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四話 奇襲作戦

 結局、偵察の経験がある人材は我が部隊にいなかった。

 なので、私自身が斥候を務める事にした。


 今の私はいつもの獣人姿ではなく、人間の姿をしている。

 この姿なら、敵に出くわしても何とか言い逃れる事ができるかもしれないという配慮だ。


 獣人に限らず、魔族は人間の姿になる事ができる。


 魔族というものは、常に魔力を消費して生きているのだが。

 しかし、この姿の時は本来の獣人形態よりも魔力の消費が少ない。

 ほぼ皆無と言ってもいい。

 その代わり、戦闘能力が極端に落ちるというデメリットがある。


 要は省エネ形態である。

 魔族にとってこの姿は、力を抜いた一番楽な姿と言える。


 ただ、魔族は基本的にこの姿が好きではないらしく、好んで人間の姿になる者は少ない。


 本当は人間形態のまま相手に近付き、そこで魔族の姿に変身して戦うという奇襲戦法を取るのが良いと思うのだが……。


 まぁ今度、部隊のみんなに作戦案として提案してみよう。

 もしかしたら、我慢して言う事を聞いてくれるかもしれない。


 しかし……。

 魔族にとって一番自然な姿が人間の形というのは不思議である。

 興味深い。


 それではまるで、魔族の姿の方が不自然なもののように思える。


 興味深いな。

 興味深いが、それについては暇な時にでも考えよう。


 と、居城から人間形態でメルバルト軍の駐留するであろう場所へ向けて偵察を行なったのだが。

 その結果、砦までの道半ばで待機するメルバルト軍を見つけた。


 そこは両脇を崖に挟まれた谷の道で、メルバルト軍はその少し前の平野で野営していた。

 そして谷の道の両脇、その崖の上にも数百名の兵士を配している。

 こちらは殆どが弓兵のようだった。


 その様子を相手から見つからないよう、遠めに偵察した。


 この配置から、メルバルトの考えている事はだいたいわかる。


 平野の軍に向けて、我が軍が攻め進んだ際。

 その途中にある谷の道で奇襲をかけるつもりなのだろう。

 崖にはある種の細工がされており、恐らくそれは落石を誘発する類の物だ。


 岩を落として谷に閉じ込め、その間に弓矢を射掛けるという作戦のようだ。

 そんな事をされるとたまったものではない。


 しかし、何をされるかわかっていれば対処は可能だ。


 あとは……。

 どうやら、勇者達は野営地と崖の上の両方に配されているようだ。


 崖の上には、主に魔法使いタイプの勇者の姿が見られる。

 何度も戦っているので見間違いようもない。

 一応、戦士タイプの勇者も一人だけいるようだ。


 崖の上には計四人。

 確か、我がエリアに対して配されている勇者の総数は……。


 今まで数えた事がないので改めて記憶を頼りに数える。

 強い相手の事は不思議と憶えているんだよなぁ……。


 確か七人。


 増員されていなければ、こちらの方に一人多く割いているわけだ。


 崖での待ち伏せに戦力を割いている。

 ここに力を入れているのだろう。


 平地の部隊は後始末をする係という所か。


 確かに、恐ろしい作戦だ。

 しかしそれは、こちらがそれに嵌ってしまった場合だけである。


 今までの私ならば敵を見つけるや否や突撃し、見事にひっかかっていただろうな。

 危ないところだった。

 前世の記憶がなければ下手をすれば死んでいたかもしれない。


 フィルラマンジェの殺戮螺旋スパイラルデストロイヤーに感謝だな。




 幸い、こちらに気付かれる事なく偵察は無事に終わった。

 偵察を終えた私は、城に帰るとすぐに行軍の準備を整えた。


 谷の部隊を打ち破り、そのまま攻められる所まで攻めるつもりなので長期行軍の準備を進める。

 準備が出来次第、城を出た。


「ガスト。頼んだ」

「へい」


 谷の道の手前で、私はガストに言う。


 私は相手と同じく、部隊を二手にわける事にした。

 本隊と相手の奇襲部隊をさらに奇襲する奇襲部隊だ。

 どうせ、相手は奇襲作戦が実行されるまで本隊へ攻めて来ないだろうから、奇襲部隊の方に戦力を集中させる。


 そして、奇襲部隊の指揮は私が執る。

 本隊の指揮を執るのはガストだ。

 それを今、彼に頼んだのだ。


 私は選抜した部隊を率いて、崖を迂回。

 敵奇襲部隊の背後を衝くように進軍した。


 息を殺し、音を殺し……。

 見つからないように相手の部隊を目指す。


 獣人というものは人以上の身体能力を有しており、そこに目を奪われがちではあるが。

 気配を消す技術にも長けている。


 この体が今まで培った技術は、相手に接近を気取らせずに近付く事も可能にする事だろう。

 そこに不安はないが、もしかしたら相手にはすでに私の作戦が気取られているのではないかという不安はある。


 上手くいくのだろうか?

 失敗するのでは無いか?

