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断切  作者: 池田 ヒロ
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アシェドの日記①(五日目~六日目)

 今日はキリに農作業を手伝ってもらうことにした。作業内容は草取り。どうも草刈り機の調子がおかしいからだった。おそらくは昨日地面に放り投げるようにしてしまったからだと思う。生憎、俺は修理することはできない。下の町にある農業用品店で見てもらうか、新しく買い直すかを次に行くときに持っていこうと思っている。

 さて、キリに手伝ってもらうために俺とエナがやり方を教えた。見様見真似ではあったけれども、普通にやってくれた。いや、草取りだなんて草を引っこ抜くだけだから、キリよりも年下の子どもでもわかることだ。それに、あいつは独りで生きていたにしてもある程度の学習能力は高い方だと思う。ちゃんと、スプーンやフォークも扱えるようになったし、昨日の夜は食事用ナイフの扱い方も教えた。たった五日しか経っていないのに、ここまでできるとは思わなかった。それに、文字に関しても同じだ。一つの単語を見たら、後は大体書けるようになっている。素直に喜べる反面、嬉しいと思う。

 キリは変わろうとしている。だけれども、くせはなかなか抜けないらしい。今日の草取りで、あいつは引っこ抜いた草を口の中に入れたのだから。それも泥付き。昨日に続き、こんなことを知るだなんて。あいつ曰く、お腹が空いていたそうだ。確かに、食べたときの時間帯はもうすぐお昼だった。キリは食べたらダメだ、と知ると、悲しそうな顔を見せていた。いや、これはわかろうとしてくれているという証拠だ。

 それでも、体は覚えている。午後ではまたしても、山の方から下りてきた動物を殺した。生の肉を口の中へと入れようとした。俺は止めた。エナは怖がっていたが、あいつの母親になりたがっている。だからこそ、彼女も止めに入っていた。

 ここまでして、キリを受け入れる。自己陶酔というわけではないが、寝顔を見て、あの日のキリを思い出せば、手を差し伸べたいと思っていた。独りで食べる物もなく、頼れる大人もいない。その悲鳴が俺たちに届いただけの話。あの子は嫌な子ではない。いい子だ。素直で優しい寂しがり屋の子。それだからこそ、俺たちはキリを自分たちの子どもとして、受け入れたい。エナもそれを望んでいるのだから。


     ◆


 今日もキリの悪癖が出た。俺とエナが目を離した隙に、鳥を捕えて食べていた。キリは頭の中ではわかっているんだと思う。これは非常識だ、と。だけれども、体が覚えているからこそ、手を出してしまう。反射神経だろうか。

 エナは言っていた。こうして三日連続生肉を食している、だから病院で診てもらうというのは? と。確かに俺もキリの健康面は気になる。が、数日前に病院で診てもらったときは軽い栄養失調状態というだけ。おかしい。本当にそれだけなのか。これまで、そこら辺に生えていた草や生肉を食べていたのだぞ。異常がないというのは不思議だ。いや、逆に耐性がついてしまっているということか? そうだとするならば、驚異的な胃袋の持ち主だ、と驚いてもばかばかしい。なんとかして、徹底的に止めさせないと。あいつの将来が心配だ。あの悪癖が治るまでは村の学校なんてやれない。いや、本人的には行きたがらないかもしれないが、できるならば十四歳までは止めさせたい。あの子にはあの子の人生もある。あいつがどんな大人になってくれるか。必死に生きていくだけの世界ではなくて、もっと外の世界も知って欲しいから。

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