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第4章ー2

 というのが表向きの顔だが、実際には革命家の血が全く冷めてはおらず、裏ではインド国民会議派にとって外国の有力な支援者の一人であり、大幅な資金援助等を行っているらしい、という噂が、土方勇と結婚する以前の篠田千恵子と名乗っていた頃の千恵子にさえ流れてくる程の人物でもあった。

 そのラース・ビハーリー・ボースが、何故、土方勇志伯爵と個人的な知り合いなのか。


 それは、ボースが犬養毅元首相の知己であったこと、更にその縁で林忠崇侯爵を経て、土方伯爵ともつながるという長年の人脈によるものだった。

 それに、これはお互いに利益があった。


 ボースにしてみれば、インド国民会議派の日本のいわゆるスポークスマン的役割を果たす際に、どうしても有力な政治家とのつながりが必要だった。

 土方伯爵自身の力はそう無いが、米内光政首相に直に密談できる数少ない政治家の一人であり、国内外の知己も多く、日本の政界における影の有力者と言えた。

 一方、土方伯爵にしてみれば、ボースはインド情勢を知る際の個人的な有力な情報源だった。

 こうしたことからお互いに親交を深めていたのである。

 とは言え、二人の会話を初対面でいきなり横で聞かされた千恵子にしてみれば、顔が強張る話が飛び交う羽目になった。


「お嬢さん。このお爺さんに気を許してはダメですよ。幾ら身内でも油断してはダメ。母を幼くして亡くした可愛い私の息子は、このお爺さんに人質にされて、欧州で戦う羽目になりました」

「人聞きの悪いことを言うな。早稲田大学の海兵隊の予備役士官過程に息子が入学を希望しているので、その推薦人になってほしいと言って来たのは、そちらだろうが。そもそもその発端になったのは、インドの国民会議派系の武装組織に武器を提供しようとお前らが画策したことだろう」

「インド独立の大義の為に、武器を提供するのは、私にとっては当然のことです」

「そういうことは、立派な犯罪だ。英政府の猛抗議を宥めるのに、日本の外務省がどれ程苦労したと。資金援助なら目をつぶれるが、武器援助はさすがに見過ごせるか」

「全く頭が固い。もうしません、とあの時に謝罪して、誓いまで立てたのに、それだけでは信用できないといって、息子を日本の軍人にしろ、と暗に言われました」

「そうでもしないと、英政府の怒りを宥められるか。全く菊の御紋入りの銃火器をインドに売り込もうとするとは、本当にインドに到達していたら、日本はインド独立を公然と後押ししているという誤解が世界に広まるところだった」


 二人のやり取りは、当人同士は半ば冗談交じりの口喧嘩なのだろうが、千恵子は胃が痛くなった。

 とは言え、いい加減には止めないと。

 千恵子は、二人の会話に介入して、何とか話を止めさせることにした。

「ここに私を連れてきた本題の話をしてもらえませんか」


「インドからいわゆる中近東、パレスチナに至る地域について、ボース氏からの情報提供を受け、それと新聞等の公開情報を併せて分析してほしい」

 土方伯爵が本題の話にようやく入った。

「私も仲間に対する仁義があります。知人になら話せるが、日本の外務省の役人や陸海軍の軍人には話せない情報がある」

 ボースが言った。

「それに息子を半ば人質に取られたのは事実ですが、息子を海兵隊士官にしていただき、それなりに配慮していただいたことには感謝しています。そのお礼もあって、情報を提供しましょう。それにしても、こんなお嬢さんに話していいのですか」

「ああ、孫の嫁は頭が回る。情報分析にかけては一流だ。インド等の情報について、話せる範囲で話してくれ」

 土方伯爵は、ボースの疑問に答えた。

「よろしくお願いします」

 千恵子は、ボースに頭を下げた。

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