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第1章ー2

少し場面が変わり、この世界の核兵器開発事情の説明になります。

 少し話が戻る。

 1940年の春のことだった。

 日本の陸海軍の一部において、核兵器の開発可能性が論じられるようになった。

 何しろ、独にはハイゼンベルク等の優秀な科学者がいる。

 更にソ連にも、原子物理学における世界の第一人者の一人、英国のモーズリーの弟弟子、カピッツァ等がいるのである。

 陸海軍内部において、独やソ連が核兵器を開発保有して、使用したら、という懸念が生じ出し、政府、軍の上層部に対して、その危険性と対策(こちらも核兵器を開発すべき)を訴えた。


 そして、政府、軍の上層部で検討した末、核兵器の危険性の周知を政府、軍の上層部で図ると共に、大河内正敏率いる理研に対して、核兵器開発の可能性を委託研究させることになった。

 それ故、千恵子はこの時点で知らなかったが、千恵子の義祖父の土方勇志伯爵は、貴族院の重鎮議員の一人として、また、退役したとはいえ海兵隊の元トップとして、核兵器開発の可能性を日本が探り出したことを知らされた。

(核兵器開発には膨大な予算が必要と、当初から見積もられており、予算を組む必要上から、国会議員全員に知らせる訳には行かないが、重鎮議員にはこういう事情で予算が必要だ、と政府、軍としては内々に説明しておく必要があった。)


 ところで、何故に日本政府、軍の上層部は、この件を理研に委託研究させることにしたのか。

 それは、この当時、日本国内で最も優秀な科学者が集っていると言えたのが、理研だからだった。

 特に理研の研究室の一つ、仁科研究室を主宰している仁科芳雄博士は、ボーア、ハイゼンベルクといったノーベル賞を受賞した世界超一流の科学者と共同研究を行ったことがある優秀な科学者であり、その傘下には、湯川秀樹、朝永振一郎といった優秀な科学者も集っていた。

 後に「連合国の核兵器開発に際して、その成功をもたらしたのは、日本の理研の仁科研究室もその一翼を担ったからである」と称えられるのもそれ故だった。

 とは言え。


 理研の仁科研究室の委託研究の結果、1940年7月の段階で、原子爆弾の開発、製造は可能であるとの結論は下されたのだが、日本単独では無理な可能性が高い、ということも結論にもなってしまった。

 技術的には可能でも、そのために必要な資材、資金を確保しようとすると、どう少なく見積もっても連合艦隊をもう一つ作れるくらいの予算が必要な公算が高く、数年の内に製造しようとすることは、日本の国力ではとても無理、という結論に仁科研究室は達してしまった。


 更に原子爆弾製造に必要なウラン確保の問題もあった。

 当時の日本国内には、充分なウラン鉱山が無く、英米仏等の友好国から輸入するしかないが、そういうことをしては、英米仏等は、日本が核兵器開発を行っていることをかぎ付ける公算が高かった。


 更にこの頃、日本軍情報部は、英国も核兵器開発をMAUD計画の名の下で検討しだしたことを掴んだ。

 ちなみに皮肉なことに米国は、この時点では日英に核兵器開発計画については出遅れていた。

 英国は、モーズリーを事実上のトップに据えて、核兵器開発に乗り出していたのだ。


(ちなみにモーズリー自身は、自身の回想録等によると、英国が核兵器開発を進めることを嫌がっていたらしい。

 人道的な問題もあったが、同じラザフォード教授の下で研究したカピッツァがソ連にいたからである。

 モーズリーはラザフォード教授の最愛の長男と謳われており、カピッツァはラザフォード教授のお気に入りの末っ子といわれていた。

「同じ父の膝下で育った兄弟が、母(祖国の暗喩)が違うからといって何故に敵対せねばならないのです」

 とチャーチル英首相に、モーズリーは直接に訴えた、という伝説まである。)

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