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冴えない元ゲーマーの成り上がり異世界冒険録  作者: 雪野
地の底からの復讐者編
6/45

★ノエルサイド

 ミール大陸北東にあるアレクサンドリア王国と、南東にあるビザンツ帝国の間にある森林――リバーブエの大森林。

 この森は魔物の集落が多く、普段は人の立ち入らない場所。しかし現在は異世界と融合した地球時代の名残りが各所に散見された。

 その一つ、森の中に突き刺さったように建つマンション。今この中には一人の少女がいた。



 鈴木ノエルは窓辺に立ち、眼前に広がる緑の雲海を眺めながら途方にくれていた。

 地球に何かが起こったのは分かる。白い空間にいった時に説明された。

 しかし、マンション内には誰もいない。両親も、従兄のヒカルも。


 鏡を見に行く。ウェーブがかった黒髪のポニーテール、自分だ。

 しかしゲームの時のように念じると、


【名前】鈴木ノエル

【称号】

【種族】エルフ

【クラス】


【パッシブスキル】


【アクティブスキル】


【魔法】

『マジックアロー』(敏捷と魔力MAXボーナス特典)


レベル:1

HP:17

MP:8


力:13

体力:13

敏捷:25

魔力:28

精神:18

運:13



 こういうものが視界に浮かぶ。自分はどうやらエルフになったらしい。

 エターナルファンタジアのようにステータスが見れることも驚きなら、使っていた種族もゲームと同じでさらにステータスの意味から、敏捷と魔力に極振りした振り方まで同じなことに驚く。一瞬ゲーム内に迷い込んだかとすら思った。


「はあ」


 ひとつ溜め息をつく。

 昨日は泣き疲れていつの間にか寝てしまっていた。まだ気分が重い。しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。


 ノエルは両親の写真に手を合わせ暫く黙祷する。


「お父さん、お母さん産んでくれてありがとう。安らかに眠ってください。天国で見守っていてください」


 ノエルは立ち上がる。

 お腹ペコペコだ。


「まずは食料集めね」



 ノエルは管理人室に忍び込んで手に入れたマスターキーで、食料などの物資の調達を行った。この作業で半日を費やする。

 手に入れた武器はスタンガンと包丁、日曜大工のハンマー。もちろん同マンションに住む鈴木ヒカルの部屋にも入る。エロ本を大量に隠してある引き出しも探し当てた。従兄の評価を2ランク下げておいた。


 マンションは3階より下は完全に埋まっており、出入り口も塞がっているので、地表に近い角の階段部を出入り口にした。


 バリケードでも作ろうかと思案していた時、森の奥から影が飛び出してきた。

 耳の尖った長い金髪の女性だ。何やら必死な形相で走っている。


『グヘヘっ、待で~』


 すぐあとに、豚面の化け物が出てきた。女エルフがオークに追われているようだ。

 どっちが悪者かは容易に想像できた。

 ノエルは腹をくくった。


「こっちよ!」


 ノエルが手を挙げて合図すると、女エルフが方向転換し向かってきた。

 同時にオークもついてくる。


 ――オークを対象にとり、呪文を選択。


「《マジックアロー》」


 光の矢がぶっ飛んでいきオークに突き刺さる。

『グブッ!?』と悲鳴をあげてオークが転倒した。

 すかさずオークに接近し、スタンガンを押し当てる。


――バヂッ。


 スタンガンを食らったオークが揉んどり打つ。


 ――よし効果あった。


 頭に鉄のハンマーを打ち下ろす。さらに、


「《マジックアロー》」

 

 魔法の矢が頭部を貫いた。オークの目から光が消える。

 

