八話 団結する四天王
魔王様のお墨付きを得た事で、私は何の憂いもなく侵攻作戦を進めた。
フィルとの共同作戦を執る私は、順調にそれを成していった。
敵兵力の構成によって、フィルの空中戦力と私の地上戦力を使い分け、もしくは両方を使い、私達の部隊は次々にメルバルト領を切り崩していく事となった。
しかしながら、敵の本拠へと近付くと抵抗は激しくなり、思うように攻める事は徐々に難しくなっていった。
戦線が短くなれば兵力の投入や補給が容易くなり。
そして、本拠地へ攻め入られる危機感から兵士も必死になるという事だろう。
それに、二つのエリアが突出した事により、包囲を受けるようにもなった。
とはいえ、前の時のように私だけが突出していた時に比べればかなり楽だが。
フィルの担当エリアが私の担当エリアを覆うように伸びたため、私の担当エリアが攻められる事は少なくなった。
攻撃を受けるのは、もっぱらフィルのエリアである。
だから、私の部隊の戦力を彼女のエリアの防衛へ回す事ができ、戦線を収縮させなくとも防衛する事ができた。
ただ、相手の反攻で領地を奪い返される事はないが、守りに手一杯で進む事が難しくなってもいた。
やはり、問題は侵攻エリアの突出に対する包囲作戦か。
突出するエリアが私とフィルの二つになったとはいえ、棒のように細く伸ばしていけば側面を衝かれてしまうのは必定。
半ばで分断をされてしまうと前線が孤立する恐れがあるため、防衛をおろそかにする事もできない。
フィルとの協力体制もここが限界のようだ。
他の四天王との協力体制構築はやはり大事だ。
できるならミラルディーネとの協力体制を結び、ギルも加えた四天王全戦力による点ではなく面による侵攻作戦をとれるようになる事が好ましいが……。
ミラルディーネを説得できる自信がない。
彼女と協力体制を結ぶ手間を考えれば、間は空いてしまうがギルと共同作戦をとって彼女のエリアを延ばしていく時かもしれない。
そんな時に開かれた四天王会議での事だ。
「嘘よ! ありえませんわ!」
会議室へ入るや否や、ミラルディーネの悲鳴じみた声が聞こえた。
見れば彼女はフィルに対して怒鳴っているようだった。
「嘘じゃねぇぜ」
対するフィルは、得意げな顔で答える。
それを訊いたミラルディーネは愕然とした。
「あ、ありえない……。フィルラマンジェが私よりも侵攻エリアを増やしているなんて」
「へへ、きょうりょくたいせーのおかげだぜ」
「協力体制ですって?」
「仲良くするって意味だぜ」
「意味くらいは知ってるわよ! バカ!」
「バカじゃないぜ!」
どうやら、ミラルディーネはフィルにメルバルト領への侵攻度で負けている事を知ってショックを受けたようだ。
しかし、これは止めないと肉体言語による会議に発展してしまうかもしれない。
そう思って止めようとした時、ミラルディーネの視線が私を捕らえた。
「アルドラルン。つまりは、あなたと協力した事でこのおバカは調子に乗っているのですわね?」
「バカじゃないぜ」
私へ発せられたミラルディーネの問いをフィルが否定する。
「確かに、協力した事で侵攻作戦は順調だな」
それを無視して、私は答えた。
「そう……そうなの。いいわ。わたくしもあなたと協力体制を結んであげる」
「本当か?」
「ええ」
思いがけない事だが、彼女の協力を取り付けられるなら嬉しい。
今後の侵攻作戦もうまくいく事だろう。
「四天王最強の自分には協力なんて必要ないんじゃねぇのか?」
フィルが口を挟む。
確かにそれは、前にミラルディーネが言っていた事だ。
「ぐっ、それは……。で、でも、今の四天王最強はわたくしじゃないかもしれないじゃありませんのよ」
「ああ? どういう事だ? 四天王最強はあたしだって認めるのか?」
何故そんな話になる?
