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九話 メルバルトの反撃

 今後の侵攻作戦についてだが。

 四天王会議での話し合いによって私とフィルのエリアを現状のまま維持しつつ、その間にミラルディーネとギルの担当エリアを攻略する事になった。


 足並みを揃え、同時進行でメルバルトへの侵攻を実現させるためだ。


 担当エリア攻略のため、私はギルの部隊へ、フィルはミラルディーネの部隊へとそれぞれ出向する事にした。


 自分のエリアから一番遠いエリアへと向かう事。

 それに私とフィルのエリアの防衛を四天王不在のまま行なう事は不安だったが、侵攻の速度を上げるには最大戦力である四天王を出向させるべきだと判断した。


 それに、最近では私の部隊も防衛に関しては手慣れてきた所がある。

 ガストならば、私が不在でも守り切れるだろう。


 何より、最近は敵の攻撃が緩やかになってきた気がする。

 それでも定期的に攻めてくるので気は抜けないが……。


 だが、それは本当にいい事なのだろうか?

 私はその攻撃の緩やかさに別の意図を感じていた。

 それは漠然とした予感のようなものではあるが……。

 だいたい、順調に行っている時ほど思わぬ落とし穴がある物である。


 しかし今は、不安でも侵攻作戦へ力を注ぐべきだろう。


 ギルの部隊は、主にトロールやオーガといった地の根幹属性を持つ種族で構成されていた。

 それに加え、吸血鬼ヴァンパイア屍鬼グールなど不死系統の種族もいる。


 本来、不死系統の種族は闇の根幹属性を持っているものだが、一度地に帰ったり、日中は地中で過ごしたり、というものが多いためか地の根幹属性と相性が良いらしい。


 正直に言えば、これらの種族はかなりの戦力である。

 攻撃力が高く、打たれ強い。

 野戦、攻城、篭城、どれをとっても強い。

 しかし、弱点がないわけではない。


 総じて機動力が弱いのだ。


 トロールもオーガも、そしてギル以外の黒金亀メタルトータス達もみんな足が遅い。

 行軍が遅く、侵攻にはあまり向かない。

 それは侵攻作戦にとって致命的だ。


 吸血鬼は飛行もできるのでそうでもないと思えるかもしれないが、日中に活動できないというデメリットがある。


 ただ、防衛については機動力が関係しないため、滅法強かった。

 現に、ギルの守る居城は一度として陥落した事がないのだ。


 しかし、守ってばかりでは侵攻などできない。


 考えるべきは、機動力を補って戦闘での強さをどう活用するか、だ。


 いろいろ考えた結果、機動力の高い私の部隊から人員を出し、兵員輸送用の馬車を多く作る事で侵攻速度の底上げをする事にした。


 この輸送車による運用というのは案外悪くなかった。

 足の遅い兵員の行軍速度を上げる事は勿論、日よけになるため吸血鬼ヴァンパイア達を日中に運ぶ事も可能になったのである。


 ちなみに、吸血鬼ヴァンパイアは私達のように人間形態というものにはなれないらしく、日中だけ人の姿になるという事はできないそうだ。

 元々、吸血鬼ヴァンパイアは人間形態のようなものなので普段から省エネ状態なのかもしれない。


 日中に輸送された不死系の魔族達は、次に夜の行軍を担う。

 昼間の行軍を担った馬は馬車に載せて休ませ、夜は馬骨兵ホーススケルトンという骨組みだけの馬みたいな魔物が馬車を引いた。

 とはいえ、人骨兵スケルトン系の魔物は魔法によって死霊を操る類のものだから種族とは言えないかもしれないが。

 現に、馬骨兵ホーススケルトンはギル配下の吸血鬼達が呼び出したものだ。

 ただの骨を操っているのに近い。


