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第1章ー8

 ともかくソ連が独の科学者を確保したという脅威から、米英日仏は共同して核兵器開発にいそしむことになったのだが、その過程はスムーズに進むものではなかった。


 英日にしてみれば、米との協力は便宜上、止むを得ず選択したものに過ぎず、本音では米とは協力したくなかった。

 また、米にしても英日の肚の内は分かっているし、仏は(日英もそう疑ってはいたが)共産主義者の巣窟でとても安心して核兵器開発については手を組める相手ではなかった。

 仏に至っては、国内の科学者の多くが(共産主義にかぶれて)信用できない以上、自国単独開発を早々に断念して、米英日との核兵器共同開発を図る有様である。

 このような同床異夢の現状から、核兵器開発は迷走したと言われても仕方ない有様を呈した。


 最終的に米国の核兵器開発のトップを務めることになったのは、伊出身のフェルミ博士だった。

 米国出身のオッペンハイマー博士を推す声は、米政府内でかなり強かったものの、もし、ソ連に通じていたら、という懸念から、オッペンハイマー博士は外される羽目になったのである。

 フェルミ博士は、グローブス准将と協力して、ロスアラモス等、米本土各地に核兵器開発のために拠点を設けて、日英仏の科学者と協力して核兵器を開発しようと努力することになった。

 更にモーズリーや仁科芳雄といった日英仏の科学者も、「マンハッタン計画」に協力するために渡米していくことになった。


 さて、土方千恵子は、義祖父の土方勇志伯爵が務める貴族院議員の公設秘書に選ばれ、内務省の身元調査を受けることに10月初めの時点でなっていた。

 公設秘書となると、内務省の身元調査が徹底的に行われることになる。

 土方伯爵としては、その身元調査で千恵子の身の潔白を立証して、更に公設秘書にすることで、周囲にも暗黙の裡に土方家は綺麗な存在であると知らしめようとしていた。

 最終的に1月程は掛かったが、千恵子は内務省の身元調査で潔白を証明できた。

 とは言え。


「一度、疑われた身だ。年に不定期で最低2、3回は抜き打ちで身元調査が行われるだろうな」

「内務省の不信感は、それ程に私に対して強いのですか」

 土方伯爵と千恵子はそんなやり取りを、11月初めに私邸ですることになっていた。


「当たり前だ。公開情報だけで、日本の核兵器開発という最高機密を、千恵子は探り出したのだ。大河内正敏にわしが耳打ちしたら、真っ青になって仁科研究室にいる全員の身元調査をやり直したらしい。そんなことができる筈がないという事でな。内務省も本音では大河内と同様だ。とは言え、真っ白なのに、疑わしいから公設秘書にはできません、とは内務省としては言えない。だから、抜き打ちの身元調査で尻尾を掴もうと努力することになる」

 土方伯爵は、少し長めに千恵子に事情を説明した。


「ちょっと頑張り過ぎましたかね」

 千恵子は反省したが、義祖父はそうでもないようだ。

「特高を精々頑張らせておけばいい。どうせ潔白なのだから」

 土方伯爵は半ば嘯いた。


 千恵子は義祖父の内心を推測した。

 警察はどうのこうの言っても、鹿児島と水戸出身が多いと聞く。

 新選組幹部、土方歳三副長の長男である義祖父にしてみれば、鹿児島は西南戦争時の父の仇だし、水戸は幕末の尊王攘夷運動の中心で、新選組の宿敵だった。

 更に水戸は親藩、御三家の一つでありながら、積極的に反幕行動を取ったということもある。

 私でさえ、過去の歴史の恨みを完全には拭いされないのだから、義祖父にしてみれば、表には出さないがどうしても心の奥底で恨みを捨てられないのだろう。


「公設秘書として職務に精励してくれ」

「分かりました」

 義祖父と義理の孫娘はそうやり取りをして終えた。 

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