小さな魔女
美しい夜
美しい時
こちらとあちらの世界が一つになる
扉が開くよ、さあ
今宵 全ては世界に歌う
踊ろう、輪になって
輪になって
そうして世界を讃える歌の一部になりましょう
* * *
小さな魔女が部屋を訪れると、詩人のウタは新しい詩を造っている所でした。
「こんにちは。ウタ」
難しい顔をして虚空を睨んでいるウタにそっと声をかけると、ウタは頭を振りました。
「ううっ。駄目だ。いい感じだったんだけどな」
「邪魔しちゃった?」
「そうとも言えるし、そうではないとも言える。君が来なかったらずっと頭をひねってたと思うけど、『詩の感触』が遠くに行きかけてたからね。こうなったら無駄な努力になっていたであろう。おまけに私はちょうど、腹が減ってきていた所であった。
ナイスタイミングだよ、魔女さん。お茶しよう、お茶」
ウタはにっこり笑って言いました。小さな魔女はすすめられた椅子にちょん、と腰掛けるとウタに尋ねました。
「『詩の感触』って?」
「インスピレーション。あのね、魔女さん。詩にも『本物の詩』と『ニセモノの詩』があるんだよ」
魔女は目を丸くしました。
「そんなのが、あるの?」
「魔女にはない? 『本物の魔法』と『ニセモノの魔法』が?」
「う〜ん……。あたし、まだ修行中だから、良くわかんない」
小さな魔女は答えて首をかしげました。
「お師匠さまはよく言ってるよ。『本物の魔法を使う、本物の魔女になりなさい』って。でもあたし、『本物の魔女』でしょ? だったら、あたしの使う魔法は本物に決まってるじゃない。どうしてお師匠さまはそんな事言うのかな」
「そりゃあきっと、魔女の中にも『本物でない』魔法を使う人がいるからじゃない?」
ウタはレーズンの入ったバタークッキーと、ミントと蜂蜜入りの温かいミルクを出しながら言いました。
「『本物でない』魔法?」
「私は詩人だから、良くはわからないけどね」
ぱくん、とクッキーを口に放り込むと小さな魔女は言いました。
「ね、これってソウルケーキ? ハロウィンのお菓子の? シナモンが足りてないけど」
「今夜はハロウィンだろ? 造ったんだ。じきに、近所の子供たちがお化けの恰好してやってくるからさ。
今夜については私も楽しみにしてるんだよ。世界の境界線が薄くなる日だしね。精霊たちがこの世にやって来て、力をもたらす。世界が自分の秘密をそっと明かしてくれる日だ。だから霊感がわかないかと、ね。
私の所には一足早く、魔女が来てくれたけど」
小さな魔女はちょっと赤くなりました。魔女と言っても、たいした魔法はまだ使えない見習い魔女だったのです。
「えっとさ。『本物』の詩と『ニセモノ』の詩とはどう区別をつけるの?」
なんとなくごまかしたい気分になって魔女が尋ねると、自分の分のクッキーをかじりながらウタが答えました。
「あのさ。この世の中にはたくさんの詩人がいるわけ。でも『本物』の詩人はとっても少ないんだ。
どんな詩人だって、詩を書こうと思えば、色んな詩が書ける。でもね。『自分』に囚われている内は、『本物』じゃないんだ」
「『自分』?」
ウタは頷きます。
「『本物』の詩は、君たちの言う『魔法』と同じ力を持つんだよ。でもその力は、『自分』が造ったものじゃない。感謝と尊敬の心を持って世界に立った時、世界から聞き取れて、見つけられるものなんだ。世界から与えてもらった力なんだよ。
だから、この詩は『自分』ひとりの力で出来上がったものだ、なんて威張ってると、その詩はニセモノになっちゃうんだよ。だって詩は、『世界』の中の『夢の力』を『詩人』というパイプを通して人間の言葉に直しているものなんだからさ」
「ふうん。ほんとに魔法と似てるのね。お師匠さまも同じ事言ったよ、前に。
魔法って、自分の力じゃなくって、世界を尊敬して、世界を好きになって、世界にありがとうを言える気持ちになった時に、精霊たちからもらえるものなんだって。そんな時にもらえる力は一番強くって、どんなものにも負けないんだって」
「世界を好きになることは、自分を好きになる事にもつながるからね」
