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第2章ー8

「本当に厄介なことになっている。今のドイツではお金より物が信用される有様だから」

 岸総司大尉が腹を括って、口火を切った。

「どういうこと?」

 土方千恵子は、今一つ事情が掴めないのか、首を傾げながら言った。


「つまり、ドイツの通貨であるマルクの信用が暴落して、例えば、以前なら1マルクで買えた物が、10マルクで無いと買えなくなりつつある。しかも、月単位どころか週、いや日単位でマルクの価値が下がりつつあるのが現状だ。だからお金より物が大事になっている。最近では、ドイツ国内ではタバコが通貨代わりになりつつある」

 土方勇中尉が、追い打ちを掛けて言った。


 千恵子は、すぐには理解が及ばないようだったが、理解が及ぶにつれて顔色を変えて言った。

「それはかなりまずい気がするけど」

「「まずい話だよ」」

 義兄弟は口を揃えて言った。


「ともかくそう言った事情から、今のドイツで一番、信用が置かれている実際の通貨は、外国製のタバコと言うのが現状だ。ラッキーストライクとかが人気だな」

「日本製だと光とか暁かな。いつの間にか、日本語での意味が、ドイツ人にも広まったようだ」

 義兄弟は千恵子に更に説明した。

 その説明を聞いて、千恵子は頭痛がし出したらしく、右のこめかみを右手の人差し指で抑えて、暫く下を向いて黙って考え込み、義兄弟はそれを見守った。

 

 やがて腹を決めたらしく、千恵子は二人に半ば言い渡した。

「その話は、お祖父様にも言っていいわね」

「「勿論だよ」」

 二人は異口同音に言った。


「ドイツ国内が混乱していて、統計が余り信用できない以上、肌感覚で探るしかない、とお祖父様は言っていたけど、想像以上にドイツ国内は酷い有様のようね」

 千恵子は二人に語り掛け、二人はそれに無言で肯いた。


「そう言えば不穏な単語が少し聞こえたけど。土方、隠し子とか。あなた、まさか隠し子が」

「いないよ。知人の養子が、先の世界大戦の際の土方歳三提督の隠し子の子どもだと自称していて、そんなことはあり得ない、と二人で話していただけだよ」

 千恵子の問いかけに、慌てて勇は弁明した。


「ふーん。それにしてもそんなふうに先の世界大戦の際の日本兵の子どもが欧州にいるなんて。あなた達は絶対に作らないでよ」

 千恵子は更に二人に詰め寄り、その勢いに二人は無言で肯いたが。


 勇は内心でツッコミたくなった。

 千恵子、お前は知らない話だが、お前にはフランス人の弟がいるんだぞ。

 本当に義父は下半身がだらしない、4人もの女性との間に子どもを作るなんて。


 そんな勇の内心の声が聞こえたのかもしれない。

 千恵子は更に勇に詰め寄り、耳元で弟に聞こえないようにささやいた。

「ねえ、明日、明後日はオギノ式に従えば、妊娠しやすいの。和子の弟妹を作りましょう」

 勇は思わず固まった。


「大丈夫。お祖父様の内諾は取ってあるから。私の寝室に来てね。別に夫婦だからいいでしょう。ちょっと色々とあって抱かれたいの」

 千恵子は更に勇を誘った。


 勇は何と無しに察してしまった。

 千恵子はやはり何かやらかして祖父の公設秘書になったのだ。

 その興奮が心の奥底に遺っていて、それを鎮めるために抱かれたがっているのではないか。


 更に勇は想いを巡らせた。

 やはり、あの両親にしてこの娘か。

 総司と話していて、更に千恵子と話して思うのだが、千恵子の母、篠田りつは思いつめたら手段を選ばなくなるところがある。

 そして、千恵子の父親については言うまでもない。

 冷静で頭が回り、更に純情なようでいて、どこか壊れているのだろう。

 とはいえ。


「いいよ」

 結局、勇は千恵子の誘いに応えた。

 それに二人は夫婦なのだ。

 誰はばかる必要も本来は無い。

 翌日、勇と千恵子の間の二人目の子ができた。

 最後の辺りの描写ですが。

 土方勇と千恵子の二人目の子の出産はまだ先の話で、あくまでも千恵子が懐妊したということです。


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