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第6章ー11

 1942年3月初め、ブレーメン、ハンブルクといった北ドイツの港湾都市の近辺に、かつてのドイツ軍の駐屯地を転用すること等により確保された駐屯地に、日本海兵隊6個師団は展開していた。

 これは徐々に連合国各国の部隊を、ソ連欧州本土への侵攻作戦展開のために三々五々、再編制、再展開する中で行われた移動の一環としてであり、ここに日本海兵隊が集結したことは、本来からすればできる限り、秘匿されるべき話ではあった。

 しかし。


「実際としては、秘匿は無理な話だな。日本海兵隊だと周囲にバレている」

「英のインド軍部隊だと名乗っては」

「確かに有色人種という点では誤魔化せるが、豚肉と牛肉を取り寄せて、食べるインド軍部隊があるか」

「その時点で、インド軍で無いとバレますね」

 戦車整備の合間に、土方勇中尉は、防須正秀少尉に愚痴り、防須少尉も同意せざるを得なかった。


 ちなみに二人の立場だが、土方勇中尉は、第6海兵師団所属の独立戦車大隊に所属する戦車小隊の小隊長(なお、言うまでもなく、その間に戦車中隊もある。)、防須少尉はその独立戦車大隊の修理班(中隊規模)の二人の副班長の内の一人だった。

 戦車はよく故障するものであり、土方中尉は小隊の戦車が故障する度に訪れるのだが、激しい訓練を行っていることもあり、修理班を訪れない日の方が少ない有様だった。

 そして、二人が知り合ったそもそもの経緯(土方中尉の祖父、土方勇志伯爵と、防須少尉の父、ラース・ビハーリー・ボースが知己であり、その縁から防須少尉は、土方中尉を頼った)からして、二人が単なる顔見知りから友人関係になったのは、ある意味、必然的な流れだった。

 そして、そんな話をしている間に。


「修理完了です。問題なく動きます」

「よし」

 防須少尉の部下の整備兵から報告があり、防須少尉が即答する。

 その返答を受けて、土方中尉が戦車の修理が完了したのを自身で確認して済ませた。


「それにしても、ここまで故障が多発するとは、余程の猛訓練ですな。何をしたいのです」

 修理完了を受けて、原隊に戻ろうとする土方中尉を、意味深な眼差しをしながら、防須少尉は尋ねた。

 春になれば、ソ連欧州本土への侵攻作戦が発動される、というのは師団内で公知の事実だ。

 だが、詳細はまだ全然明かされていない。

 海兵隊きっての名門出身、土方中尉なら、何か知っているのではないか、と防須少尉は考えたのだ。


「さあな。父も何も言わないからな」

 韜晦するような口調をしながら、土方中尉は想いを巡らせた。

 防須少尉が気になるのはやむを得ない話だが、こういうのは下手に探るな、と釘を刺すべきだな。

 そうしないと逆にスパイ等の嫌疑を、防須少尉が掛けられかねない。

 特に防須少尉の血縁を考えると尚更だ。 


「防須少尉。気になるのは分かるが、こういうことは、下手に自分から聞いて回るな。耳をすませておくだけにしておけ。そうしないと周囲の誤解を招くぞ。先輩としての忠告だ」

 考えた末に、他の兵の耳に入る程度の普通の声で、土方中尉は防須少尉に言った。

 防須少尉も、その言葉で危険に気づいたのだろう。

「分かりました」

 と大声で防須少尉は言って敬礼し、二人は別れた。


 原隊に戻りながら、土方中尉は想いを巡らせた。

 バルト海沿岸での上陸作戦を自分達が展開するのは間違いないだろう。

 だが、それはあくまでも自分の推測だ。

 それにそれ以上のことが、サッパリ自分にも分からない。


 どこにどれだけの部隊を集結させ、どこに向かって攻勢を展開するのか、更にどのような戦略、作戦が準備されつつあるのか。

 自分の父なら、日本欧州総軍の参謀の一人として、かなりの量の情報を握っているのだろうが。

 土方中尉は、そう考えた。

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