 それらは功を奏し、ギルの部隊は今まで以上の行軍速度を手に入れた。

 そして私とギルは直近にある敵領へと攻め入った。


 敵部隊を偵察によって発見した私達は、不死系魔族を戦力とするために夜を待って接敵した。


 敵は、森林を抜けた先にある平野にて陣を敷いていた。


 ギルの担当エリアにいる敵は、どうやら私のエリアと同じく野戦をメインに戦っているようだった。


 私の猛虎豪衝破タイガーブレイカーほどの速攻性はないにしろ、トロールとオーガというのはその力強さから攻城を得意としている。

 巨体から繰り出される一撃は、城壁を殴り壊す事ができた。


 だから、篭城はしない方針なのだろう。

 が、どうやら私のエリアとは少し違っているようだ。


 敵の部隊は、殆どが騎馬と弓兵だけで構成されているようだった。


 機動力の確保と距離を取っての攻撃が念頭に置いているのだろう。

 足の遅い敵へは有効な手段だ。


 よく見ると、彼らは変わった意匠の防具を纏っていた。

 どれも、どこかしらに十字のデザインがある。


 この世界の人間の宗教がどんなものかわからないが、なんとなく教会の関係者というイメージがある。

 不死系魔族は総じて闇の根幹属性を持っていて、闇の根幹属性は光の根幹属性に弱い。

 光の根幹属性を宿す装備なのかもしれない。


「どうする?」


 ギルが訊ねてくる。


「どうしたものかな」


 私は即答を避け、思案するふりをした。

 本当は、どうするか決めている。


「スケルトンの一団で一当てする。それから機を見て後退し、森へ逃げ込むんだ。タイミングは合図で知らせるから、その時一斉に退くよう部隊へ通達してくれ」

「わかった」


 通達が終わり、吸血鬼ヴァンパイア達に人骨兵スケルトンを召喚してもらう。


 正直に言えば、人骨兵スケルトンは囮のようなものだ。

 しかし、命のないスケルトンを囮にすれば人的被害を抑える事ができる。


 五千程度の人骨兵スケルトン部隊を前面に押し出し、前進させた。


 人骨兵スケルトンの部隊が敵と戦う。

 そんな人骨兵スケルトン部隊へ無数の弓矢が迫る。


 やはり、敵の装備は光の属性を持っているようだ。

 敵の攻撃を受けた人骨兵スケルトンは容易く倒されていく。


 本来、弓というものは人骨兵スケルトンに有効では無い。

 肉がないため基本的に刃が通りにくく、砕かれない限りすぐに修復するからだ。


 しかし、敵の弓矢を受けた人骨兵スケルトン達は簡単に崩れ落ちていった。

 これは光の属性のせいだろう。


「後退する!」


 半数の人骨兵スケルトンが成すすべなくやられた頃、私は合図を出した。

 部隊を一斉に転進。


 あまり練度の高い兵士達ではないので少しもたつくが、その間にも人骨兵スケルトンをしんがりとして置き、後退の猶予を作る。


 私達が後退を始めると敵の弓矢による斉射が止み、騎馬による突撃へと戦法を移行した。

 人骨兵スケルトンによって壁を作るが、それも簡単に破られる。

 追いつかれて、本隊への被害も出始めた頃私達は森へと逃げ込めた。


「よし、今だ。ウオオオォォー!」


 私は大気を震わせるような咆哮を上げた。

 私の叫びは辺りへ響き、獣の雄叫びは敵の騎馬を混乱させた。

 丁度いい。


 そして、咆哮を合図に追ってきた騎馬兵の側面を衝く形で、予め伏せていた獣人の伏兵が突撃を仕掛けた。

 同時に、再び本隊を転進。

 伏兵と共に本隊による多方面からの攻撃を仕掛けた。


 森の木々による機動性の減少、騎馬の混乱、奇襲を受けた動揺、私が攻めの起点として放った猛虎豪衝破タイガーブレイカーの被害、それらの要因によって敵兵達は我が部隊の攻撃にあっけなく瓦解。


