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第2章ー16

 場面が変わり、土方勇中尉が想いを巡らせる話になります。

 少なからず話が前後する。


 1942年の正月を、土方勇中尉はベルリン近郊で迎えていた。

 祖父、土方勇志伯爵と共に嵐のように襲来した妻、千恵子のことをふと土方中尉は思い起こした。

 千恵子はパリに向かう際に、土方中尉にささやいて去った。

「多分、和子の弟妹ができたわ」

 土方中尉には分からないが、千恵子に言わせれば、女の勘で身籠ったらすぐに分かるというのだ。

 土方中尉は、どちらが産まれるだろうか、とつい考えた。

 更に千恵子に義弟が託した土産のことに、土方中尉は更に想いを巡らせた。


 義弟の岸総司大尉は、日本に帰国する千恵子に姉の幸恵と母の忠子へのお返しの贈り物を託した。

 岸大尉としてみれば、特に他意は無かったのだろうが。

 母の忠子(と祖父、岸三郎)には、闇市で入手したドイツの高級万年筆、モンブランを託していた。

 更に姉には、自分だけの写真だと遺影になりそうだから、と言って、岸大尉を中心に土方中尉とアラン・ダヴー大尉の3人が写った写真と共に、闇市で入手したツヴィリングの包丁セットを託していた。


 闇市というとよろしくないイメージが先立つが、この当時の独では民衆が生きる為の手段として半公然化しており、本来は取り締まりに当たらねばならない独の警察とも連携していることが当たり前となっていた。

 で、タケノコ生活ではないが、手持ちの貴重品を闇市で売りに出している独の民衆も稀ではなく、闇市を見に行った岸大尉は、そこで自分としては掘り出し物の包丁のセットや万年筆を見つけて、更に適正な値段で買い取って、母と姉への土産にした次第だった。

(なお、中古ということもあり、土方中尉からすれば、両方共に岸大尉の買取価格の半値でないと買うつもりになれない代物だったが、岸大尉にしてみれば、偽善と言われようと、それくらいは出しても良い代物だということだった。)

 

 そして、岸大尉と自分とダヴー大尉が共に写った写真。

 岸大尉にしてみれば、姉についでに友人を紹介するだけのつもりらしいが。

 幸恵がダヴー大尉を弟だと気が付くことは無いだろうか。

 千恵子がダヴー大尉を弟だと気が付かなかったことを考えれば、心配のしすぎだと自分でも想うのだが。

 

 そう言えば、と土方中尉は更に想いを巡らせた。

 先日の連合国外相理事会の決定に従い、本格的な独の産業再開が認められそうだ、ということで独の国内の民衆の間では希望が開けつつある。

 ポーランドやチェコスロヴァキア領内から追放されてきたドイツ系の民衆ほぼ全てまでが、雇用されるのではないかという先走った観測までされている。

 土方大尉の見るところ、自分達が働くことで、現金が入らなくとも、食糧等が手に入るという希望が大きいようだった。

 今の独では、現金よりも食料の方がある意味では貴重であることを考えれば、独の民衆の希望も分からないではなかった。


 そして、独の軍事産業が生産した兵器に関しては、それなりに買取希望がすでに出ているらしい。

 スイスやスウェーデン、ユーゴスラヴィアといった特に独との間でしがらみがなく、更に兵器の供給に不安を覚える国から引き合いが、早速来ているらしい。

 また、南米諸国からも兵器購入の打診があるとのことだった。

 南米諸国は、本来から言えば米国の裏庭で、米国の兵器産業の大事な顧客の筈だが、この第二次世界大戦の最中とあっては、米国の兵器産業は対ソ、対中戦でかなり手一杯で、独からの兵器購入を米国政府は南米諸国に対して認める用意があるとのことだった。


 個人ではなく信用できる政府への売却なので、独製の兵器の更なる転売は心配する必要は無いらしいし、物々交換ではあるが独の民衆への食料の供給にもつながり、いい話に思えてはいた。

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