一話 思い出した前世
短編のつもりで書いていたら、文量が多くなったので分けました。
全十話の予定です。
毎日一話ずつ更新致します。
前に書いていた話と似たタイトルですが、繋がりはありません。
実は最初に思いついたのはこちらの話の方だったので、向こうの方がタイトルを輸入されていたりします。
まず、何から語るべきだろう。
私の置かれる状況が、私の精神にどのような混乱をもたらしているか。
その一端でも伝えるには、どう切り出せばいいだろう。
……そうだな。
とりあえず、目の前にいる美少女について話しておこう。
そう、美少女である。
そのあたりにいる凡百の少女とは一線を画する、玉石混交の中に燦然と輝く一粒の珠玉の如き美少女だ。
「立ちやがれ! この野郎!」
少女は私に罵声を浴びせる。
それだけならいい。
空前絶後の美少女と相対し、睨まれ罵倒されるという時点で混乱する要素は既に存在しているが。
それでもまだ、常識的な範囲ではあろう。
その要素すら霞む状況が私の視野には未だ存在する。
常識を脱ぎ捨てるのはこれからだ。
少女の髪が燃えるような赤というのもまだいい。
ただ、その少女の背には髪と同じ赤の翼が生えていた。
全体的にそうというわけではないが、肩や太腿など、皮膚の所々からは鳥の羽に覆われている部分がある。
脚も人間の物とは違い、鳥の爪のような形をしている。
まるで、人間と鳥が合体したかのような姿だ。
それもそのはず。
彼女は人間ではなく、人鳥という種族だった。
彼女の名前はフィルラマンジェという舌を噛み切りそうな名前である。
ちなみに、私の名前はアルドラルンだ。私も人の事は言えない。
フィルラマンジェには殺戮螺旋という必殺技がある。
さながらドリルの如く回転しつつ、鋭く尖った足の爪で相手をズタズタに引き裂くという猟奇的な技だ。
これを受けた人間はズタズタのボロボロになり、最終的には人としての原型を留められぬ状態となって死ぬという。
人間の密集した場所へ繰り出せば、多くの人間が瞬時にして死ぬという恐るべき殺戮奥義である。
今しがた、私が食らった技でもある。
なら、私も今頃は人の形をしていないではないかという話になるが、別段そんな事はない。
私が彼女の技を受けて負った被害など、せいぜい体中がちくちく痛む事と吹き飛ばされて壁で後頭部を強打した事ぐらいだ。
何故、この凶悪な技を受けてその程度で済んだのか?
それは、私が人間ではないからである。
そもそも人間ではないから、始めから人の形をしていないというのは詭弁だろうか?
そういう私がどんな形をしているかといえば、フィルラマンジェと同様半人半獣の姿をしている。
白と黒の体毛に全身を覆われ、人の体と虎の頭を持つ人虎という種族だ。
そして、この場には私と彼女だけでなく、あと二人の人物がいる。
当然、二人共人間ではなかった。
ここは魔界と呼ばれる地域で、我々は魔族と呼ばれる存在である。
魔界には多くの多様な魔物が住んでおり、この場所に我々がいる事は別段おかしな事ではなかった。
ただ、私にとって先ほどまで常識的だったその認識が、急激に非常識さを帯びてしまったのには理由があった。
その理由とは、私が前世の記憶を思い出してしまった事である。
私は前世で、日本という国で暮らしていた人間だった。
だからこそ、人間のいないこの空間の非常識さに戸惑っていた。
思い出した原因は、例の殺戮螺旋によって頭をぶつけたためだろう。
「アルドラルン! てめぇ、いちいちあたしに突っかかってきやがって! 今日こそ我慢ならねぇよ! ぶち殺してやる!」
フィルラマンジェが怒鳴りつけてくる。
上等だ、この野郎!
