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第3章ー10

 ジョルジョ・ペルラスカは、アラン・ダヴー大尉らとスペイン大使館にたどり着いた後、ユダヤ人の窮状に同情し、持参していた現金をはたいてまで、スペイン大使館員と協働してユダヤ人救援に奔走していたのだ。

 そして、ペルラスカは自分の言葉を守り、スペイン大使がハンガリーから出国した後、スペインの偽領事として、ユダヤ人保護に当たった。


 また、言うまでもなく、スペイン大使が去った後のスペイン大使館員もペルラスカに協力した。

 ある一人の書記官は、この時のことを次のように取材者のアンネ・フランクに答えている。

「目の前のユダヤ人を救わねばならない。しかし、そうなると誰かが命令違反の責任を取らねばなりませんでした。でも、私達には責任を取るまでの覚悟が無かった。そこにペルラスカさんが現れ、私が責任を取ります。皆さんは騙されたことにしてください、と言われました。私達は喜んで騙されることにしたのです。何しろスペイン本国からはこれ以上のユダヤ人受け入れは拒絶する、と外交公電で最後には言ってくる有様でした。つまり、我々のしたことは本国の命令を無視したことだったのです。公務員はいかなる理由があろうとも、法律、命令に疑問を呈さずに従わねばならないのか、それとも、法律、命令であっても人間的価値に反する行動を取ってはならないのか。目の前のユダヤ人を救いたいと苦悩していた我々にとって、ペルラスカさんの存在は、ある意味、救いに他なりませんでした」


 かくしてペルラスカを仮領事として、スペイン大使館は活動を続けた。

 スペイン大使はハンガリーでの任務で神経衰弱になって帰国できない病状だ、といってウィーンで入院して面会謝絶になることで、ペルラスカらの行動を側面支援した。

 言うまでもなく、当時のウィーンは主に伊の軍政下にあり、更に仏軍の一部も駐屯していて、スペイン本国政府が、スペイン大使への事情聴取等、何かしようにもできない状況だったことから、そのような行動をスペイン大使は取ったのである。


 スウェーデンの外交官、ラウル・ワレンバーグが、ハンガリー人の暴徒の集団に殺害される等、この時のハンガリーでのユダヤ人救援活動は実際に救援に当たった中立国の外交官にとっても危険な行動となった。

(なお、この時のワレンバーグ殺害事件には裏があるという説が根強く、21世紀になっても未だに真相はこうだという陰謀論がささやかれている。)


 だが、この救援活動によって、第二次世界大戦前に80万人余りいたハンガリー在住のユダヤ人の内70万人近くが1941年11月までにハンガリーからの出国に成功したのだ。

 だが、その一方で10万人以上のユダヤ人が混乱の末に殺害され、ハンガリー国内からユダヤ人はほぼ姿を消すことにもなるのである。


 1941年11月、ハンガリーからのユダヤ人の出国がほぼ完了したことを確認し、ペルラスカとダヴー大尉、フリアン曹長は密かに出国することにした。

「偽領事の日々は命懸けでしたが、ある意味、楽しかったですよ」

 最初に会ったブダペスト中心の駅で、ペルラスカは楽し気にダヴー大尉に話しかけた。

 これからペルラスカはイタリアに向かうことになっている。

 そして、ダヴー大尉らはウィーンで秘密報告をした後、スペインにまた向かう予定だった。


 最後の頃は三人四脚でユダヤ人の出国を行うような状況で、3人はお互いに戦友と認め合っていた。

「フランスの軍人として、サムライの血を承けた者として、貴方の行為に心からの敬意を示します」

 ダヴー大尉とフリアン曹長はペルラスカに敬礼した。

「いえ、人間として当然のことをしただけです」

 そう言って、ペルラスカは二人の下を去って行った。

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