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第6章ー13

「それにしても、ソ連欧州本土への侵攻作戦は、史上最大の作戦の名にふさわしいものですね。後方部隊や補充兵まで含めれば、1000万もの人間を集めるとのことなのですが、本当に可能なのですか」

 土方千恵子は、義祖父の土方勇志伯爵に疑念を呈した。


「かなり厳しい数字なのは確かだな。実際、日本も結局は陸軍と海兵隊を併せて12個師団を基幹として、他に海空の部隊を併せれば、約40万名もの兵力を欧州に送り込むことになった」

 土方伯爵も難しい顔になった。


 千恵子は、義祖父が敢えて口に出さなかった裏事情まで考え合わせた。

 その内の1割どころか、3割近くが台湾出身の兵だ。

 台湾に外交と軍事以外の高度な自治権を認める見返りとして、表向きは志願制、裏では半徴兵制が台湾に施行されることになった。

 兵に志願すれば、様々な優遇があり、逆に志願しなければ、兵に志願していないことを理由に様々な不利が課される。

 これでは、志願兵制ではなく、半徴兵制ではないか、という批判が陰ながら為されるのも無理はない。


(ちなみに陰ながら為されるのは、決して政府の言論統制があるからではなく、それならどうやって兵を日本は確保するのだ、という現実問題があるからである。

 実際、日本国内では兵が徐々に払底しており、20代、30代の健康な若い男性の姿が、ほぼ街中で見られなくなる有様だった。

 だから、台湾に志願兵制、半徴兵制が施行されたのである。


 実際、料亭「北白川」の立板で、土方千恵子の異母姉、村山幸恵の夫は、元海兵隊の下士官だったが、いわゆる名誉の戦傷で片足を引きずるようにより、日常生活に支障は無いが、走れない体になっている。

 それなのに、事情を知らない人から、あの人は何で兵として戦場に赴かないのだ、と陰口を叩かれる有様で、妻の幸恵が慰めているというのを、千恵子は幸恵から聞かされており、そういったことが、世間では珍しくないのを千恵子は知っていた。)


「米国も陸軍と海兵師団を併せて56個師団を欧州に送り込むそうだな。もっとも、米国の場合、荒廃した中東欧の民生回復の為に物資等を大量に送り込む必要がある。そういった面々を含めると300万人近い米国の若者が、欧州に赴くらしいが、わしの記憶で正しいかな」

「ええ。間違いないです」

 義祖父と孫娘は、そう会話しながら、この2国が動員等して欧州に送り込む兵力だけでも、気が遠くなりそうだった。


 例えば、日本が欧州に送り込む約40万人と言う兵力だが、日露戦争終結時に日本が総動員していた兵力にほぼ匹敵している。

 しかも、日本はそれ以外に約120万人を中国本土やシベリア等に展開させているのだ。

 日露戦争時の将帥である大山巌元帥や児玉源太郎大将が、このことを知ったら、墓から飛び出してきて卒倒するのではないだろうか。


 そして、米国の余りにも膨大な国力にも恐怖を覚えるしかない。

 欧州に赴く300万人近い若者に加え、100万人以上の米兵が中国本土に展開しているのだ。

 だが、これだけの動員を行っているにもかかわらず、米国の国力には余裕があるという。

 堀悌吉海相が、先日、土方伯爵に半ば愚痴りに来た際、千恵子が小耳に挟んだのだが。


「艦上機の高性能化に合わせて、空母の建造を進めているのですが、日本はその代りに戦艦の建造を諦める羽目になりました。その一方、米国は相変わらず、戦艦も空母も悠々と建造しています。世界大戦終結後は米国を抑えるために軍縮条約締結が必要です。土方伯には陰で動いていただきたい」

 日本が国力の限界に近い現状になっているのに、米国は二正面で戦いつつ、海軍力整備を行う余裕があるのだ。

 千恵子は米国の国力に気が遠くなるばかりだった。 

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