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第5章ー22

 赴任先のウランバートルに待ち受けるものだけで、簗瀬真琴少将の気は重くなるが、北京から離れることも簗瀬少将の気を重くさせるものだった。

 本当に米軍は、中国の人民に寄り添った活動をしてくれるのだろうか。

 簗瀬少将は気掛かりでならなかった。


 簗瀬少将が第56師団長として北京に赴任してから、岡村寧次大将の指示もあり、管轄とされる北京周辺の治安維持、民生回復任務に懸命に勤しんできた。

 その際に岡村大将から言われたのが、統治される中国の人民に寄り添った活動をしろ、ということであり、簗瀬少将もそれを念頭に置いての活動を心掛けた。

 そして、波打ち際に砂の城を作っているような想いをしつつ、ずっと努力を続けて来た結果、中国の人民の抵抗が少しずつ衰え、何とか反日行動を徐々にではあるが、抑え込めつつあるとの実感を、簗瀬少将はようやく覚えつつあったのだ。


 これは岡村大将の指示を受けて、自分達が努力に努めた結果であると簗瀬少将は考えており、このまま我々が北京を始めとする中国本土の統治に当たるのが相当であるとも考えていたのだが。

 この春先に実施される攻勢の準備のための日米両軍の大移動により、北京を始めとする中国本土の統治の大部分が、米軍に委ねられることになってしまった。

 しかし。


 米軍自身は否定するものの、実際には中国本土で共産中国政府の統治下にある都市に対して米陸軍航空隊が無差別爆撃による攻撃を行っているのは、まず間違いない話だった。

 それも基本的には無警告による攻撃である。

 日本空軍が、共産中国政府の統治下にある都市、港に対して、爆撃を行う際には、事前に宣伝ビラを撒いて警告を発した上での爆撃を原則としているのとは対照的な話だった。


 そうしたことから、最近の中国の民衆の間では、反日よりも反米だという空気が醸成されているらしい。

 そして、米軍が力による統治を中国本土で実行してしまっては、反米活動が激発するだろう。

 そうなると、力には力でとなってしまい、ここ何年も中国本土で行ってきた日本の様々な宣撫工作が、結果的には無駄骨になってしまうのではないか。

 そんな危惧を、簗瀬少将は覚えてならなかった。


 余りにも簗瀬少将が物思いに耽っているように、副官には思えたのだろう。

 副官が、遠慮がちに自らに声を掛けてきた。

「将軍、余り思いつめないでください。幾ら将軍が努力してもできないことがあるのです。できないことはできない、と割り切るべきではないでしょうか」

「そうだな。これは一本取られたな」

 簗瀬少将は、物思いに耽るのを止め、少し無理して明るい声を出した。

 副官は、ホッとしたようだった。


「明るい側面を見ないとな。取りあえずは軽便鉄道になる可能性が高いが、ウラン・ウデからウランバートルを経由して北京までの鉄道を敷設する計画がある。我々は、それを支援することにもなるだろう」

「それは雄大な計画ですな」 

 簗瀬少将と副官は、そうやり取りをした。


 簗瀬少将は想った。

 そうだ、この鉄道敷設計画は生かせるかもしれん。

 新たにモンゴルを発展させることに役立つだろう。

 そして、モンゴルが発展すれば、その周囲も発展するだろう。

 暗い側面ばかり考えず、明るい側面も考えよう。


 そう考えを進めると、簗瀬少将の気は少し楽になった。

 ウランバートルで、自分達のできる限りのことをしていこう。

 ここ北京でやったことも、全てが全て無駄になることはないだろう。

 そう簗瀬少将は考えを進め。


「龍をモンゴルの大地で飛翔させたいものだな」

 簗瀬少将は思わず口に出して、龍が飛翔する姿を幻視して笑った。

「そうですよ。龍をモンゴルの大地で飛翔させましょう」

 副官は、簗瀬少将の言葉に大きく相槌を打った。

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