんな一種重い空気が流れる中で、しかし――


「だったら戦わなければ協力できるんじゃない?」


 ――軽やかで明るい声が飛んだ。

 それは優しい少女・夏希による、この場全ての想いの強さを受け止める羽毛のように柔らかな一言だった。


「戦わなければ……? それはいったいどういうことなのだ?」

「カッジェちゃんは戦わせたくない、私たちは役に立ちたい。それなら戦うこと以外で協力すればいいんじゃないかな?」

「し、しかしマンガー・オーブは危険なんだぞ? 実際お主らも経験しているだろう。どんなに細心の注意を払ったところでそれは変わらない!」

「大丈夫! 私結構強いんだから!」


 夏希は力こぶを作る仕草をして強さをアピールする。

 ゲヘナもこれを好機とばかりに、やおら立ち上がって謎の構えをとる。


「私も合気道を中学生までやってたシュコから!」

「いやそれは中途半端過ぎるだろう……」


 夏希はともかくゲヘナのその経験は、確かに自信の根拠としては弱かったのか、援護射撃は皆無であった。


「むむむ……でも、情報面なら私の右に出るものはいないシュコ! 色んなところでバイトしてたシュコから、知り合いの多さは秋葉原でも指折りシュコよ!」

「うむぅ……確かにそれは魅力的だがな……」


 ゲヘナも直接戦うという支援はともかく、現地の情報通という形であれば、カッジェとしても喉から手が出るほど欲しい人材だったようだ。

 ここにきて、初めて腕組みをして悩み始める。

 現地人の完全な形での安全を優先するか、多少の危険には目をつぶっての情報を優先するか、今カッジェの中の(はかり)は揺れていた。

 そして、その傾きを決定的なものとしたのは、好太郎のダメ押しの言葉だった。


「カツジ、いざって時は俺が力を使ってみんなを守るよ。だから安心して俺たちのことも頼ってくれよ」


「……分かった」


 短く、そうこぼされた言葉に、カッジェを除く3人の表情は華やいだ。


「ただし! 絶対に戦闘は避けること、そして独断行動はしないことが条件だ!」


 3人は一様に首を縦に振る。

 カッジェはそれを確認すると、立ち上がり腰に手を当てて堂々たる姿勢で言い放つ。


「よろしい! ならばこれよりこの場の3人にはカッジェ・ニマケーズの名において助勢を要請する! お主たちの安全には、私が一切の責任を持とう!」

「カツジ、責任なんて、そんなに堅苦しくしなくても……」

「いや、ダメだ。ケジメは大事だ。少なくとも私には必要なものなのだ。――これからよろしく頼むぞ、ゲヘナ、夏希、そして好太郎」


「任せるシュコ!!」

「頑張るよっ!!」

「おう!!」


 各々が突き上げた拳に高らかな声が重なった。

 使命を全うしようとする者、償いを求める者、成り行きで協力する者、みんなを守りたいと願う者。

 志はそれぞれ違うものの、4人は同じ方向を向いて歩きだす。


 表現の薄れる世界で、1人きりで立ち向う決意をした少女の戦いに、頼れる仲間が誕生した瞬間だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

これにて2章完結です。

1人使命を果たしにこの世界へとやってきたカッジェに、頼れる仲間ができました!


1週間のスパンでの更新を続けていますので、少しでもご興味をお持ちいただけたらブクマしていただけると嬉しいです!

評価・感想もお待ちしておりますm(__)m


それではまた次回!

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