ウタは言いました。
「逆を言えば、自分を本当に好きじゃない人は、世界の本当の姿が見えなくなるんだよ。こんなにとっても素敵で不思議で、きれいなものなのにね!」
「ねえ、でもウタなら絶対、『本物』の詩が書けると思うよ。『本物の詩人』だと思うよ。だってこうして話してても、ウタの言葉って嘘じゃないもの。ニセモノの言葉じゃないもの。ちゃんとあたしに伝わってくるよ。
それでもなれないの?」
ウタはにっこり笑いました。
「小さな魔女さん。『本物の詩人』はね、一度『本物』の詩を造ればそれでおしまい、てわけではないんだよ。
一つの詩を造ればもう一つ。もう一つの詩を造ればもっともっと。毎日前へ進もうって、毎日もっと世界を好きになって、世界のしゃべっている言葉を良く聞こえるようになろうって、朝、目を覚ますたびにそう決心し続ける人の事なんだ。
もちろん、どうしようもない時もある。一度『本物』になれたはずなのに、いつの間にか『ニセモノ』しか書けなくなっていたり、とっても辛くて苦しくて、書くのをやめようかと思う時もある。
でも、どんな詩人もみんな、心のどこかで『本当の詩』を探しているし、それは『本物』につながる道なんだ。
私はそうし続ける。詩人だからね」
魔女は、まばたきをしました。
「じゃ、やっぱり魔法といっしょだ。あたしたちの修行も終わる事がないの。お師匠さまだって、ずうっと修行を続けてるの」
そこでへへっと笑うと、小さな魔女は言いました。
「でもさ、あたし、あんまり出来が良くなくってさ。今日だって、怒られちゃったの。で、さ。魔法やめちゃおうかって、思ってここへ来たんだけど」
「今は?」
「元気になったー!」
ウタはにこにことして、言いました。
「私も君の顔を見てたら元気になったよ。『本物』の詩めざしてもう一回チャレンジしてみよう。
ね、ほら。こんなのも魔法なんだよ、魔女さん。君の『にこにこ』が私の心も楽しくしてくれた。君は『本物の魔女』だよ。こんな魔法が使えるんだから。保証する、これは『本物』の魔法だ。正真正銘、掛け値なし」
あんな事言ってるけど、本当はウタの方がたくさんの魔法を知ってるんじゃないかしら、と小さな魔女は思いました。だって魔女の楽しい気分は、ウタからもらったものだったのですもの。
* * *
『風邪ひきさんのミルクティー』(←すごく適当な作り方)
材料
紅茶 葉をひとにぎり
牛乳 適当
砂糖 適当
湯 たぶんマグカップ二杯ぐらい
ショウガ 一かけ(すりおろし)
作り方
1.鍋に湯を沸かし、そこに紅茶の葉とをいれて1、2分煮出す。
2.牛乳を加え、牛乳が盛り上がったら火を止める。
3.ショウガを入れ、茶こしでこす。
4.砂糖を加えて甘くする。
ハニー・ミント・ミルクでも書きましたが、牛乳の脂肪分が茶こしにくっついてしまうので、使用後は良く洗って下さい。
『花とハーブのサラダ』
材料
(春)パンジーの花 いくつか
(夏)ナスタチウムの花 6つほど
(秋)チェリーセージやキンセンカの花なんてどうでしょう
(冬)たぶんパンジーが がんばってる
セージ、しそ、バジル、たんぽぽの葉など 季節により手に入るものを適当に
水菜やレタス
りんご、オレンジ(季節のものを。夏みかんは結構おいしかった)
ナッツ類 アーモンドでも松の実でも
作り方
1.ナッツは軽く煎っておき、花以外の材料はざくざく切って混ぜます。みかん類は中身を袋から出して混ぜます。
2.ドレッシングであえます。
3.花を飾ります。
ゆで卵とかツナ混ぜてもおいしい。
ドレッシング
どうせなら手作り。
オリーブオイル、甘酢(面倒な場合はすし酢を使って下さい)を1対2の割合で混ぜ、コショウをちょっぴり入れます。そしてひたすらシェイク! まぜるまぜる。
実はパンジーは食べられます。キンセンカは、花びらをはずして使います。
花はがくをはずして、一度さっと軽く水洗いして下さい。
くれぐれも、使う花は無農薬のものを!(自分で育てたのが一番)
花屋で売っているものは、薬がかかっていたりするので、おすすめできません。