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断切  作者: 池田 ヒロ
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アシェドの日記④(五十八日目~六十二日目)

 今日もエナはキリのために下の町へと行ってしまった。こればかりは約束してしまったから仕方あるまい。さて、今日はあぜ道の草刈りだ、とやっていると、カワダさんがやってきた。野菜が収穫できたから、そのお裾分けだそうだ。申し訳ないと思いながらも、受け取る。なかなか立派な野菜だ。カワダさん曰く、この野菜は下の町に売るつもりだという。もちろん、俺たちもいい出来であれば、どこかへ売る気はある。今年初めての収穫だ。ただ、町の方につてはないから、知り合いが経営している食堂が西地域の町にある。そこへ卸そうか、とは考えている。以前、その知り合いに話したとき、できたらよろしくと言っていたから、快く買い取ってくれるだろう。一応、キリがいない間でもすくすくと野菜は育ちつつあるのだから。

 カワダさんはキリの心配をしてくれている様子。あの事件があった以来、村長から村人へと情報が伝わったようだ。ただ、どのようにして伝えたかは知らないが。それでも、村の人たち、特に畑仕事を勤しむ人たちは気にしていない様子。いや、して欲しい。他人だろうが、同じ村に住んでいる者同士だ。何かがあってからじゃ遅いのだから。

 そうしている内に、夜になってエナは帰ってきた。最近、キリは指遊びにはまっているとか。いいことを聞いた。どうせ、明日はキリのお見舞いに行くつもりだから、そのときに一緒になって遊ぼう。というよりも、いつかはあいつも同年代の子どもたちと遊ぶのだろうな。ただ、ヴィンのような悪ガキにはなって欲しくないけど。


     ◆


 キリのお見舞いに行った。あいつはどんどん元気になっていっているようで、今では病院でおかわりをしようとするほど物足りないらしい。担当医の先生は傷も完全に塞がってきているし、後数日で退院だ、と言っていた。退院という言葉に反応したキリは喜んでいた。あいつも普通の子どもらしい表情をするようになったな、と思う。

 早速、指遊びをキリとした。ふふふ、実は俺が子どもの頃、周りの友達の間での指遊びでは一番強かったんだよな。負ける気がしない、と自慢していたら、キリも強いよとエナが耳打ちしてくるものだから焦った。いや、本当に焦った。あいつ、普通に強い。何度やっても、負けてしまう。俺が遊び方を忘れてしまっていたからか? いや、そうじゃないはず。というか、単純に強いというだけか? それならば、キリは頭がいいのかもしれないな。一応、あれは策略が必要になってくるから。子どもの頃はやれ、どのようにすれば完封なまでに叩きのめせるかとか、逆転するためにはどうするべきなのか、とか考えていたけど。うーん、自分がやり方を忘れてしまったということにしておいて欲しいものだ。


     ◆


 ヴィンにしてやられた。あいつ、道の真ん中に衛生材料を置いて、それを俺に拾わせて、落とし穴にはめやがるとか。最近、おもちゃのカメラを手に入れたらしく、ナオミちゃんや俺を落としてはその写真を撮っているのだ。ふざけんな。あの子らのおばあさんやお母さんからは何度も平謝りをされていて、強くは言えない。ちなみに、落とし穴からはナオミちゃんとカワダさんに助けてもらった。ナオミちゃんが言うには、ヴィンはおもちゃのカメラを手に入れてからは学校に来ない日が多いという。どこか遊びほうけているのだろうとしか思えない。いや、というよりも学校の授業をサボっているとか言っている時点で、大して変わらないだろう。

 どうでもいい話。いや、どうでもよくはないが、俺がヴィンに落とし穴に落とされて、すぐに村長さんが通りかかったが、こちらを見るだけで助けてはくれなかった。なんだよ、あのジジイ。ここで愚痴らせてくれ。どうせ、あの人はこれを見るわけじゃないし。

 さて、むかつくことは忘れてエナから聞いたキリのことだ。指遊びもそうだが、トルーマン先生からもらった図鑑を大層気に入っているらしく、独りのときはずっと見ている、と看護師さんが言っていた、とエナが言っていた。図鑑か、これまで文字を知らないキリだから絵本ばかりを、と思っていたが、もう図鑑でも問題はないんだな。近頃の本屋さんは面白い図鑑があったりするもんな。よし、今度行ったら見てみよう。


     ◆


 今日、連続殺人事件の捜査をしている担当の軍人さん二人が家にやって来た。何でも、現場の確認をしたいらしく、場所を案内して欲しいというのだ。俺は雨が降る中、軍人さんにある程度の場所を教えた。俺自身、その現場に遭遇していないからわからないし、エナでないから確信がないのだが。というか、事件後に俺は一度山に踏み入っている。エナが連絡通信端末機を忘れていたから。そのことを告げると、家の中も確認してもいいかと言われた。俺のことを疑っているのかとも思ったが、そもそもが捜査をしに来るにしては人数が少ない気がするし、現場検証とやらもしていない気がする。第一、事件が多数起きているにもかかわらず、現場の証拠はいくらでもあるというのに、目撃情報もあるのに、全くの足取りがつかないというのはどういうことだろうか。

 北地域連続殺人事件。これがあの事件の正式名称ではある。聞こえは大層な事件だ。とんでもない、死傷者はかなりの数に及んでいるはず。それなのに、捜査する担当軍人は二人だけ? あちこちの被害状況を分かれて捜索しているのか? そう感じながらも、俺は思い出した。村長さんに警告喚起する際、自身の息子もその犯人に殺されたと言っていたが、彼らは知らなかったらしい。詳しい情報を、と村長さんの家を教えた。軍人さんは俺たちの家を軽く調べると、村長さんの家へと行ってしまった。


     ◆


 ジジイにめちゃくちゃ言われた。余計なことを言うな、だと。とんでもない事件に自分も加わっているんだから、何を言っているんだろうか。猛獣に殺されたのではなく、人間に殺されているんだから、とんでもない事実だろうが。なんて言いたかったが、俺は残念なことに小心者だ。心の中やこの日記の中で愚痴るが精いっぱい。

 軍人さんにじいさんのことを教えた結果が、翌日の怒鳴り込みだ。どうやら、夜遅くまで居座っていたらしく、最終的にどうして軍に報告しなかったのか、と怒られたそうだ。ざまあみろ、あのとき俺を落とし穴から助けなかった報いだろ、多分。別に軍の助けなど要らない、だなんて言っているけど、そういう問題ではないと思う。本当に必要なときに助けてもらえなくなるだけだ。ああ言っているじいさん、その内、本当に痛い目を見るぞ。

 さて、そんな堅物ジジイは置いといて、知り合いがぜひとも野菜ができたら送って欲しい、とお願いされた。そう言われると、収穫が本当に楽しみになってくる。キリは野菜の収穫をするとき、どう思うかな? ただの草取りとは違うから、どこかわくわくするとおもうけどなぁ。でも、そう思わなかったら、思わなかったでちょっと寂しいな。

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