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第2章ー17

 もっとも、と土方勇中尉としては、更に想いを巡らさざるを得なかった。

 ポーランドやチェコスロヴァキア領内から基本的にドイツ民族を追放する、というポーランドやチェコスロヴァキアの政府の主張は結局は通ってしまった。

 確かにこの世界大戦が勃発に至った経緯を考えれば、ポーランドやチェコスロヴァキア両国政府がそのような主張をして実行に移そうとする理由が、土方中尉にしても分からなくはない。

 しかし、強制的に異民族を自国内から追放しようとする両国政府の主張行動に対して、どうにも肯ずることができないものを土方中尉は感じてしまう。


「全く違うことなのは分かってはいるのだが、戊辰戦争後に起きたことを想い起こすな」

 土方中尉は思わず口に出していた。

 土方中尉の直接の先祖、土方歳三は自ら希望して屯田兵として北の大地に向かってそこに移住した。

 だが、妻の千恵子の先祖である篠田家は違う。

 会津から斗南へと強制的に明治新政府によって一時的とはいえ移住させられてしまったのだ。

 そのことによって引き起こされた結果から連想してみても、自分から移住するのならともかく、他者が異民族だからと言いて移住を強制するという事が許される訳が無い。


 ポーランドやチェコスロヴァキアから追放されているドイツ民族にとって、せめてもの慰めは、持てる限りの物を持ってのドイツへの移住が認められていることだろうか。

 ポーランドやチェコスロヴァキア両国政府は、様々な口実を付けて、自国内に住むドイツ民族からできる限りの財産をむしりとって、文字通り着の身着のままでドイツに送り返すつもりだったらしい。

 だが、それは余りに苛酷である、と日本が中心になって音頭を取った結果、ポーランドやチェコスロヴァキア両国政府は妥協案として、ドイツ民族が財産を持ってのドイツへの移住ということを認めたのだ。

 とは言え。


 ポーランドやチェコスロヴァキアからドイツへと移住するドイツ民族の多くは、持っていた土地建物をほぼ無料で手放さざるを得ない羽目になりつつあるようだった。

 これまで仲が良かった一部の隣人も、ドイツ民族に背を向けて、少しでも自らの保有する不動産を高値で買い取って欲しいとの希望を無視し、ほぼ無料で買い叩いているからである。

 貴金属等、持ち運びのできるそれなりの財産を持って、ポーランドやチェコスロヴァキアを去ることが出来たドイツ民族は、数少ない存在になりそうな雲行きが漂っている。


 そういったことを土方中尉は、父を始めとする周囲の話から把握していた。

 ちなみに父は、相変わらず他国との折衝を主な任務にしているらしい。

 仮にも欧州総軍の高級参謀なのだから、もう少し部下に任せた方が良い、と父自身も考えてはいるらしいが、こういった折衝役というのは、それなりに顔つなぎが事前にある方が上手く行く。


 父、土方歳一大佐は、それこそ先の世界大戦時に西部戦線で実戦経験を積んでおり、更に父の土方勇志伯爵の名もあって、周囲に顔と名を知られていて、交友関係も広い。

 また、一時はポーランドに駐在武官として赴任していたこともある。

 そうしたことから、米英仏ポーランド各国軍部との交渉役に、しょっちゅう乗り出す羽目になっていた。


 その父の話によると、土方中尉には思いもよらないことだが、1000年近くのゲルマン(ドイツ)民族とスラブ、バルト民族間の遺恨も、この件は絡んでくることもあり、最終的に日本や米英仏は、ポーランドやチェコスロヴァキア両国政府の主張を認めることになったという。

 そんなに長期間に渡る民族間の遺恨がこの件についてあるとは、日本人である土方中尉には思いもよらない話で少なからず理解に苦しむ話でもあった。

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