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第3章ー15

 そんな経緯を経た末に、スペイン青師団は編制されていった。

 皮肉なことに西サハラ行きを免れようと、かつての共和派支持者の家族の多くが志願しており、師団どころか容易に3個師団から成る軍団にスペイン青師団はなるのでは、と国内外から見られている。

 そのために、米英仏日等の連合国にしてみれば却ってスペインへの兵器供給が重荷になりかねず、バーター取引等で入手した独製の兵器をスペインに喜んで提供するという皮肉な事態が発生していた。


 こういった経緯の末に編制された部隊の訓練を、1942年の1月上旬において、アラン・ダヴー大尉は視察し、また、自らの戦訓を踏まえた助言を与えていたという次第だった。

「全く我らが父のように歩兵師団にも戦車大隊を配置すべきでしょうに」

 ダヴー大尉の横で、フリアン曹長は日本語で悪態をついていた。

「無茶を言うな。そんなことをスペインがしたい、と言っても連合国側にそんなことを言うなら、金を払えと言われるのがオチだ」

 ダヴー大尉も、先のブダペストでの任務でスペイン本国に振り回されたことから、半ば皮肉を交えて答えるしかなかった。


 取りあえずは、スペイン青師団は妥協の末に各師団に三号突撃砲54両からなる突撃砲大隊1個を配備する方向で動いている。

 また、各師団の砲兵連隊には独製の105ミリ砲36門と150ミリ砲12門を自動車牽引により装備させる方向になっていた。

 師団の中核をなす歩兵連隊を構成する歩兵中隊には、近接火力発揮の為に50ミリ軽迫撃砲を装備した軽迫撃砲班と、対戦車戦闘用に最近流行りとなっている携帯式対戦車ロケット砲を装備した対戦車班を配備する等の配慮もされている。


 ダヴー大尉からすれば、これで何とか青師団は、ソ連軍の狙撃師団と対等に戦えるだけの額面戦力になるのでは、と信じたいレベルだった。

(もっとも、スペイン青師団の装備を聞いたイタリア軍の上級士官の多くにしてみれば、ぜい沢だと怒ったレベルの歩兵師団の戦力でもあった。

 なお、1941年秋から1942年春の事実上の停戦期間中に、イタリア陸軍の歩兵師団は、いわゆる二単位師団から三単位師団に順次改編する等の対策が施されており、多少はまともになって対ソ戦に投入されることになる。)

 もっとも、肝心の兵のレベルが、この当時のスペイン青師団にはどうにもならなかった。


 既述のように一部の志願兵は熱狂していたが、やる気はあっても兵の質としては平均がやっとだった。

 それ以外の、いわゆる身の証を立てるために志願せざるを得なかった兵に至っては、ダヴー大尉の目からすれば、絶望的に士気が低かった。

 スペイン青師団の教官役までも、現在のダヴー大尉は果たす羽目になっているが、これで大丈夫か、と内心の不安は高まるばかりだった。

 そんなことから。


 気分を多少変えるために、ダヴー大尉は妻から渡されたロケットを開くことが増えていた。

 フリアン曹長は目ざとくそれに気付いていた。

「奥さんとお子さんですか」

「ああ、早く逢いたいものだ」

 フリアン曹長の問いかけに、ダヴー大尉はそう答えたが、内心は別の事を考えてもいた。

 カサンドラ(・ハポン)、そして自分の子はどこにいるのだろうか、いつか逢えるだろうか。


「羨ましいですね。そんなに大好きな妻子がいるなんて。自分も早く家族の下に還りたいものです」

 ダヴー大尉の本心に気付かず、フリアン曹長はそうダヴー大尉に言った。

 そんなやり取りを耳にしたスペイン青師団の将兵は、ダヴー大尉の事を大の愛妻家と誤解し、周囲に広めていき、いつか誤解に満ちた噂話が、カサンドラ・ハポンの下に届くことになった。

 そして、誤解を解くのにダヴー大尉は大汗を後に掻いた。

 これで第3章は終わり、次からインドから中近東についてのこの世界の現在の情勢を描く第4章になります。


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