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第5章ー8

 右近徳太郎中尉は、部下と共に1941年10月半ば、ウラン・ウデの市街地を観望していた。

 後方に不安を覚えながら、ここまで自分達は前進してきた。

 チタを攻囲に止めていることから、陸路による補給は十二分とは言い難く、空路からの補給さえ行われるというのが現実だった。

 それなりに歴戦の士官となっている右近中尉にしてみれば、空からの補給はそれなりに見聞してきたものだったが、初陣の兵達にしてみれば物珍しいもので、空から届く物資に当初は歓声を挙げていた。

 それは、他の日本軍部隊でも見られた光景だった。


「全く20年以上前からやっていることだぞ。そんなに驚くな」

 西住小次郎大尉は、空からの物資補給に歓声を挙げる補充兵をたしなめつつ、周囲の警戒を怠らなかった。

 内心では、部下の気持ちが無理もない、と分かり過ぎている。

 戦車兵は歩兵以上に補給に敏感になる。

 何しろ燃料が切れれば戦車は動かないし、少しでも自走すればどこかがすぐに壊れる。

 壊れたら、修理の部品等が無いとどうにもならず、戦車は鉄の置物と化してしまう…


「それにしても外蒙古からも部隊を引き抜いてきた、という噂は本当のようだな」

 西住大尉は、目配りを怠らないようにしつつ、内心で想いを巡らせた。

 日本の4個機甲師団が、ウラン・ウデの攻略に取り掛かろうとしている。

 この攻撃を外部から打ち破ろうと、外蒙古方面から2個狙撃(歩兵)師団がこちらに向かっているという情報が、上層部から流れており、西住大尉はこれへの対処に差し向けられていた。

 情報の確度がかなり高い、と上層部は考えたのか、ウラン・ウデの南に西住大尉が中隊長を務める戦車中隊を控えさせたのだ。

 とは言え、今のところの任務としては。


「航空偵察からの情報を信じる限り、今のところ、ソ連軍が急襲を仕掛ける気配はない。おそらくはある程度の部隊を揃えた上で、内部と外部と連携しての攻囲網打破を図るつもりだろう。だから、今はまだ防御陣地を作って、ソ連軍の攻撃を待てばよい」

 そう西住大尉は考えて、ソ連軍の南方からの攻勢を警戒していた。

 だが、その思惑はすぐに崩れた。

 ソ連軍に攻撃を急ぐ理由が出来たのだ。


「こちらはウランバートルの放送局です。臨時ニュースを申し上げます。我が外蒙古政府は、ソ連との外交関係を全面的に断絶し、対ソ宣戦を布告しました。併せて日米等の各国政府に救援を求めます」

 ウランバートルのラジオ放送は、10月20日早朝、緊急のラジオ放送を繰り返していた。


「チョイバルサンがソ連を見限った」

「いや、チョイバルサンは暗殺された」

「外蒙古軍の一部がクーデターを起こした」

 各国の政府、軍の上層部では思わぬ放送に混乱した。

(後に、外蒙古の首都防衛旅団長がクーデターを起こし、チョイバルサンを暗殺して、放送局を占拠してこのラジオ放送を流したという事実が判明するが。)


 だが、戦場では真実等、取りあえずはどうでもよい。

 ウランバートルからウラン・ウデの救援に向かっていたソ連軍は、自分にとっては味方の筈だった外蒙古軍の攻撃を警戒せねばならなくなった。

 更に徳王率いるモンゴル民族主義者の遊撃軍も外蒙古軍と共同攻撃を仕掛けてくる可能性すらある。

 

 ソ連軍は、充分な準備を整えないままでのウランバートルからウラン・ウデへの攻撃実施を決断した。

 それによって、ウラン・ウデの守備隊と合流して兵力を増し、イルクーツクでの防衛線に賭けることを決めたのだ。

 外蒙古政府が寝返った以上、ソ連軍の防衛線に大きな綻びが開いたといってよかった。

 その綻びを防ぐためには、少しでも兵力を集めての機動防御を行うしかない。

 そうソ連軍の司令部は考え、早期の攻勢を決断したのだった。

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