だごん様
お久しぶりです、脇坂屋です。
ほとんどの方は初めまして
最近ラヴクラフトにハマってまして、書いてみました。
良かったら読んでください
その祭りは成人したものだけが参加を許されるものだ、とぼくは幼い頃から聞かされた。
子供心に、ぼくはふーんと思い納得したようなしないような返事をした覚えがある。
ぼくは村の外を知らない、ぼくだけじゃない。
ぼくと同年代のものは皆そうだった。
外から人は来ない、理由は知らないが昔からそうだと聞かされた。
でもぼくたちは知っている外から来た者は成人した大人たちによって捕まり聖域に連れて行かれてその後はどこかに消えるという事を。
好奇心に負けた友人の1人はそれを見に行こうとぼくを誘ったが断った。
ぼくはまだ成人じゃないのだから。
その友人はその後見なくなった。
大人たちに聞いても、誰も答えてくれなかった。
この村はテレビは公共放送しか放送せず、娯楽もなくぼくらは育った。
村の娯楽といったら山や海で遊ぶこと、漁をする事くらいだ。
大人たちは、毎晩集まって宴会をしている。
大人たちが「聖域」と呼ぶ場所で。
ぼくたちはそれを知って何度羨ましいと思った事か。
しかし、ぼくたちは今日をもって、成人として村の一員として迎えられる。
ぼくは長い間、それを待ち望んでいた。
ぼくの友人たちも。
祭りははじまった。
ぼくたちは男は上半身裸になり、女たちは服を着たままでよいと言われた。
そして山の中……普段は大人たちが聖域だと、子供は近づいてはいけないと口を酸っぱくして言っている所に向かう。
そこには石の台の上に、顔に蛸のような触手がいくつもあり、背中には蝙蝠のような人形をした御神体の像が乗っていた。
そしてその後ろには洞窟がある。
全てを包み込むような真っ暗な空間だけが広がる洞窟だ。
村長はその像の前で「この者たちが今年成人した者です」と敬うように言った。
そして聞いた事のない言葉を喋り始めた「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
大人たちにぼくたちも同じことを言うよう言われた。
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
その言葉を口にした瞬間、ぼくの身体に変化が起こった。
ぼくの皮膚はざらざらと魚のような鱗がかすかに浮かび上がってきた。
ぼくはそれに対しなにも恐怖感を覚えることもなく、頭の中で自然なことなんだ。と認識した。
友人たちも同じような反応だった。
そして村の長は言った。
この村は遥かなる昔太平洋をわたってきた異人との血が混ざり合いできた村である。
そして成人になったら、皆先ほどの言葉を覚え「だごん様」に仕える者になるんだ、とそして「だごん様」は「くとぅるふ様」という司祭に仕えている。
この像は「くとぅるふ様」の像だ。
ゆくゆくはおまえたちも「だごん様」「くとぅるふ様」に自分の身を捧げなければならない。
それがこの村で生まれた者の宿命だ、と。
そして村の長と大人たちは、ぼくたちに付いて来るよう命じ洞窟に入った。
洞窟の入り口には、昔…何年前だろう?聖域を見に行こうと誘ってきた友人の服をまとった骨らしきものがあった。
しかし、そんなことぼくにはどうでもいい、今のぼくは成人なのだから。
洞窟は真っ直ぐだった。
そして1キロも進むと少しずつ水……匂いからして海水だろう、海水がだんだんと足元に浸かっていった。
それと同時にぼくたちの手の指には水かきのようなものができてきたが、ぼくも友人たちも気にすることもなく、むしろ興奮しつつ進んでいった。
さらに数百メートル進んだところで洞窟は丸い穴が広がっていた。
それは太平洋と繋がる「聖なる道」だと教えられた。
そして、その周辺には子供のころよく田んぼで見かけたカエルのような顔をした人間……いや、あれはぼくのおじいちゃんだ。
喋ったわけではないが、目が合った瞬間にわかった。
両親は昔死んだと言っていたが、間違いない。
他にも隣の家に幼い頃に住んでいたおじさんやおばさんもいる。
ぼくはここに来た瞬間、すべてがわかった。
ぼくたちは「だごん様」と「くとぅるふ様」を守るためここにいるんだ。
そして先ほどの言葉が頭によぎった
「るるいえの館にて死せるくとぅるふ 夢見るままに待ちいたり」
ぼくたちは、言葉の意味を理解し喜びながら海の中へと帰っていった。