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第2章-14

 実際問題として、欧州における民族等からくる対立の現状を勘案し、欧州の民族、宗教対立を今すぐに完全に鎮めるのは無理である、と土方勇志伯爵率いる日本の特使団の多くが判断せざるを得なかった。

 なお、そのことは、土方伯爵(や千恵子)も(本心では認めたくなかったが)認めている。

 そうなると次善の策として、いかにそれによる人命等の被害を軽減できるか、ということを考えざるを得なかったのである。


 そうした中で浮かび上がったのが、独に遺された各種産業を連合国の厳重な監視下に置いて稼働させる。

 それによって、生産された物資を基本的にバーター取引で交易し、それによって独の失業率を改善し、更に独の食糧事情も改善させるという方策だった。

 それにこれには幾つかの副産物も見込めると考えられていた。


 まず、第一に独国内で働く労働者(や家族)の基本的な心理として、働いて稼げるならば、それが望ましいという想いが(反政府運動による危険を避けたいという想いからも)働く、ということである。

 連合国の監視下にあるとはいえ、働くことで給料が手に入り、それによって家族が食べられるのだ。

 それを自ら失って家族を犠牲にしてまで、武装抵抗に奔る人間が多いとは思えない、ということである。


 更に独国内でそれなりに職が確保されて働き口があれば、それに伴い、独国内で副次的な雇用口もできてくるという現実である。

 工場が稼働すれば、それに物資を運び込んで、更にその製品を運ぶ必要が出てくる。

 更に、そういった関係で働く人を当てにした食堂等のサービス業もできてくる。

 そういった波及効果を無視することはできない。

 そうなってくると、ますます過激な反政府運動を行おうとする人間は減ってくる。


 そして、それによって独国内の食糧事情等も改善に向かえば、連合国に対して不満は遺るにしても、武装抵抗と言った過激路線は支持を更に得にくくなるという現実である。

 取りあえずは食べていけるのだ、それならば派手に行動して、という発想は抑制されるとも考えられた。


 それに土方伯爵やその周囲の特使団の見るところ、多くの仏国民の本音としては、余り日米英と言った欧州大陸外の諸国に対ソ戦を頼るのは、それなりに自尊心を傷つけているようでもあった。

 それこそ、ナポレオン1世のロシア遠征時を想い起こせば、その頃は事実上存在しなかった日米、更に敵国だった英に頼って、対ソ戦を戦わねばならない祖国仏の現状と言うのは、多くの仏国民の本音では見たくない代物らしいというのが分かってきていた。


 だから、甘美極まりない毒と思えても、独の工場を再稼働させて、それにより兵器を調達するというのは仏政府に受け入れられる余地がある、と土方伯爵らは考えたのである。

 それに仏政府には、もう一つ不満の種がある筈だった。


「ところで、それは独の航空産業について、仏の優先権が認められるという前提があるのでしょうか」

 暫く考え込んだ後でのペタン首相の言葉を聞いた瞬間、土方伯爵は賭けに勝ったと思った。


 仏は、第二次世界大戦前に航空産業が壊滅的と言ってもよい惨状を呈していた。

 かつての航空先進国の面影は今や遠い有様だったのである。

 そのために、仏産業の立て直しの前提として日米に協力を依頼し、その代償として日米からの大規模な軍用機等の輸入という代償を仏政府は払う羽目になった。

 しかし、それは仏政府、いや仏国民の多くにとり、仏の誇りを失う苦渋の決断だった。


 だが、独の航空産業技術が手に入れば、仏の航空産業は反転攻勢の機会を掴めるのだ。

「日本は仏の優先権を認める用意があり、英米等にも働きかけましょう」

 土方伯爵の言葉に、ペタン首相は終に手を差し伸べた。

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