と口を衝いて出掛かった言葉を無理やり噛み殺す。
いつもの癖で言い返しそうになった。
というか君、いつも我慢しないじゃないか。
そもそも、どうして私が彼女の恐るべき殺戮奥義をお見舞いされたかについてだが。
話し合っている最中に口論となったからだ。
ただ途中で反論が反撃に変わってしまっただけの事である。
口論の原因は憶えていない。
それは頭を打った衝撃か、もしくは私が始めから何も考えずに勢いのまま物を言っていたかのどちらかだろう。
いつもなら私もここで反撃する所。
しかしながら、前世の記憶を取り戻した私にその選択肢は無い。
これ以上口論する意味を見出せないのも理由の一つだが、何より私自身が現状に困惑していたからだ。
正直、彼女に怒鳴られようがどうでもよかった。
「すまない。私が悪かった」
「あ? 私?」
フィルラマンジェは私の態度に拍子抜けしたらしく、困惑の表情を作る。
まぁ、いつもならこの後バトルに発展するものだから。
困惑するのもわかる。
私自身だって今は困惑している最中である。
「……何だ。えらく、大人しいじゃないか。それに、私だなんて気持ち悪い」
酷い言われようだ。
確かに、普段の一人称は俺である。
突然変われば驚くか。
「頭の打ち所が悪かったんじゃないかしら?」
フィルラマンジェの言葉に答えたのは私ではない。
部屋の奥。
先ほどまで、私が着いていた円卓の席。
その別の席に座っていた少女だった。
こちらもフィルラマンジェに負けず劣らず美少女だ。
青い長髪に、青いドレス。
全体的に青い印象の彼女は、名をミラルディーネという。
ただ、先ほども言った通りここにいる人物は全員人間では無い。
ミラルディーネもその例に漏れず、基本的に人間型だが人間にあるまじき特徴を持っている。
頭には木の枝みたいな角が生え、肌の所々に青い鱗があり、金色の目は猫のように瞳孔が割れている。
そして極めつけにトカゲのような尻尾が生えていた。
彼女の種族は竜。
それも水の根幹属性を持つ水竜だ。
「大丈夫か?」
歪んだ声が横から聞こえ、そちらを見る。
全身を黒い鎧のような皮膚で覆われた人物がこちらへ手を差し伸べていた。
その人物は矮躯で、身長は俺の半分ほどしかない。
果たして、手を引いても俺の体重を支えられるのだろうか?
という不安を少しばかり抱いたが、彼女ならば大丈夫だろうと思いなおす。
そう、彼女だ。
全身を黒い鎧のような皮膚で覆われ、背中には亀の甲羅を背負った彼女はギルトスタンという少女だ。
私は彼女をギルと呼んでいる。
たしか、黒金亀という種族だったか。
声が歪んでいるのは、顔を覆うヘルム状の皮膚が原因だ。
中で声が反響しているのだ。
素直に手を取り、礼を言う。
「ありがとう。ギル」
「ん? うん」
返事をする彼女の声には、小さな困惑があった。
今までの私ならそもそも手をとらなかったかもしれない。
自力で立ち上がってフィルラマンジェに殴りかかっていっただろう。
「それより、会議を続けてほしい」
私の言葉に、釈然としないながらもフィルラマンジェは席へ戻った。
私とギルトスタンも同じく席へ戻る。
この場所はギルの居城だ。
その一室。
俺達が会議に使っている場所だった。
全員が席に着くと、会議が再開される。
思い思いにそれぞれが案を口にする中、私だけは一人黙り込んでいた。
この自分を取り巻く状況。
そして、その状況に困惑する自分の心を鎮めるためだ。
さて、まず取り戻した記憶。
人間だった頃の私の事だ。
前世の私は、日本という国で暮らしていた平凡な成人男性だった。
あまりにも平凡、凡庸とした人生を送っていて……まぁ、たいした人間ではない。
あまりよく憶えていないが、こうして第二の人生を歩んでいるという事は最初の人生はとうに終わっているのだろう。
下手をすれば今の人生の方が長いため、特に愛着があるわけではないが。
ただ生前の知識、これを取り戻せた事はよかったかもしれない。
今必要な知識だ。
そして、今の私だが……。
生まれ変わった今の人生の記憶は全て残っている。
だから、幸いこの世界の事が何もわからないという事はなかった。
しかも、私はこの世界……というより、魔界において極めて上位の社会的立場にあった。
この魔界の支配者、魔王。
その直下に位置する高位の配下。
魔王の軍において魔王に告ぐ権力を有した四人の魔族集団。
その名も、暗黒魔界四天王に。
つまり私は……。
気付いたら、暗黒魔界四天王になっていた。