「おお。すごい」


 その展開に、隣のギルが感嘆の声をあげた。


「詰めはこれからだがな」


 その勢いのまま、敵騎馬部隊の後方にて距離を取りつつ前進していた弓兵を襲撃。

 近接戦力を失ってしまった敵部隊は獣人部隊の接近を易々と許し、蹂躙された。


 こうして、ギルとの共同作戦は自軍にたいした被害を出す事もなく勝利に終わった。

 言わば、完勝である。




 最初の勝利から、私とギルの部隊は次々と順調にエリアの侵攻を成していった。

 途中から敵も我々の変則的な戦法への対処を取るようになっていた。

 今までの研究による部隊の四天王別特効編成を止め、多様な属性装備と兵科による総合的に強い部隊編成をするようになった。


 しかしながら、戦法の変化を以ってしても四天王二人を要した部隊の猛攻を抑える事はできなかった。

 今までは四天王の部隊の弱点を衝く編成であったから抑えられたが、

 私達はメルバルト領を守る敵部隊を次々と撃破し、メルバルト領深くへと侵攻した。


 本当に、何もかもが順調に思えた。


「おかしいな」


 ギルの居城。

 彼女の自室。


 そこで私は、ガストから届いた報告書を読んでそう呟いた。


「何が?」


 同じく部屋にいたギルが私に訊き返す。


 今の彼女は変身を解いていた。

 私と同じく、人間形態だ。


 人間形態の彼女は、色黒の小柄な少女である。

 髪の色素は薄く、銀色に近い白。

 その髪を頬のあたりで短く切りそろえていた。


 彼女の部屋には椅子も机もなく、私は床に報告書を広げ、その前に胡坐をかいて座っている。


「私とフィルのエリアでは、最近めっきりと襲撃がないらしい」

「? 良い事じゃないの?」

「そうなんだが……」


 嫌な予感がするのだ。

 ギルの部隊へ来るまでにも、私とフィルのエリアへ対する攻撃は緩くなっていた。

 その時から、漠然と感じてはいたのだ。

 何かがおかしい。


「劣勢だというのに、何故攻め手を緩めたのか……。それにもう一つ」

「何?」

「ギルのエリアには勇者がいなかった」

「……そういえばそうだね。いつもはいるのに」


 そう。

 それぞれの担当エリアには、それぞれ勇者が配されている。

 だというのに、ギルのエリアでは一度も勇者と相対する事がなかった。


 これはどういう事なのか……。


「ギル、どう思う?」

「ここにいるなら、別の所にいるんじゃないの?」


 それはそうなんだが……。


 ……そう……いう事か。


 単純な話だが、恐らくそれが正解だ。


 やられたな。


 その時、部屋のドアが勢い良く開かれた。


「おい! アルド!」

「アルドラルン!」


 私の名を呼びながら部屋へ飛び込んできたのは、フィルとミラルディーネだった。


「二人共、どうした?」

「ミラルディーネ(私)の居城が落ち(まし)た(わ)」


 二人の言葉が同時に発せられる。


 その言葉に、私はそれほど驚かなかった。


「勇者が多かったからか?」

「お? おう。よくわかったな」

「どうしてわかりましたの?」


 やはりそうだ。

 ギルのエリアで勇者に遭遇しなかったのは、勇者を全員ミラルディーネの担当エリアへ集中させていたからだ。


 メルバルトは今まで、勇者を各エリアに分散して勝ち進んできた。

 しかし、最近ではその戦法で我々四天王の猛攻を防ぐ事ができない。

 だからここに来てメルバルトは戦法を変えてきたのだろう。


 勇者の戦力をここに集め、一点突破を図ってきたのだ。


 いや、勇者だけじゃないか。

 戦法を悟られないようにある程度の戦力を残してはいたが、他のエリアの兵力そのものを削ってミラルディーネのエリアへ集中させていた。


 そして、一気にミラルディーネの居城を目指して攻めてきた。


 この戦法の最終目的は恐らく奇襲。


 そのまま魔王城まで攻め、魔王様を討ち取る事。

 大将さえ倒してしまえば、戦いは終わる。

 恐らく、それ以外に勝てる見込みはないと踏んだのだろう。


 向こうもそれだけ追い詰められているという事か。


「さて、どうしたものかな……」


 メルバルトの勇者は、四十名前後だと聞く。

 私とフィルのエリアで確認できた勇者の総数は十七名。

 残りは大体、二十三から二十五名程度だと予測できる。


 勇者はだいたい十名で四天王と互角なので、四天王三人で当たれば勝てる計算だ。


 何事も計算通りにいくという事はないが、抗するには最低でも三人を向かわせなければならんという事だ。


「どうするんだ? アルド」

「何すればいい? アルド」


 フィルとギルが訊ねてくる。

 ミラルディーネも口を開く。


「アルドラルン。あなた、わたくしの事はミラと呼びなさい」


 何だ唐突に?


