二話 現状把握
明日は更新できないので、今日は二話分更新致します。
私が考えをまとめている間にも、会議は進む。
そもそも、この会議は何なのか。
それが何かについては、私の立場が関わっている。
魔王軍は今、戦争中なのだ。
それも相手は人間。
この大陸は、二つの勢力に分かれている。
大陸の北を支配する魔王の国。
所謂、魔界。
そして、南にある人間の国。
メルバルト人類共同国。
その二つである。
この二つの勢力は、もう三百年以上争っていた。
メルバルトの目的は魔族の廃絶、それによる人類の安寧だと聞いた事がある。
実際はどうなのか知らないが。
魔界の方は……。
わからない。
そういえば、今まで気にした事がなかった。
記憶を取り戻していない私は、とにかく敵を倒すというのが戦争だという単純明快な考えに則って戦っていた。
戦いの理由など、考えた事がない。
状況から考えると、人類の侵攻に抗しているだけなのかもしれない。
が、そもそも魔界が侵攻を行ったからこそ、メルバルトがあのような標榜を掲げている可能性もあった。
それについては暇な時にでも調べていくとしよう。
二つの勢力は、大陸のほぼ中心位置で一進一退の攻防を日夜繰り広げている。
情勢によって度々変わるが、大陸を中央で二分するそのラインが国境と言えるだろう。
暗黒魔界四天王の役目は、その最前線でメルバルト人類共同国に対する侵攻と防衛を行う事である。
私達四天王はそのラインから少し魔界寄りの位置に、ラインに沿う形で建てられた四つの居城をそれぞれ基地として軍事行動を展開していた。
この会議はその戦いのためのものだ。
侵攻作戦や防衛作戦について相談するため、定期的にそれぞれの居城にて会議する事が魔王様より義務付けられていた。
しかし――
「最近の人間はどうも鬱陶しいと思わないか?」
「そうですわね。この前も、わたくしの部隊に多くの被害が出て撤退せざるを得ませんでしたわ」
フィルラマンジェとミラルディーネが言葉を交し合う。
「最近の人間は手強い」
ギルが言う。
「あ、別にあたしは手強いなんて思った事はないぜ。ただ、鬱陶しいだけだぜ」
「わたくしも、別に苦戦しているわけではありませんわ。鬱陶しいだけですわ」
フィルラマンジェとミラルディーネはギルの発言を否定する。
「本当に、前はもっと深くまで攻め入れたのにな。でも、それはきっと軍勢が少ないからだぜ。だからさ、もっと部隊の人間を増やして攻めれば大丈夫だと思うんだよ」
「あら、それは良い考えですわね。数を増やせば絶対に勝てますわ」
「だろ? 良い考えだろ? きっと、今の倍くらい兵を集めればそのままメルバルトの本拠地まで攻め入れるぜ」
「ええ、そうね! だったら、わたくしはあなたよりも多くの軍勢を使って、あなたよりも先に本拠地まで攻めて見せますわ」
「何だと! じゃああたしはその倍の兵力を出してやるぜ」
二人の会話だが……。
なんだろう、これ?
作戦?