 もしかしたら、この先に奇襲部隊の姿はないんじゃないか……。

 相手に私の行動を読まれていないか。

 あの偵察で得た情報は見せ掛けで、実際はこのまま本隊が攻められやしないか。


 そんな不安を抱えながら、私は行軍した。


 そして、私達の前に奇襲部隊の背中が見える。

 どうやら気付かれてはいないらしい。


 一つ安堵の息を吐く。

 そして、私は雄叫びを上げた。


 襲撃の合図である。


 その咆哮に敵は驚き、味方の獣人達は一斉に敵へと襲い掛かる。


 奇襲によって体勢の整わない敵の部隊は、混乱の最中に私と仲間達の爪や牙によって引き裂かれた。


 前世の記憶を取り戻した私だが、あっさりと自らの起こす殺戮を受け入れていた。

 多少のショックはあるが……。


 今までにも人間を殺してきた記憶がある。

 それが罪悪感を薄れさせているのかもしれない。


 敵が混乱から覚める。


「豪風のアルドラルン!」


 横合いから声が聞こえた。


 豪風は私の二つ名だ。

 四天王にはみんな二つ名がついているが、今思うと少し恥ずかしい。


 見ると、そこには魔法使い系の勇者が二人いた。

 私が向くのと同時に、火球を放ってくる。


 反射神経を頼りに、火球を避ける。


 次いで、背後を狙った斬撃をかわし、斬りかかってきた相手の腹に肘打ちする。

 が、肘に返ってきたのは硬質な鎧の感触だ。

 ダメージはいっていないだろう。


 それでも、背後の相手はよろめいて後退した。

 見ると彼は、戦士系の勇者のようだ。


 残り一人の勇者は、崖の向こう側に配されているようだ。


 好都合だ。

 ここにいる勇者をひきつけられれば、体勢の崩されたメルバルト軍は部下が叩いてくれる。

 同数程度の兵士なら、魔族の方が有利だ。


「何故貴様がここにいる!?」


 勇者が訊ねる。


「お前達の奇襲を潰しにきた」

「な、に……?」


 驚くのも無理はない。


 今までの私達には、突撃以外の選択肢がなかったのだから。

 看破され、あまつさえ阻止されるなど思いもしなかったのだろう。


「おのれ!」


 戦士系勇者が再び斬りかかって来る。


 私はバックステップで剣を避けながら、振り返って風魔法の刃を背後へ放つ。

 その方向には、二人の魔法使い系勇者がいる。


 まさか攻撃されるとは思わなかったのだろう。

 一人は避ける事もせず、刃によって胴から真っ二つになった。

 もう一人にも当たったが、どうやら防御魔法を張ったらしい。

 吹き飛ばされて、後ろにあった木にぶつかって動かなくなった。


 続いて斬りつけてくる戦士系勇者。

 対して、斬撃の合間を衝いて軽い掌底で相手の顔を打つ。


 ジャブ程度のものだが、獣人の力で放たれたそれはかなりの痛手だろう。


 それを証拠に、戦士系勇者は鼻血を流して後退した。

 その隙を逃さない手は無い。


 ダッキングで詰め寄り、下から顎を掌底で打ち上げる。

 打ち上げられた顎へ、さらに左右からのフック軌道の掌底連打。


 右からの二撃目を受け、戦士系勇者は勢いよく頭を地面へ打ち付けられた。


 他の人間兵士達も壊走しつつある。

 あとは向こう側の崖にいる兵士達だ。


 兵士達の中には、最後の魔法系勇者の姿もある。


 その勇者めがけて、私は球形の魔法を放つ。

 勇者は周囲の兵士達になにやら叫ぶ。

 どうやら、これがどんな魔法なのか理解しているようだ。


 魔法が相手のいる地面へ着弾する。

 と同時に、その場で竜巻が巻き起こった。


 付近にいた兵士達が竜巻に巻き上げられる。

