表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/120

第3章ー5

 こういったハンガリーの政治情勢において、ドイツにおけるナチス党と似たような立場に立った国家主義政党が矢十字党だった。

 ハンガリーの摂政であるホルティ自身は、矢十字党の様々な主張(国家主義や反共主義等々)に対して、微妙な態度を執らざるを得なかった。


 国際的に見れば、矢十字党の主張が通ることはあり得ない話で、国際協調主義の観点からすれば、矢十字党の活動を、ホルティは禁圧せざるを得ない。

 だが、ハンガリー国内においては、矢十字党の人気は、その政治的主張から極めて高かった。

 例えば、矢十字党が主張する反資本主義(皮肉なことに、これはナチス党等の国家主義政党においてはしばしば見受けられる主張である)は、都市労働者階級の支持の多数を得る一因となり、また、国家主義、反共主義は、いわゆる極右勢力の支持を勝ち得た。

 ここに本来は左翼勢力の支持基盤である労働組合が、極右勢力と積極的に手を組むという、ある意味では醜悪極まりない事態が、ハンガリーでは発生する。


 それによって、政治的勢力を伸張させた矢十字党は、1939年5月に行われた国政選挙において、国民の4分の1以上の票を獲得することに成功し、国会で第一党の地位を確保するまでに至った。

 こうした情勢において、ホルティは矢十字党を強引に非合法化することさえ政府内で検討するに至ったが、独の行動の方が素早かった。


 独はハンガリーに対して、様々な軍事的、政治的圧力を加えるという鞭と共に、ウィーン裁定でチェコスロヴァキアの領土の一部をハンガリー領として認めるという飴を与えた。

 独にとってみれば、ソ連や共産中国は、敵の敵は味方という論理から止む無く手を組んでいるにすぎなかったが、ハンガリーは共に現在の欧州、世界秩序に対する不満を持っており、更に国家主義政党が国内で勢力を持っていることからすれば、最も信頼し得る同盟国になりうる国だったのだ。

 そのために裏では悪名高い独国家保安本部が積極的に動いたという説さえある。

(更に、独には反共という一点共闘を模索していた日伊等との協調に失敗していたという事情も加わる。)


 そのために矢十字党は合法的な存在として存続し、更には独の圧力によって、第二次世界大戦勃発後に成立した挙国一致内閣において、矢十字党の党首サーラシが首相を務めるまでにハンガリーは至っていた。

 だが、さすがのサーラシも、ホルティの断固たる意志を無視してまでの連合国への宣戦はできなかった。

 それにサーラシも首相になって、現実が見えるようになると、米英仏伊日等の連合国との戦争行為は自殺行為であるのが理解できるようになっていたからである。

 だが、このことはある意味、矢十字党員を中心とするハンガリー国民の憤懣を高めた。

 そのために1941年の後半に至ってからは、極めて醜悪な事態、ユダヤ人迫害がハンガリー国内で頻発するようになっていた。


「ユダヤ人はハンガリーから出ていけ」

 声高な叫び声が上がり、ユダヤ人の住む家に暴徒が押しかけていた。

「助けてくれ」

 その家に住むユダヤ人の悲鳴が上がるが、誰もが無視する。

 一部のハンガリー国民の憤懣は、今やユダヤ人に向けられていた。


「ハンガリーがこうなったのはユダヤの陰謀だ」

 独の秘密工作が矢十字党に浸透する内に、ナチス党の反ユダヤ主義は矢十字党にも浸透していた。

(本来の矢十字党は反ユダヤ主義を余り唱えていなかった。

 精々、ハンガリー民族主義の一環の中で反ユダヤ主義を唱えていた程度だった。)

 そして、矢十字党内に広まった反ユダヤ主義は、気が付けばハンガリー国内全体に広まっていた。


 それによってもたらされたものを阻止する為、中立国は奮闘を策していた。

 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