まぁ、兵士の数を増やせれば有利というのは真理であるが。
その兵士をどこから持ってくるのか。
兵士の補充も簡単な事ではないというのに。
彼女達による作戦会議と評するには余りにもお粗末な談議は、今回に始まった事ではない。
しかも、これが彼女らなりのおふざけの雑談でなく、彼女らなりの作戦立案であるのだから始末が悪い。
長い付き合いなので、二人が本気である事はよくわかる。
二人共至って真面目だ。
ただ、思慮に欠けるだけなのである。
そしてさっきまで、この中に私も入っていたという純然たる事実が存在していた。
作戦会議の内容は、だいたいこの調子のまま終わる。
フィルラマンジェとミラルディーネと私の三人が作戦とは言えないよくわからない事を話し合い、最後には誰かしらが誰かしらの怒りを買い、口論となり……。
殴り合いになる。
ギルトスタンは何も言わないし、口論もしないのだが。
会議なのだからそれはそれでいけない。
魔王様に義務付けられている事ではあるが、暗黒魔界四天王の会議は会議の形をしていないただの雑談会以上の何物でもなかった。
魔族というものは人間よりも優れた力を持っている。
だが、それゆえにという事なのか、基本的に感情的で思慮に欠ける者がほとんどだ。
悪い言い方をすれば魔族とは、だいたいが脳筋なのだ。
かくいう私もそれに漏れず……。
どれだけ脳筋かといえば、遠距離魔法の方が得意なのにいつも初手で肉弾戦を選んでしまう程度には脳筋である。
四天王それぞれの運用する軍も統率こそ取れているが、制度はガバガバだし、戦術や戦略、調練などもかなり大雑把なものだ。
しかし、それではいけない。
何故なら、今の魔界は人間の勢力に押され気味だからだ。
魔族は人間よりも圧倒的に身体能力が高く、魔力の扱いにも秀でている。
だから今までは人間以上の力で力任せに攻める方法でも何とかなったが、昨今はそれが通用しなくなっている。
人間の軍は四天王の軍以上に統率が取れ、あらゆる面の制度化が成されており、戦術や戦略の研究も怠らず、それらを実行に移す練度も兵達に備わっている。
力頼りの魔族とは逆の、知による軍事行動を成しているのだ。
そして、その知は今や魔族の力を上回る。
それだけでなく、人間側には他の強みがある。
それは勇者の存在だ。
ここで言う勇者とは、ゲームなどでよく見る神々に選ばれたような伝説的な存在では無い。
時折人間の中に生まれる人間以上の力を持った存在である。
その力は一般的な魔族を凌駕する。
メルバルトは、そんな人間でありながら人間離れした存在を勇者という名で呼称している。
恐らく、国民の戦意高揚を狙っての事だろう。
英雄の類があると、人々は戦時中の人間は意欲を示すものである。
この勇者だが。
昔は十年に一人生まれるような割合だったそうだ。
が、ここ最近は生まれる頻度も高くなっている。
今は、人間の軍に四十人ほどいるそうだ。
同世代がまとまって生まれているのは、今までの事を考えれば以上事態である。
勇者の力の程は、並の魔族ならば歯牙にもかけず、しかし我ら四天王クラスの相手には遠く及ばないくらいだ。
並以上、四天王未満である。
それでも、勇者同士で十人程度の徒党を組めば四天王一人にも匹敵する。
私自身、戦争の最中に何度も戦っている。
皆、対魔族の戦い方を心得ていて、かなり厄介な相手だ。
勇者のいる戦場では、私が勇者と戦っている間に他の魔族達が人間の兵士にバタバタ倒されていき撤退を余儀なくされるというパターンが多い。
とはいえ魔族の兵士達が弱いわけでなく、数の差に圧されるためだ。
人間の繁殖力は魔族を凌ぎ、いつも倍数に値する兵士と当たる事になる。
そして、人間は対魔族の戦闘術を磨き続けていた。
だから、どうしても不利になってしまうのだ。
しかしながら、いつもそのパターンで負けるのにどうして対応しない?
私は自分自身にツッコミを入れる。
いつも撤退する時には「憶えていろよ」と捨て台詞を吐いていたが、お前が憶えていろと言いたくなる。
と、軍の精鋭化、勇者の存在があり、今の魔王軍は旗色が悪くなっているわけだ。
前までは人間の国へもっと奥深くへ攻められたのだが、今ではそこまでいけない。
それどころか、元々魔界の領土だった部分が削られる事も最近では多い。
ちなみに今の状況を具体的に言えば、中央のラインを割って四天王の居城近くまで攻め入られている状態だ。
それも、四天王全員の居城近くまで。
その行動から、相手が足並みを揃えての四天王居城の同時攻略を考えている事は明白だった。
そしてその中でも、一番メルバルト軍の侵攻を許してしまっているのは私だった。
ここで雑談会を開いている場合ではないぐらいの危機に見舞われていた。
状況を鑑みて、私は小さく溜息を吐いた。
「少し提案があるのだが……」
会議の最中、私も提案する。
すると、彼女達が私を見た。
……改めて思うと男女比がおかしいな。
私以外全員女性だ。
四天王達から視線を集める中、私は提案を口にする。
「もう少し、四天王間での協力体制を整えた方がいいと思うのだが……」
私が言うと、フィルラマンジェが自分の耳の穴を小指でほじくりながら言葉を返す。
「どういう意味?」
「言葉通りの意味ですが?」
「きょーりょくたいせー?」
フィルラマンジェは奇妙な発音で訊き返す。
どうやら、フィルは単語の意味を理解していないらしい。
そこから?