「それは違いましてよ。だってあなた、アルドラルンに負けたじゃありませんの」
「そ、そりゃあ、そうだけど……」
フィルが怯む。
「アルドラルンは今、あなたとギルトスタンに勝てるという事ですわね」
ギルトスタンの根幹属性は地。
風の根幹属性に弱い。
つまり、戦えば私の方が有利というわけだ。
それでも、ギルトスタンは根幹属性の相性では覆せないほどに強いのだが……。
ギルトスタンは種族的な特徴から防御力が高く、たとえ根幹属性が不利でも生半可な攻撃では打ち崩せないほどだった。
私がそれを打ち崩せたのは、猛虎豪衝破があるからだ。
実の所、私の猛虎豪衝破は彼女を倒すためだけに編み出した技だったりする。
子供の頃から幼馴染にどうあっても勝てなかった私は、どうにか倒すために技の攻撃力だけを高めていった。
そうしてできたのがあの技なのである。
ミラルディーネは言葉を続ける。
「四天王二人を倒せる実力を持っているのだから、同じく四天王二人に勝てる私と同じ実力という事ですわ」
「な、なるほど! 確かにそれなら、どっちが最強かわからねぇな」
私はミラルディーネに勝った事がないのだから、それはちょっとおかしくないか?
「そして、四天王最弱はフィルという事ですわ!」
「な、なんだってー! 何でそうなるんだよ?」
「だってあなた、今の所四天王の誰にも勝てないじゃありませんの」
「そうだけど……」
そうか、フィルは四天王最弱になってしまったのか。
しかし……。
何の話をしていたんだっけ?
「……それで、何でこんな話していたんだったかしら?」
「こっちが訊きたい」
「そうでしたわ。つまり私が言いたかったのは四天王最強が誰かわからなくなったのだから、協力体制を結んでも全然問題なくなったという事ですわ!」
何だ、その納得できそうでできない理由は。
何より、そもそも誰が最強でも始めから問題はない。
でも、それで協力体制を結べるのならば理屈などどうでもいい。
「おい、ちょっと待てよ。でも、アルドラルンはミラルディーネに勝った事がないんだから、やっぱりお前が最強なんじゃねぇのか?」
フィルが口を挟む。
気付いたか……。
でもややこしくなるから今はちょっと黙っててほしい。
「えーと、わたくしでは勝てないギルトスタンに勝てるのですから同じぐらいですわ」
「そっか! わかったぜ」
わかったのか。
ギルもフィルとミラルディーネに勝てるんだけどな。
それだと、最強が三人いて最弱が一人という事にならないか?
しかし、これでミラルディーネの部隊の作戦へ参加する事ができそうだ。
それで侵攻を手助けできれば、私とフィルのエリアだけが突出した現状を打破できる。
側面からの襲撃を防ぐ事もできるようになる。
ギルとの連携もようやくとれるようになる。
「とりあえず、それについての話し合いをこの会議でしようか」
「わかりましたわ」
よし。
順調だな、あとは……。
「僕は?」
声をかけられて見ると、席に着いていたギルがこちらを向いていた。
いたのか。
入ってすぐに二人の口論に巻き込まれたから気付かなかった。
「もちろん。ギルにも手伝ってもらう。これで、四天王全員での共同作戦を取れるようになったからな」
「わかった」
その後、私達は今後の協力体制と共同作戦について話し合った。
その話し合いが終わり……。
「そういえば、この前お父様に呼び出されたそうですわね」
ミラルディーネが声をかけてきた。
「そうだが」
「何でも、うちにお婿さんに来るという話をしたそうですわね」
そんな主旨ではなかったはずだが……。
しかし、こんな話を当の本人とするのは気まずいな。
すると、ミラルディーネは少しだけ思案してから次の言葉を紡ぐ。
「それはあなたがお父様と結婚するという事ですの?」
アッー!
どうやらミラルディーネには、自分がその対象になるという意識がないようだった。




