第6章ー26
1942年4月半ば、スカパ・フローには、各国の艦隊が相次いで集う場となっていた。
米英日仏伊を主力とし、それ以外の国、スペインやオランダ等、そういった小国まで軍艦を派遣している。
「あれはどこの国の旗だ」
「あれはブラジルの旗ですね」
そういった小国の軍艦旗は、近隣の国以外にしてみれば、識別に一苦労だった。
見張員は、そういった小国の軍艦旗を覚え、見つけては思い出す作業に勤しんでいた。
とは言え、実際に戦艦、空母をこの場に派遣している国は、米英日仏伊の5か国だけで、それ以外は巡洋艦を派遣するのが精一杯だった。
というか、それ以外の国は、空母や超ド級戦艦は保有していなかったのだ。
それなのに、そういった小国まで軍艦を派遣してきたのは。
「作戦に参加することに意味があるというか、我が国も軍艦を協力させました、という実績を上げたいのだろうな」
ホストといえる英海軍のこの場における最高司令官、カニンガム提督は、旗艦である戦艦フッドの艦橋上で呟いていた。
「いや、案外、観艦式に参加する気分で来ただけかもしれませんよ」
参謀の一人が口を挟んだ。
「私は観艦式の招待状を書いた覚えは無いが」
「いや、これだけの戦艦や空母が一堂に会すのは、史上初でしょう。観艦式の気分で、勝手に半ば押しかけてくるのも無理はありません」
「迷惑極まりない、押しかけ客だな」
カニンガム提督は、参謀とそうやり取りをした。
その一方で、この場に集った各国海軍の面々も、色々な想いを巡らせていた。
「Re2001だと、日本海軍の零式艦上戦闘機と模擬空戦をやってみたが、少しつらいな。Re2005が早く欲しいものだ」
ルッキーニ中尉は、自国の伊艦隊上空において、上空警戒任務訓練を兼ねて、飛行しつつ呟いていた。
先日、ルッキーニ中尉は、日本海軍の戦闘機乗りに模擬空戦を行ったが、苦戦を強いられてしまった。
だが、それ以上に印象に遺ったのが。
「何で空母が8隻もいるんだよ。それに何であんな高性能の艦載機を開発、保有しているんだ」
スカパ・フローに、旗艦に戦艦「リットリオ」、他に戦艦「ヴィットリオ・ヴェネト」、更に空母「アクィラ」を主力として、意気揚々と乗り込んできた伊海軍の面々を驚愕させたのは、日本海軍の空母部隊だった。
日本海軍の空母部隊は、バルト海強襲作戦を成功させた後、悠々とスカパ・フローに移動して、補充訓練に励んでいたのだ。
日本は、空母を8隻も保有し、しかも1万トン以上の中型、大型空母である。
しかも、艦載機も、日本海軍は3種類も、零式艦上戦闘機、99式艦上爆撃機、99式艦上攻撃機と保有している。
一方、伊が保有しているのは、客船改造の空母「アクィラ」1隻、更に保有する艦載機もRe2001戦闘機1種のみという現状からすれば、どうにもならない差があったのだ。
勿論、知識としては、日本海軍が8隻の正規空母を保有し、また、優秀な艦載機を保有しているのも知ってはいる。
だが、実際にそれが一つの艦隊となって行動しているのを見せつけられるのは、別の問題である。
「仏より、こちらが優れている。我々が本当は世界第4位の海軍国だ」
と伊海軍の幹部の多くがこの時までは想っていたが、世界第3位の日本海軍との間の絶望的な差を見せつけられて、意気消沈する幹部が多かった。
「ふん。そうは言っても、我々は仏海軍には負けていない。何れはヴィットリオ・ヴェネト級戦艦4隻を、我々は保有して地中海の盟主になれる」
そう伊海軍の幹部の多くが自分を慰めたが、伊海軍が自分の相手と考えている仏海軍は別の事を考えていた。
「もう戦艦の時代は、終わりを告げようとしている」
それが仏海軍の現在の考えだった。
細かいことを言えば、この世界でもRe2001は陸上戦闘機を艦上戦闘機に改造した代物なのですが、伊海軍航空隊の半ば気分としては、伊唯一の艦上機です。
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