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第1章ー6

「その言葉で、自分の推測の裏が取れました。理研の仁科研究室は、日本の核兵器開発の中枢になっている。更に言うと、英国とも協力して日本は核兵器を開発しているようですね」

 土方千恵子は、義祖父の土方勇志伯爵を見据えながら言った。


「私は公開情報を精査して、更に調査するという方法しか使っていません。それなのに、問答無用でこれ以上の調査を禁じられる。裏返せば、私が調査していることは、日本の最高機密に関することだということです」

 千恵子は、そこで言葉を切った。


「仁科博士がその研究室で行えることで、日本の最高機密に当たりそうなことは、核兵器の開発しかありません。だから、私の推測通り、仁科研究室は核兵器の開発に関与しているとしか思えません。勿論、お祖父さまが、このことについて肯定も否定もできないのは分かっています。これ以上やっては、お祖父さまの立場にも差し障りが出るのでしょう。ですから、理研の株はすべて売却して、この件から私は手を引きます」

 千恵子は真っすぐに義祖父を見据えて言った。


「そう見据えながら言うな。却ってどういえばいいのか困る」

 土方伯爵は、千恵子にまずは暖かみのある言葉を掛けた。

 実際、義理の孫娘の千恵子を、土方伯爵は気に入っている。

 本当にこれだけ頭が回るなら、千恵子は衆議院議員が問題なく務まるだろう。

「少し腹を割って話そう」


「実はお前の動きの影に儂がいる、と特高等は誤解している。だから、お前はいきなり特高等から事情聴取という事態を免れたのだ。特高の幹部から、隠密裏に接触が儂にあった。あなたの孫の嫁が理研の周囲を探っている、あなたの指示ですか、とな」

 土方伯爵は、千恵子を見返しながら言った。


 千恵子は正直に言って驚いた。

 そのような誤解が、特高等で起こっていたとは思わなかった。


「全く特高のことだ。儂の義理の孫で無ければ、お前はまずは逮捕勾留の上、ということになっていた」

 土方伯爵は笑みを浮かべずに言葉を続けた。

 だが、その表情、言葉が、それが真実であることを示している。


「儂の義理の孫であることに感謝しろ、千恵子。実際に公開情報しか漁っていなかったのだろうが、特高クラスになると自分のやることを相手もやる、と考えて行動する。特高は、お前が完全に違法な手段も使って情報を集めていると推測していたみたいだぞ」

 その土方伯爵の言葉に、千恵子の背中は冷たくなった。


「特高等から話があってすぐに、米内光政首相に儂は声を掛けて、内務省に証拠を固めてから逮捕するようにと働きかけてもらった。だから、ここで火遊びは止めろ」

「分かりました」

 千恵子は義祖父の言葉に素直に肯いて言った。

 確かに特高等なら証拠のねつ造等、お手の物だ。

 ここで速やかに自分が引き返さないと、義祖父というか、土方伯爵家全体に迷惑が掛かる。


「それにしても、ここまで公開情報だけで推測するとは大したものだな。立派な情報分析官の役を務めることが出来るな。日本軍情報部に紹介状を書いてもよいくらいだ。前田利為が喜んで雇うだろう」

 土方伯爵は、余りにも空気が重くなったことから、空気を変えようとして言った。

「それにこのまま完全にこれ以上のことを知らされないのも、千恵子にとってはつらかろう。儂の判断で儂の下に入った情報を話してやろう」

「本当ですか」

 千恵子は、義祖父の言葉に前を向いた。


「但し、本当に理研の株を完全に手放してからだ。それから、今後、自分では理研、特に仁科研究室のことは探るな。どんな誤解が生じるか、分かったものではないからな」

「分かりました。今後は理研、特に仁科研究室のことは、一切探らないことを誓います」

 土方伯爵と千恵子は会話を交わした。

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