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断切  作者: 池田 ヒロ
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アシェドの日記③(十二日目~十四日目)

 キリが連続殺人犯の姿を見た、ということを誰かが聞いたのかは定かではない。病院内で一夜を過ごした俺たちが、外出許可が下りたため、家に帰ろうとしたときに青の王国軍の人たちが二名ほど事情聴取をしたい、と言ってきた。指名されたのはもちろん、キリ。保護者同伴ということで、俺たちは労働者の町にある軍事施設へと招かれた。そこで軍人さんたちが訊いてきたのは病院内にいた犯人の特徴。

 教えてくれ、と訊ねる軍人さんたちに対して、キリは不安そうに俺たちの方を見ていた。俺たちはキリが自分の目で見たことを話すように言った。すると、ティビーを病院内で見た(ティビーのお面を被った誰かを見た)。そいつがこちらの方を見ていたから、手招きをしていたから追いかけた。非常階段前扉で俺が止めたから、見失ったと言った。

 よくよく話を聞いている内に、俺もエナも青ざめた。もちろん、聴取している軍人さんだって。キリに対して、手招きをしていた。これは――明らかに、この子を殺そうとしていた、と考えられる。あのとき、止めてよかった。すぐに引き返してよかった、と心から思う。

 他の特徴を訊くと、全身黒ずくめだったという。遠目だったから、それ以上の情報は出なかったが、情報がないよりかは犯人逮捕につながることだ、と軍人さんに言われた。そのお礼だろうか、キリは軍人さんから飛行機のおもちゃをもらっていた。嬉しそうにはしていたが、それで遊ぼうとは思っていないようだ。もらってから、車での移動中のあいつはそれを触っても遊ぶことをしていなかったのだから。もっとも、おもちゃで遊ぶということを知らないから、手に取ることはあまりないのかもしれない。


     ◆


 昨日できなかったことをやるぞ、とキリにも農作業を手伝ってもらった。外での作業。悪癖の予兆を気にかけながら、あいつが小動物を見てしまったときに声をかけた。カワダさんから聞いた治し方を教えてみた。見たら、右手を強く抑えるんだぞ、と。キリは理解したのか、山の方へと駆ける小動物を見ながら、自身の右手を強く握った。軽く試してみて、これならばできそうだ、とは言ってくれた。後は本人の問題だ。キリは聞き分けができる子だ。俺もエナもあいつを信じている。俺たちはあいつに当たり前を教えてあげたいのだから。

 それと、明日は剪定の当番だから、村長さんの家に行かなきゃ。そう言えば、村長さんの怪我の具合はどうなんだろうか。あれから一週間以上なるけれども、まだ絶対安静なのだろうか。道具を借りに行くときにお見舞いでも行ってみようかな。


     ◆


 剪定当番のため、村長さんの家に行って道具を借りてきた。玄関に出てくれた不愛想な奥さん曰く、村長さんはここ最近は回復傾向にあるから、たまに村の中を散歩に行っているらしい。今もそうだ、と家には不在のようだった。

 奥さんからは道具の返却は明日でもいいとのこと。明日は当番がないから、だそうだ。今日の農作業はエナとキリに任せて、村の仕事でもしよう。だけれども、悪癖のことについて、エナがどうしようもないときは連絡をするように言っていた。実際にお昼頃電話があって、家の方に戻ってみたら、キリは右手を強く握ったらしい。爪を皮膚に食い込ませて、血を出していた。大した怪我ではないが、それほどまで強くしないと自分の欲を抑えきれなかったのだろう。これでわかった。キリが頭の中でわかっていても、やってしまう理由が。

 キリは我慢したよ、と言っていたが、あいつが寝静まった頃にエナからの報告があった。余程我慢をしていたそうだ。何も爪を食い込ませるだけでなかった。口からはあふれんばかりの涎が垂れてきていて、まるで泣いているように見えた、と。味すらも覚えているから、体が命令しているのだろう、と言っていた。

 カワダさんから教えてもらったやり方は、キリの体を傷付けるということは百も承知であるが、効果は絶大だと思う。それでも、エナはあまりいいやり方だとは思っていない様子であるようだ。

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