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第1章ー10

 このような迷走をしながら、「マンハッタン計画」は、米主導の下、英日仏の協力を得て徐々に進むことになった。


 1941年11月1日から8日に掛けて、カナダのケベックにおいて、米のルーズベルト大統領、英のチャーチル首相、仏のペタン首相、日の米内首相の4人は首脳会談を行った。

 この首脳会談開催の情報を得た伊のムッソリーニ統領ら、この首脳会談に招かれなかった連合国側の各国首脳は4か国のみで首脳会談を行うことに不快感を示し、自分達も呼ぶようにと相次いで声明を出したが、米英仏日の各国政府の報道官はノーコメントを貫いた。

 その理由は言うまでもなく。


「千恵子、今回の首脳会談の真の目的は何だったと思う」

「核兵器の開発に関する米英仏日の協定締結ですか。この世界大戦が終わった後、この四国で核兵器を国際管理するという目標まで陰ではありそうですね」

 土方勇志伯爵と土方千恵子は、義祖父と孫娘ではなく、貴族院議員と公設秘書としてのやり取りをしていた。


「ほう、ソ連欧州本土に対する本格的な侵攻作戦の事前協議のための首脳会談という報道は嘘を報じているというのか」

「嘘ではありません。一部のみの報道をしているということです。ソ連欧州本土に対する本格的な侵攻作戦の事前協議も一応はやっているのでしょう。実際、梅津美治郎陸相も米内首相に随行しています。でも、それが本当なら伊のムッソリーニ統領は少なくとも呼ばれるべきでしょう。それなのに伊は外されている。そのことから考えると」

 土方伯爵の問いかけに、千恵子は自らの推測を土方伯爵に述べた。


 土方伯爵は笑いながら言った。

「公開情報で、そう推測されてはな。やはり私設秘書にしておくわけにはいかんな。危なくて仕方ない」

 千恵子は身をすくめるしかなかった。

 実際、否定できない話だからだ。


 公設秘書だからこそ触れられる情報と言うのがある。

 公設秘書なら公務員であり、公務員として守秘義務を負うが、私設秘書なら私人に過ぎない。

 また、公設秘書なら内務省が身辺調査をあらためて行っている。

 千恵子が私人のままでは、千恵子が公開情報のみから情報を得ていても、それによって機密情報まで推測してしまっては、邪推されてまずい事態が起こりかねないのだ。


「それにしても、核兵器の共同開発に、よく仏が入りましたね。実際には、仏は核兵器開発にそんなに熱心だったように思えないのですが」

 千恵子は私的な感想を述べた。

「日英だけだと米の暴走、隠ぺいを食い止められそうにないのでな。仏にも協力を呼び掛けた、とわしは推測するな」

「推測ですか」

「推測だよ」

 義祖父と孫娘は、お互いに惚けた会話をした。


 だが、千恵子は察していた。

 米内光政首相とチャーチル英首相が話し合い、仏のペタン首相に協力してもらったのが事実だろう。

 義祖父は推測と言う形で、それを私に明かした。


「そうそう、ちょっと面白い情報が入った。理研では仁科研究室を見込みが無いとして廃止し、他の研究室と統合させる予定らしい。仁科研究室のトップ、仁科芳雄博士はそれを受け入れるそうだ」

「仁科博士は、どうなるのですか」

「英国に勉強の為に出国するそうだ」

「仁科研究室の精鋭科学者も勉強の為に多くが、渡英、渡米、渡仏しそうですね」

「そうなるだろうな」

 義祖父と孫娘は、更に惚けた会話を続けたが、千恵子が先にしびれを切らせた。


「実際のところは、米国の何処かで核兵器の開発に専従するのでしょうね。仁科研究室の面々は」

「おそらくな。だが、それは探ってはならないことだ」

「確かに国家の最高機密である以上は、そうなるでしょうね」

 千恵子は想った。

 日本は手を出してはならない禁断の兵器を開発しようとしている。

これで第1章は終わり、次から第2章になります。


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