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プロローグー3

 岸総司大尉の考えは、考えすぎではなかった。

 独が降伏し、チェコスロヴァキアやポーランド西部が解放されたことから、厄介な事態が噴出していた。

 アラン・ダヴー大尉もその事態解決の一端を担う羽目になっていた。


「スペイン軍に出向しろですか」

「君はスペイン軍士官でもあるからな」

 土方勇中尉と痛飲してから、数日後にダヴー大尉は、ウィーンに置かれた仏軍司令部に出頭して、上記のような話を上官から聞かされていた。

「確かに私はスペイン軍士官でもありますが」

 そう答えながら、ダヴー大尉は考えを巡らせた。


 ダヴー大尉のスペイン軍士官の地位は正式なものだった。

 ダヴー大尉が、いわゆる「白い国際旅団」の一員として、スペイン内戦時に義勇兵として参加したことからスペイン外人部隊の一員として任官されたものであり、更に、フランコ総統から特に叙勲された身でもあることから、スペインの永住権さえもダヴー大尉は保障されていた。


「それで、どこへ行けばいいのです」

 マドリードだろうか、そう言いながら、ダヴー大尉は考えを巡らせた。

 スペインが正式に参戦するという噂が流れている。

 スペイン軍指導の一環として、自分はスペイン軍に出向させられるのだろうか。

 だが、上官の答えは意外なものだった。

「ブダペストだ」


「ブダペスト?」

 自分でも間抜けな応答だ、と思ったが、自分にとって訳が分からない赴任先だった。

 ブダペストは言うまでもなく、ハンガリーの首都である。

 そこに何故にスペイン軍の一員として自分が赴かねばならないのか。


 上官は渋い顔をしながら言った。

「今、東欧で民族移動の嵐が吹き荒れているのは知っているな」

「ええ」

 ダヴー大尉は即答した。


 今、東欧では独の降伏に伴い、ポーランド政府やチェコスロヴァキア政府が祖国に帰還し、統治体制の再構築を始めたばかりである。

 そして、再構築の中で、ドイツ民族を祖国に帰還させる、という大義名分の下、ポーランド政府やチェコスロヴァキア政府は、自国内のドイツ民族の追放を始めていた。

 食料を与えず、全財産を奪って、ドイツ民族は故郷のドイツに還れ、というのである。

 英仏米日等は、民族間の恨みを深刻にすることは止めるべきだ、と内々に諫めてはいるが、独の侵略を受けたポーランド政府等の恨みは深く、ドイツ系以外の国民の多くもこの政策を全面的に支持しているという現実があった。


「実はハンガリーでも似たようなことが起こっている。ハンガリーの場合は、ユダヤ民族追放の動きだ。自国内からユダヤ人は出ていけ、というのだ」

「それは許されないことでは」

 上官の説明にダヴー大尉は即答していた。


「だが、内政干渉だ、ポーランド等も同じことをやっている、とハンガリー政府に言われては反論も難しいし、それに事態は一刻を争う事態になっている」

 上官の表情はますます渋くなった。


「かと言って、我々がハンガリーに攻め込む訳には行かない。そこで、中立国のスウェーデン等に動いてもらい、ハンガリー国内のユダヤ人を保護しようということになった。君はそのお目付け役になってもらう。スペイン軍士官としてブダペストに赴き、ユダヤ人を保護してほしい。その間に外交交渉でユダヤ人を救おうと考えている」

「分かりました」

 上官の言葉に、ダヴー大尉は力強く答えた。


 ダヴー大尉は想いを巡らせた。

 とは言え、この名前のままでブダペストに赴いては、フランス人と即バレしそうだな。

 いっそのこと、日系の血を活かして、ハポン姓でも名乗るか。

 アラン・ハポン、いい響きの偽名ではないか。

 

 ダヴー大尉はそんな風に考えて、スペイン政府と相談の上、アラン・ハポンの偽名でブダペストに乗り込むのだが、思わぬ余波が後で生じた。

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