 その兵士達は体中をズタズタに裂かれた末に、辺りへ体を吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた兵士の中には、そのまま谷の下へ落ちていく者の姿もあった。


 多くの兵士がそれに巻き込まれ、その光景はまさに惨状と言ってもいい有様であった。


 ただ、勇者はそれを回避したようだ。

 伊達に勇者と呼ばれる存在ではないな。


 その後、勇者は兵士達に指示を出し、その場を去って行った。

 不利だと悟ったのだろう。


 いい判断だ。

 いくら魔法系の勇者と言えど、一人で四天王と魔法の撃ち合いをするのは無謀である。


 さ、敵の奇襲作戦は潰した。


 あとは本隊だけだ。

 さっきの勇者が本隊へ奇襲の失敗を伝えるだろうから、攻めてくるかもしれない。

 ……いや、この崖を確保された時点で、逆に奇襲を受ける可能性があるから撤退か迂回してくるかもしれない。


 どちらであっても、すぐに動いた方がいいだろう。


「兄貴。こいつら、どうするんだ?」


 部下の一人に呼ばれて見ると、そこには二人の勇者が気を失って倒れている。


「捕虜にする」


 答え、改めて勇者達をじっくり眺める。


 よく見れば、彼らの装備には火の魔法がかけられている。

 属性付与という奴だ。

 人間に根幹属性はないが、これなら風の根幹属性を持つ私へ大きなダメージを与えられるし、受ける攻撃を軽減する事もできるだろう。


 改めて思うと、私はよく研究されていたようだな。


 思えば今までの戦いのパターンも、いつも同じだった。

 いつもの私は、勇者の巧みな攻撃に翻弄されて苛立ち、大技を使って疲れた所を攻められる。


 私には猛虎豪衝破タイガーブレイカーという必殺技がある。

 四天王最強の誇る威力の技であり、その威力は堅牢な城壁をいとも容易く打ち貫くほどだ。

 しかし、それは当たればの話である。


 まず使うのに準備時間がある。

 数秒で済む事だが、勇者達がその数秒を見逃す事は無い。


 そしてその技を自らの魔力の殆どを使って放つものだから。

 一度使うと、ヘロヘロになる。


 そこをいつもやられてしまうのだ。


 ただ、今回の私はそんないつもの大雑把な戦いをしなかった。

 相手も驚いただろう。

 言わば、部隊の奇襲だけでなく、精神的な奇襲も受けたわけだ。


 だから、その動揺であっさりと倒す事もできた。


 しかし、火の装備を固めているという事は、ここにミラルディーネを投入していれば成す術がないんじゃないだろうか……。

 やはり、四天王間の協力体制は必要だ。


 その後、ガストの率いる本隊へ合図を送った。

 敵の本隊は撤退を選び、途中で私の合流した自軍本隊はその後方を衝いた。


 相手は崖での奇襲作戦が成功する事を疑っていなかったのだろう。

 戦うと無傷だった私達の部隊に動揺していたのがよくわかった。


 そして全軍を以って、我々は敵本隊を壊走させた。

 勇者も一名を捕虜とし、残りを討ち取った。


 ここで我が担当エリアの勇者を全て無力化した事により、以降の侵攻はとても楽になった。

 

 勇者という切り札を失ったメルバルト軍は戦力を著しく低下させ、その隙を衝く形で我々はメルバルト領へ続けて侵攻を開始した。

 そのまま攻め、いける所までいった結果。


 中心ラインを越えて、メルバルトの領土半ばまで攻め入る事ができた。


 ただ、そこまでだった。

 書き忘れていましたが、必殺技の訳が奇妙なのは仕様です。


 では、良いお年を。

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