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第3章ー1 ブダペストからのユダヤ人救出とスペイン青師団編制

 第3章の始まりです。

 そんなふうに異母長姉の村山幸恵が、自分のことを推察している等、その時のアラン・ダヴー大尉には全く分からない話だった。

 アラン・ダヴー大尉は、懸命にブダペストでの任務を済ませた後、マドリード近郊のスペイン軍駐屯地に異動して、スペイン青師団編制に対する助言を与えている真っ最中だった。


「士気こそそれなりに高いが、これが欧州最強とかつて名を馳せたスペイン陸軍の末裔か」

 ダヴー大尉は、眼前で行われているスペイン青師団の訓練の惨状に泣きたくなる思いがした。

 中隊規模での各種訓練を行っているのだが、この歩兵中隊の練度なら、自分なら子飼いの外人部隊1個小隊で圧倒することが可能だ。

 志願兵を懸命にかき集めたためとはいえ、それにしても、とダヴー大尉は溜息しか出なかった。


 傍にいる自分の腹心の部下、フリアン曹長も同じ思いらしい。

「こんな兵と一緒にソ連軍と戦うなんて狂気の沙汰ですよ」

 フリアン曹長は、周囲に分からないようにそっと日本語でささやいてきた。

「つい最近までやっていた東欧の任務と、どちらが楽だったかな」

「全然違うので、比較にならない話ですが」

 フリアン曹長は、少し考えた後で言った。

「あっちの方が良かったですね。人命救助ですから」

「確かにな。だが、その後はどうかな」

「考えたくないですな」


 二人は、先日まで行っていた東欧での秘密任務を想い起こした。

 表向きは昨年秋からずっとマドリード近郊のスペイン軍駐屯地に二人はいたことになっている。

 だが、実際には着任したのは昨年末で、それも東欧での秘密任務を済ませた後だった。

 それは、ハンガリー、特にブダペストにいるユダヤ人を保護して、ハンガリー国外へと脱出させるという秘密任務であり、表向きは米英仏伊日等の連合国各国は関与していない任務だった。

 だからこそ、二人は中立国であるスペイン軍の一員というカバーで、その任務にあたったのである。


「スペイン軍に出向しろですか」

「君はスペイン陸軍士官でもあるからな」

 上官とのそんなやり取りを皮切りにして、ダヴー大尉はスペイン軍に出向した。

 さすがに幾ら優秀とはいえ、1人では無理がある、気心の知れた部下1人を連れて行ってもいい、と軍上層部が配慮してくれたので、ダヴー大尉は考えた末に、スペイン内戦以来の知己であるフリアン曹長と共にスペイン軍に出向することにした。

(なお、フリアン曹長も、スペイン内戦の際の経緯から、スペイン軍下士官の地位を持っていたのも一因だった。)


 本来なら、当時オーストリア、ウィーン近郊にダヴー大尉はいた以上、すぐにブダペストに乗り込んでもいい話だったが、それをやってはカバーの意味が無い。

 そのために、一旦、ダヴー大尉(とフリアン曹長)はパリへ帰還し、マドリード、ベオグラードを経由して、ブダペストに向かうことになった。

 ダヴー大尉は、パリに帰還することを聞いて、軍上層部と交渉し、パリ近郊の自宅で一泊した後で、マドリードへ向かうことにした。

(なお、フリアン曹長も似たような行動を取った。)


「急に帰ってくるとは思わなかったわ。でも、すぐに出ていくのね」

 自宅に帰ったダヴー大尉を、妻のカトリーヌは温かく迎えた。

 傍には母や息子もいて、ダヴー大尉を迎え入れた。


「済まない。一泊しかできないけど、家族に会ってから行きたくてね」

「どこに行くの。差し支えなければ教えて」

「スペインだ。それ以上のことは言えない」

 ダヴー大尉の返答に、カトリーヌの顔に翳が奔った。

「分かったわ」

 何故か、カトリーヌの声は震え、ダヴー大尉は首を傾げる羽目になった。


 その夜、カトリーヌはダヴー大尉を求めて離そうとはしなかった。

 ダヴー大尉は更に首を傾げてしまった。

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