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第4章ー1 インド及び中近東情勢

第4章の始まりになります。

 そんな悪戦苦闘を義弟のアラン・ダヴー大尉が、当時していることを知る由も無く、土方勇中尉は思わぬ来訪者に戸惑っていた。


 1942年1月上旬、対ソ本土侵攻作戦準備の為に、日本からこれまでの損耗を補うために続々と補充のための将兵が駆けつけていた。

 春には対ソ本土侵攻作戦が発動されることを考えると、本当に時間が無い。

 そのために補充のために送られた将兵は、辞令を受け取り次第、所属部隊の駐屯地に向かうのだが、そうは言っても色々と軍隊という官僚組織では人脈というものがある。


 そのために先輩、後輩と言った関係、同じ郷里出身といった関係等々、人脈を辿った来訪者が、補充の将兵と言う形で現れるのは稀ではない。

 しかし、その人物は土方中尉にしてみれば初対面もいいところだった。

「防須正秀と言います。この度、海兵隊少尉として任官しました。ご指導をよろしくお願いします」

 どことなしに異邦人という風情を漂わす早稲田大学の予備役士官過程出身のこの新人少尉の挨拶に、土方中尉は目を白黒させ、

「どこでお会いしましたか。どういうつながりでしょうか」

 と半ば問いただす羽目になっていた。


 さて、この人物の正体だが。


 先日、岸忠子と村山幸恵の下を訪問した土方千恵子は、思わず身を固くしていた。

 義祖父の土方勇志伯爵から、

「中村屋のカレーをお前と食べに行くから、特別室を準備するように電話で予約してくれ。お前に逢わせたい人がいる」

 そう言われて、千恵子は電話で中村屋に予約を入れた。


 千恵子は以前に中村屋のカレーを、伯父の篠田正らと共に独身時代に食べたことがあり、気に入ってはいたが、義祖父と共に来るのは初めてで、逢わせたい人がいると言われて、尚更、気を回す羽目になった。

 義祖父と共に入った部屋は、特別室の筈だが、ただの奥の個室に過ぎず、千恵子は首を捻った。

 更にその人の為だろう、3人分の準備がしてあったが、その人の気配がしない。


 誰と逢うのか、千恵子が義祖父に尋ねても、

「逢えば分かる」

 の一点張りだった。


 千恵子と義祖父が、席に着くと、インド人らしい異邦人が個室に入ってきた。

 千恵子が、新聞か何かで見た覚えがある、と記憶をたどっていると、その人物から自己紹介があった。

「お久しぶりです。土方伯爵。そちらはお孫さんですかな」

「いや、孫の嫁の土方千恵子です」

「それは残念だ。独身なら、私の息子の嫁にしたいと思ったのに。ラース・ビハーリー・ボースです。よろしくお願いします」


 ラース・ビハーリー・ボース。

 その名は、千恵子の記憶の奥底からその人物についての評判を思い起こさせた。

「初めまして。土方千恵子です。まさか直にお会いすることがあるとは思いませんでした」

 そう挨拶をしながら、千恵子は驚嘆していた。

 義祖父の手はどこまで長いのだ、こんな人物と密談できるとは。


 ラース・ビハーリー・ボースとは誰か?

 現在でこそ日本国籍を取得し、防須家の戸主にもなっているが、元々はインド独立を目指す志士、革命家の一人でインド国民会議派の一員でもある。

 余りに過激な活動をしたため、1915年に日本に亡命のやむなきに至り、その後も英政府から身柄の引き渡し要請があった程だった。


 だが、日本で犬養毅等の有力な知己(中には孫文までいたという)がボースにはできて、その知己が周囲に働きかけたことから、日本政府がボースを保護して受け入れる代わりに、ボースを決して日本から出国させない(要するに英からすれば国外追放処分)ということで日英間の妥協がなった。

 その後、ボースは中村屋を経営している相馬家の娘、俊子と結婚して日本国籍を取得し、インドカレーを日本に伝える等、日本とインドの架け橋になっていた。

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