「よしっ、ウィン!」


 Vサインを女エルフに見せるノエル。

 女エルフの目が点になっている。


「た、助かった――」

「ああ! レベル上がってるー!」


 ノエルが飛び跳ねて喜んだ。女エルフは唖然としている。


「あ、ごめんなさい興奮してしまって」

「いや、ありがとう。助かった」


 ノエルは改めて女エルフを見た。

 美しく伸びた顎のライン、透けるような白い肌、切れ長の大きな瞳、クリーム色にも似た鮮やかな金髪からピンと長い耳が出ている。

 人間では到達できないような美しさを持っている。しかも細身のくせに超巨乳。

 おおぅ、とノエルはたじろいた。


 しかしその美に似合わず、その眼光は殺気を宿しておりノエルは少し怖いと思った。


「私はノエル、あなたの名前は?」

「……ネオンだ」

「私が言うのもなんだけど、どうしてこんなところに?」

「嵌められたんだ。くそ! 絶対に許さねーあいつ、ぶち殺してやる」


 そういって顔を歪ませ目を憎悪に燃やす。

 顔からは想像できない言葉遣いにノエルは二歩たじろいた。


「そ、そう、じゃ頑張ってね。私お家で用事思い出したから帰るね」

「おお、この城か! おれは今住処がないんだ。ちょっと泊まらせてくれ」


 ――やっぱこうなるんかーい。


「この城の主は私だからね、来るなら従ってもらうわよ」

「お、おう。分かった」



 ネオンがマンションの最上階の窓辺から外を眺める。


「ここはエルフの森ではない、水平線が見える。リバーブエの大森林か」


 そんな呟きが聞こえる。


「え、場所分かるの」

「おそらく、としか言えないがな。予想が正しければこの北に王国がある」

「おお、ラッキー。人のいるところにいきたいし」

「ノエル、レベルは?」

「2」

「2でマジックアローは覚えられないだろ」

「うーん、敏捷と魔力がマックスの特典ってあったかな」

「まじか」


 ネオンは口をあんぐり開けて驚いた。この城からして異世界人なのは間違いない。適応転生だ、長い人生の中で知識として持っているオンはそう判断した。


「しかし、低レベルでこの森を抜けることは難しい。当分ここを中心にレベルを上げたほうがいい。おれも王国に用事があるから手伝おう」

「ほんと? じゃあこれからよろしくね。特別に一室をあげるわ。好きな部屋選んで」

「まじで! ありがとう!」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 異世界(地球)と融合した日から数日、各国は対応に追われていた。

 魔王国の東にある大国アレクサンドリア王国もその一つ。

 荘厳な謁見の間では、王公貴族や上級騎士たちが集まり議論を交わしている。


「――このことから今回の融合は史上稀にみる当たり回と言えます」

「ふむ」


 玉座に座る初老の男〈アモン・アレクサンダー〉が頷いた。髪、髭ともに真っ白ながら碧眼には覇気が宿っている。


 議論の主な内容は融合先の現地人をどう扱うかというものだ。

 報告によれば王国周辺だけでもかなりの人数が確認され、全員がヒューマンか近親種とのこと。


「そやつらに魔力はあるのだな?」

「はい、特に全体の1~2割ほどが強い魔力を持っているとの報告です」

「適応転生か」


 王が口元に手を当て独り言のように呟く。それが聞こえた周囲の者は頭の上にはてなマークが出ている。

 議論は彼らと敵対するという意見は少なく、奴隷にしようという意見が多かった。


「彼らを取り込む」


 王の言葉にしんっと場が鎮まりかえる。


「奴隷にするということでございますか?」

「限定はしない。才ある者、有用な者には相応の地位を与えようと考えている」


 どよめきが沸き起こる。

 血統が何より重んじられるこの国で、他ならぬ王自身の発言に周囲が戸惑う。

 その様子を見て王がさらに口を開く。


「彼らを取り込むことで王国はさらに強大になるだろう。心してかかるのだ!」

「「ははっ」」


 腕を振り、有無を言わせぬ号令。異議を唱える者はいなかった。

 王はそれを確認し玉座から立ち上がり、後方に設けられた部屋に消えていった。



 部屋に入った16代目アレクサンダー王は棚にある仕掛けを弄る。

 棚がスライドし隠し扉が出現した。

 その扉を開け通路を進むと、全てがクリスタルで出来た部屋に出た。

 光が乱反射し部屋全体が氷の世界のような輝きを放っている。


 見上げねばならいほどの長い階段の下で、王が膝をつき頭を垂れた。その光景を家臣が見たら度肝を抜かすことだろう。しかし納得する者もいる、そういう相手だった。


「異世界人を取り込むことになりました、これで良かったでしょうか?」

「……」


 返事はない。


「初代様……」


 王が顔を歪め、痛ましい表情で呟いた。

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