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第3章ー8

 そんな会話を交わしながら歩む内に、3人はスペイン大使館にたどり着いた。

 だが、アラン・ダヴー大尉やフリアン曹長が聞いていた話よりもスペイン大使館が大きい気がする。


 2人が首を傾げると、ジョルジョ・ペルラスカがダヴー大尉の耳元でささやいた。

「実はユダヤ人保護のために、スペイン大使館の近くの建物を買い上げたそうです。スペイン大使館には、ユダヤ人が何人も駆け込んできているとか。彼らを寝泊まりさせないといけませんから」

 成程と、ダヴー大尉は得心し、フリアン曹長にもその旨を説明して、3人はスペイン大使館内に入った。


「分かりました。すぐに手続きをしましょう」

 スペイン大使館の書記官の一人に、ダヴー大尉がペルラスカのことを頼むと、書記官は快く、後のことを引き受けてくれた。

 ダヴー大尉とフリアン曹長は、大使に挨拶をしに大使室に向かったが、その途中の廊下にまで、ユダヤ人が溢れている。

 一体、何人が大使館内にいるのか、状況の深刻さにダヴー大尉は気が重くなった。


「よく来てくれた。ユダヤ人保護のために、一人でも人手が欲しい所だった」

 スペイン大使は、ダヴー大尉を暖かく歓迎した。

「本当なら君とスペインワインを傾けたいところだが、そんな状況ではないのは一目瞭然だと思う」

「確かにここまでの状況とは」

 ダヴー大尉は、それ以上の言葉が出なかった。


「今後の事をどう考えているのです」

 ダヴー大尉は、これまで、取りあえずブダペストに行け、それ以上のことは現地で指示する程度のことしか言われていなかった。

「それなんだが」

 スペイン大使の口調は重くなった。


「本来なら、ここハンガリー国内にユダヤ人が住み続けられるように働きかけるべきなのだろう。だが、ハンガリーの現政権はユダヤ人の迫害を公然と行っており、我々の抗議を無視している」

 スペイン大使は、それ以上のことを言いたくなさそうだったが、言うしかないと腹を括ったらしい。

「ハンガリーの現政権を、連合国軍が武力等で打倒する訳にもいくまい。それこそ侵略行為だ」

 ダヴー大尉は肯くしかなかった。


「そして、ハンガリーの現政権がユダヤ人迫害を止める目途が立たない。そうしたことから考えると、ユダヤ人の生命、財産を庇護しつつ、ユダヤ人の国外への脱出を図るしかあるまい」

「それしかないでしょうね」

 スペイン大使の言葉を、ダヴー大尉は肯定した。


「今、懸命にビザを発行して、スペインへの脱出をハンガリー国内のユダヤ人に促している。だが、我々の下にまで、たどり着けないユダヤ人も多々いるとのことだ。ハンガリーの内務省に対して、スペイン大使館に駆け込もうとするユダヤ人を妨害しないように、今から私は申し入れをしに行くのだが、君もついてきてくれないかね。ハンガリー政府の対応が良く分かると思う」

「分かりました。お供します」

 ダヴー大尉は、そう答えると取りあえず勲章を外すことにした。

 思わぬことから実はスペイン人でないとバレてはかなわない。


「何度来られても、返答は同じです。あなた方のしていることは内政干渉です」

 大使自らの内務省への訪問ということで、内務省の治安警察局長自らの対応とはなったが、その対応は控えめに言っても慇懃無礼としか言いようが無かった。

「リビエラ法に基づき、セファルディム系ユダヤ人はスペイン人として保護する義務が、私にはあります。それを無視してユダヤ人を迫害するというのは、スペイン人に対する迫害と同じ。私は抗議せざるを得ません」

 スペイン大使は、懸命に道理をもって治安警察局長の説得を試みるが、治安警察局長は、ここはハンガリーだ、と鼻で笑いながら言う有様だった。

 ダヴー大尉は憤りを覚えてならなかった。

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