「急にどうした?」

「だって、みんな愛称で呼び合っているのに、私だけ仲間はずれみたいじゃありませんの。ミラと呼んでいいから、わたくしもあなたをアルドと呼びますわ」


 寂しかったのか。


「別にかまわない。断わらず、勝手に呼んでくれてもよかったが」

「相手の了承も得ずに、愛称で呼ぶのは礼儀がなっていない事ですのよ。お父様が言ってましたわ。わたくし、お父様の言いつけはちゃんと守るのですわ」


 えへん、とミラルディーネは胸を張りながら言った。

 お父さんっ子なのかもしれない。


「わかった。よろしく、ミラ」

「ええ。よろしく、アルド」


 さて、メルバルトへの対処だ。


 戦力の集中はやっかいではあるが、案外これはチャンスかもしれない。

 敵の戦力が集中しているのなら、こちらも戦力を集中させる事ができる。


 防衛もおろそかにできないため、それでも四天王の一人が守勢に回るべきだろうが……。

 さて、その残る一人を誰に向かわせるか。


 フィルとミラは論外だ。

 フィルは元気な脳筋バカで、ミラは上品な脳筋バカだ。


 攻める事は上手いが、防衛には向かない。

 挑発されたら、目の前で火計を展開されていても突っ込んで行きそうである。


 となれば、私かギルになる。

 勇者の迎撃となれば、私の攻撃力は有効だろうからギルが適任か……。


 彼女なら大丈夫か。

 何せ、彼女は子供の頃から頭が良かった。

 その頭の良さに、私はいつもすげぇすげぇと感嘆し、賛美を贈っていたものだ。


 子供の頃の思い出が蘇る。


「果物の中にある種を植えたら果物が成るから、骨付き肉の中にある骨を植えたらきっと骨付き肉が成る。埋めよう」

「すげぇぜギル! お前、天才だな」

「ふっふっふ」


 無論、植えた所で土が肥えただけだった。

 しかも今思い出すまで埋めていた事すら忘れていたな。


 ……どうやら、私の気のせいだったようだ。


 やはり、私が守備に回るべきだろうか。


 ……いや、待てよ。


 よく考えれば守りは必要ないんじゃないだろうか?

 私は今まで敵のエリアを侵攻し版図を広げ、死守する事で勝利しようと考えていた。


 相手の版図を削り、敵の本拠地へ迫る事で優位に立ち、そこで相手に交渉を持ちかける予定だった。


 しかし、その必要はないかもしれない。


 今、メルバルトは最大の戦力を一箇所に集めている。

 それはそれ以外に方法がなかったからだ。


 つまりこれは、敵の最後の手段である。

 その手段を潰せば、敵には何の手段もなくなるという事だ。


 勇者はメルバルト最大の戦力。

 それが全て無力化されれば、相手の勝ち目は全てなくなる。


 勇者を欠いたメルバルトの軍など、最早敵ではない。

 だから、勇者さえ倒してしまえれば、敵領を切り崩さずとも戦意を挫けるのではないだろうか。


 そうなれば、和平交渉どころかメルバルトを降伏させる事だってできるかもしれない。


「うん」


 私は一つ頷いた。


「決まったのか?」


 フィルが訊ねてくる。


「ああ。作戦と呼べるものではないが……。四天王全員で、勇者全員を倒す」


 勇者の無力化が勝利へ繋がるならば、もう必死に領地を守る必要はない。

 だから、こちらも最大戦力である四天王は全て一箇所に集める。


「はは、わかりやすいな!」


 フィルが嬉しそうに声をあげる。


「わたくしも、嫌いじゃありませんわよ。そういう作戦」


 ミラも小さく笑って言う。

 だから、作戦と呼べるものじゃないと言っているのに。


「ギルは?」

「いいと思う。わかりやすいから」


 みんな、作戦の良し悪しよりわかりやすさで決めてない?


 その後、私は各四天王に自分の部隊から連れてくる人員について指示した。

 居城に戻って部隊の出撃準備を整えた私達は、現地集合の形で敵に占領されたミラの居城へ襲撃をかける事となった。

 あまり関係ないけれど、某ゲームにあった「一か所に金を集めればそれを狙った悪い奴全員集まるから、集まった所を全員倒そう!」という脳筋作戦めっちゃ好き。


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