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Eワールド  作者: 山波アヤノ
Electronic World
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選択

 日が傾いてきた夕刻、カラスの鳴き声の直後にチャイムが鳴った。大学の講義が終わる。今日は情報系の教科が多かったから、あっという間に時間が経ったように感じた。

陸人(りくと)〜。この後予定ある?」

「いや、ないよ。どうした?」

「俺んところの喫茶店来ない?サービスしてやんよ」

「お、いいね。久しぶりに行こうかな」

 館川京(たちかわけい)は僕によくサービスしてくれる。幼馴染み特権みたいなやつだ。僕の母さんと京の母さんは高校時代の親友同士らしく、今もこうして縁がある。

 いつもなら飛びつくのだが、今回ばかりはそうはいかない。

「あ、でも、学校で課題レポートを終わらせたいから、その後でもいい?」

「おうよ。んじゃあ、終わったらメッセージよこせよ」

「了解。それじゃあ、後で」

 課題の締め切りまではそれなりに余裕がある。しかし、僕は昔から面倒なことは先に終わらせたいタイプなのだ。京も僕の性格を熟知しているから、多分問題ない。


 そのレポートを終わらせるために、開放されていたプログラミング実習室に行った。

 そこでちょっとした違和感を感じた。普段は少なくとも二、三人はいるのだが、誰もいないのだ。

「珍しいこともあるんだな」

 独り言も部屋の中で虚しく反響する。

 ここであれこれ考えてもしょうがないので、適当に近くのパソコンを起動させて、そこに座った。


 そこでまた、変なことが起こった。

 ユーザー名とパスワードを入力しても一向に起動しないのだ。ただ待っているだけでも時間の無駄なので、本を読んで時間を潰すことにした。

 三十分が経っただろうか。まだ起動しない。いつもなら、どんなに遅くても十分で起動するのだが。

 そう思った矢先、画面が切り替わった。

 しかし、その画面はどこかおかしかった。


 ──そこに移っていたのは、僕のLINEのトーク画面だった。

 しかも、過去に消したはずの、中学時代のものだ。


 メッセージを上から読んでいけば


 ──死ねよ


 ──消えろ


 ──学校来んな


 など、嫌になる言葉だらけ。

 僕は中学二年の頃にいじめられていた。暴力事件までに発展したこともある。病院に運ばれたこともあった。

 しかし、なぜこのタイミングで忌々しい記憶を呼び起こしてくれるのだろうか。文句の一つでも言わなければ気が済まない。

「……ふざけるんじゃねぇ」


 言った直後、ゾッと寒気がするウィンドウが出てきた。


『あなたは、この世から消えますか?』


 多分、さっきのいじめのメッセージから判断したのだろう。

 でも僕がゾッとしたのはウィンドウの文ではない。 その下にある選択肢はは『はい』と『いいえ』ではなくて、『はい』か『イエス』だった。加えて、右上のバツもないからウィンドウを閉じることができない。

「新手のウィルスか?」

 ひとまずパソコンの電源を切ったほうがいいと判断した僕は電源ボタンを押した。


 何分だっただろうか。いくら待っても画面が消える気配がない。正直、気味が悪い。

「仕方ない。主電源を落とすか」

 学校には後で謝るとして、やむを得ずコンセントを抜くことにした。

 他のパソコンの電源を切らないよう、しっかりとコードを確認してから引き抜いた。


 ……。

 …………。

「……どういうことだ」


 電源が落ちない。確実にパソコン本体から出ているコードは全て抜かれている。その証拠に、僕はそれを手に持っている。このパソコンが外部から電源を供給されるはずがないのだが。

 すると、不気味なパソコンは、またウィンドウを表示させた。

『無駄です。選択してください』

「ひぃ……」

 もう恐怖を感じることしかできない。直ちに先生に報告した方がよさそうだ。

 僕は教室のドアを開け放って──

「……!?」

 ドアが開かなかった。決してパントマイムをやってるわけではなくて、鍵がついていないはずのドアが全くビクともしなかった。なにか遮るものがあるのかを疑ってあたり一面を見回したが、何もなかった。外面だけは普通のドアだった。

 衝撃のあまり、その場で腰を抜かしていた。心なしかパソコン本体から出る冷却装置の音が大きく聞こえる。視界も徐々に暗くなってきている。光の粒が見えたと思えば、自分の体が徐々に粒になって上昇していることに気がついた。

 ウィンドウには、畳み掛けるように次々と表示されている。

『選べ』

『この世から消えるのか』

『電子世界で生きるのか』


 ──生きたい。この世で生きていたい。何でこんなことになるんだ。

「……ふざけるんじゃねえよ!何でこんなことになるんだよ!」


 しかし、そんな叫びも虚しく、ウィンドウは『選べ』をずっと映している。


 ──なんで……なんで、こんなこと…に……


 ◇


 目が覚めた。そこには見慣れた白い天井があり、見慣れたカーテンからは光が漏れていた。


「……夢オチかよ」

 そう考えることしかできないくらい、そこには普通の朝があった。


 別に変わったところは何もない。家中を見ても違和感もなく、部屋に何の異常もないし、トイレも風呂もキッチンも普通だ。ただ、リビングにニャルラトホテプ星人みたいな、身体中に目がついてる魔物がいるくらいで────

「…………」

 もはや言葉にもならなかった。目の前にいるのは魔物。どのように形容すればいいのか皆目見当もつかないほど気持ち悪い生物(?)だった。


(なんだよ…夢なのか、これは!?)

 自問自答したいると、向こうから先制攻撃を仕掛けられた。触手(?)のようなもので僕の胸辺りを狙ってきた。

 咄嗟に避けたが、かすってしまって腹に当たった。

「──っ!」

 かすっただけなのに、着ていた白い服の一部が破けて、血が出てきているのがわかった。

 遅れて痛みがやってくる。

 耐えきれず呻いていた、その時だった。


 次の瞬間には、その生物が消滅していたのだった。


 ──わからない。ここがどこなのか。一体あの生物は何なのか。

 わからないから、外に出なければいけないと思った。

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