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第4章ー8

「シオニズム運動の指導者達からすれば、英政府は自分達を裏切った。更に米日仏等の連合国は、英に加担している、そして、我々にとってはパレスチナ以外に安住の地は無い、という理屈で、パレスチナに中東欧から亡命してきたユダヤ人を送り込んでいるという訳か」

「その通りです。更に言うなら、ロシア帝国以来のユダヤ人迫害を続けているソ連や反ユダヤ主義を唱えたナチスドイツの後身である民主ドイツと、シオニズム運動の指導者達が手を組むことは無いでしょうが、イスラム教徒を攻撃する以上は味方の敵は敵という対応を、最悪の場合にはシオニズム運動に対して我々は取らざるを得なくなりかねません」

 米内光政首相と吉田茂外相は更に深刻な会話をした。


「いっそのこと、ユダヤ人に妥協して、パレスチナへのユダヤ人入植を大幅に認めるという訳にはいかないものだろうか」

「それは却ってアラブ人、イスラム教徒の怒りを買います。聖地エルサレムにユダヤ人が大量に入植して、ユダヤ人だけのものにするのは決して許されない、というのがイスラム教徒の大多数の意見です。ソ連打倒の為にイスラム教徒をこれまで懐柔してきたことが無になりかねません」

 米内首相の考えを、吉田外相は一蹴した。


「厄介だな。軍情報部長の前田利為中将は、もっと厄介な情報を持ち込んでいる」

 米内首相は半ば独り言を言った。

「どんな厄介な情報ですか」

 吉田外相は興味を覚えて尋ねた。


「パレスチナに武器が持ち込まれているというのだ。様々なルートからな」

「様々なルートとは」

「例えば、パレスチナのアラブ人には、サウジアラビア等のアラブ諸国から大量の武器が政府の半ば公認の下で、送り込まれているらしい。一方のユダヤ人には、シオニズム運動の指導者たちが、それこそ犯罪組織と手を組んでまで、武器を送り込んでいる。断っておくが、さすがに軍用機や戦車といった目立つものは、お互いに送り込むだけの覚悟を固めていないし、英領パレスチナの官憲も阻止しているようだ。だが、小銃や手榴弾程度のものは、密輸と言う形で大量にお互いにパレスチナに送り込んでいるらしい。お互いに相手が武装している以上、自衛用の武器がいるという理屈をつけてな」

「厄介ですな」

 お互いにため息が出る話ばかりだった。


「イラン、イラク国内の反英、反連合国活動を、ようやく何とか出来たと思ったのに、そういった状況にパレスチナは陥りますか。先の世界大戦勃発前に、バルカン半島はヨーロッパの火薬庫、と謳われていましたが、今やパレスチナは中東の火薬庫ですな。そして、今やインドまで不安定化しつつある」

 吉田外相は頭が痛いようだった。


「一番、頭が痛いのが、チャーチル英首相だろうがな。正に世界中で英は軍事力を行使しなければ収まらなくなりつつある。香港、シンガポール、マレーシアといった辺りの治安維持に関しては、日本に完全に任せたい気分ではないかな」

「勘弁してほしいですな。泉下の東郷平八郎元帥が蘇ってきて喚きそうですよ。だから、日英同盟はさっさと廃棄すべきだったと」

「古い話を持ち出すな」

「あれは私怨が絡んだ発言ではありますが」

 吉田外相は少し気分を変えようと軽い冗談を言った。


 先の世界大戦で、日本は海兵隊を中心とする部隊を欧州に送った。

 そのために戦艦の整備が大幅に遅れることになった日本海軍の一部は、東郷元帥を旗頭に日英同盟廃棄論を唱えたのだ。

 いざという時に自分の身も守れないほどに零落した同盟国は不要、有害だという理屈である。

 最も、そんなことを言い出したら、日露戦争時の日本はどうなのだ、という反論の方が圧倒的に強く、未だに日英同盟は日本の安全保障の背骨になっている。

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