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第2章ー11

 そのような会話を祖父と(義理の)孫娘が交わして2日後に、日本から派遣された土方勇志伯爵を団長とする特使の一団は、パリに到着した。

 仏政府によってパリで手配されていたホテルに、土方伯爵以下の特使団一行は投宿して、そこで仏政府をいかにして説得するかを特使団内部で話し合った。


 ここ数日間に間に合わせとしか言いようのない状況で行われたドイツ国内の視察で、ドイツの状況が深刻極まりないという認識を特使団内部では共有できている。

 だが、その一方で仏政府がそのような状況にも関わらず、対独報復の感情に駆られて、対独強硬意見を吐いているというのを察することも特使団内部ではできていた。


(この時に同行していた池田勇人は、晩年にこの時の状況について取材に来た新聞記者に対して、

「それはね、被害者感情的には仏政府が言うのも最もだと私達、特使団の面々にも分かっていました。しかしね、事は国際政治なんですから、大人というか、そういう態度を仏政府には執って欲しい、というのがあの時の特使団内部の雰囲気でした。何しろ金が無いなら現物で払えや、というヤクザ的態度を当時の仏政府は示していましたから。ああいう態度は、却って周りの同情ではなく、反感を買うものですよ」

 等と答えている。)


 特使団内部で甲論乙駁の議論を数時間にわたって交わした後、特使団は土方勇志伯爵とペタン仏首相のトップ会談に基本的に全てを賭けることに決めた。

 逆にそうでもしないと、仏政府の態度は変わらない、と考えたのである。

 トップが決断した、ということで、周囲を強引に納得させる。

 その手札に賭けようという考えに至ったのである。


 土方勇志伯爵とペタン仏首相、それにそれぞれの通訳と(何故か)土方千恵子が同席して1941年12月8日の朝に会談は始まった。

「お久しぶりです。ペタン閣下」

 土方伯爵は仏語で挨拶をした。

「久しぶりだな。土方」

 ペタン首相も型通りの挨拶を返した。


「今日は無理を言って、公設秘書とはいえ私の義理の孫娘を同席させていただき、ありがとうございます。どうしても、義理の孫娘のいる前で今回の件を話したかったのです」

 土方伯爵は、ペタン首相に背景事情の説明を始めた。

 通訳のみの同席ということで、土方伯爵とペタン首相の会談は当初計画されていたのだが、土方伯爵が千恵子の同席を強引に希望したのだ。


「どういう事情からですかな」

 ペタン首相は興味を覚えたようだった。


「義理の孫娘、千恵子は、私の孫、土方勇の嫁です。そして、千恵子の実父は、先の世界大戦のヴェルダン要塞攻防戦の際に戦死しました。遺骨も遺らず、千恵子の下には遺髪しか還らなかったそうです」

 厳密に言えば嘘だが、と土方伯爵は語りながら想いを巡らせた。

 千恵子の実父の遺髪は、岸忠子の下に還り、千恵子の下には還らなかった。


「それはまた」

 ペタン首相は先の世界大戦の、日本海兵隊員も数多参加した苦闘を思い起こしたようだった。


「この世界大戦が始まり、日本海兵隊の派遣が決まった際に、千恵子は泣きました。実父と同様に夫が戦死するか、と心配になったそうです。千恵子の夫、私の孫は未だに戦死せず、対ソ戦に海兵隊員として赴こうとはしています。また、千恵子には子ども、私からすれば曾孫もいます。千恵子を目にすると思うのです。少しでも戦争を無くさねば、未来に平和を遺して伝えていかねばと。ペタン首相も同様に思われませんか。それに、今回の世界大戦の開戦当初、先の世界大戦の惨禍から、仏国内では厭戦論がかなり強かったとか。仏国民の多くも再度の世界大戦は望んでいないのではないですか」

 土方伯爵の熱弁に対して、思わずペタン首相も肯かざるを得なかった。

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