「もう少しお互いに力を貸しあった方がいいんじゃないかという話ですわ」
答えると、フィルラマンジェではなくミラルディーネが口を挟む。
彼女はそのまま言葉を続ける。
「何を言うのかと思えば……。確かに、あなたは力を貸してもらう必要があるかもしれないわね。四天王最弱のあなたには」
厳密には最弱ではないが……。
「でも、四天王最強のわたくしには、そんなもの必要ありませんわ!」
ミラルディーネは両手の人差し指を私に向けながら言った。
何そのポーズ?
「ああん? 四天王最強はあたしだぜ!」
ミラルディーネの発言にフィルラマンジェが噛み付いた。
「わたくしに一度だって勝った事がないくせに、何が最強なのかしらね?」
根幹属性が水のミラルディーネが、火のフィルラマンジェよりも有利だ。
ちなみに私の根幹属性は風であり、火のフィルラマンジェを苦手としている。
そして、私はフィルラマンジェにもミラルディーネにも勝てないので最弱と言われている。
「そんな事より」
二人が喧嘩を始めかねないのでそれを止めるために言葉を発する。
二つの視線がこちらへ向けられる。
「私の提案について、返答を願いたい」
私が訊ねると、フィルラマンジェとミラルディーネが答える。
「言葉遣いだけじゃなく、頭までおかしくなったんじゃないかしら? 最強のわたくしが最弱と組んでも意味ないじゃありませんの」
「あたしも、自分より弱い奴と組みたいと思わないね。あと、最強はあたしだぜ」
芳しくないな。
「ギルは、組んでもいい」
一人、ギルだけは良好な返事をくれた。
「ありがとう」
それから特に波乱もなく、会議は終わった。
フィルラマンジェとミラルディーネが細々と口論していたが、取っ組み合いの喧嘩に発展する事はなかった。
二人は仲が悪いため、少し冷や冷やしていたのだ。
しかしそもそも、会議で言葉ではなく拳が交わされる事の方がおかしいのだが。
会議が終わり、フィルラマンジェとミラルディーネは会議室から出て行った。
しかし、私はその場に残ってしばらく考え事をする。
ギルが提案に応じてくれたのは良い。
でも、問題が一つあった。
四天王の居城は大陸中央のラインに沿って横並びに建っているが、四天王が侵攻を受け持つ範囲というのはその居城から直線状に南下したエリアに当たる。
つまり、居城から一直線に進んでぶち当たる範囲という事である。
私が守る居城は一番西で、ギルの居城は一番東だ。
その間に、フィルラマンジェとミラルディーネの居城がある。
つまり、私とギルの居城は両端にあるため、協力を体勢を結んでも軍事的な協力ができないという事である。
援軍などを出す事ができないため、協力関係を結んでもあまり意味がないわけだ。
メルバルトの侵攻を一番許してしまっているという我がエリアの状況を打破するためにも、ギルを当てにする事はできない。
隣のエリアを担当するフィルラマンジェと協力体制を結べれば一番よかったのだが……。
フィルラマンジェとミラルディーネに断わられてしまった以上、自力で何とかせねばならないわけだ。
しかし、自力でどうにかできるならば、ここまでの侵攻を許していない。
どうしたものかなぁ……。
どうにもならなくとも、なんとかしなくちゃならないのだが。
「アルド。どうした?」
すると、ギルが声をかけてくれる。
私とギルは幼馴染だ。
その好で彼女は私をよく気にかけてくれる。
私自身も彼女を大事に思っていた。
魔界において、親しくない者が名を省略して呼ぶ事は失礼という慣習がある。
名前が長いほど良いという慣習もあり、それと合わさってとても厄介な慣習である。
「少し、な」
「なんだか大人しい。アルドじゃないみたい」
「そうだな」
私は立ち上がる。
考えていても仕方がない。
今は行動だ。
今の自分にできる事から始めよう。
「まぁ、心配はしなくていい。少し、頭の打ち所が良かっただけだ」
「頭を打つ事は良くない」
まったくだ。




