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真実

じい、あいつムカつく」

「殿下、どうか堪えて下さい」

「あいつを殺して、誰も来なかったことにすればいいんじゃないか?」


 王子がふと閃いた調子で言った。


「そ、それは――」


 老執事がちらっとシャインの顔色を伺った。


「ば、馬鹿野郎、早まるな。とっくに連絡済みだ。うちのママンすぐ来るからね!」

「今焦ったな。よしお前を殺して魔王が来ても誰も来なかったと言ってやる!」


 王子が黒い笑顔を浮かべた。


「で、殿下お待ちを!」

「問答無用!」


 老執事の制止を振り切りシャインに斬りかかった。


「<停滞>――からの〜神に選ばれし者だけに許された必殺コンボ! 極大スキルからの極大スキルを食らえ! <メテオストライク/流星剣>」


 その剣をシャインはひょいっと避ける。剣が床にめり込んだ。


「ど、どうして動ける」

「さてどうしてでしょう」


 いつの間にか手に持っている星降る夜のツルギを高速で突いた。

 一撃で王子の胸を貫き吹き飛ばした。


「殿下ー!」

「すぐに蘇生を!」


 周囲の者が慌てて駆け寄る。

 兵士たちがシャインを取り囲む。


「あなた達は神に選ばれたのではない。何世代も繰り返す劣化コピーだ。あなたちの理屈で言ったら、最強最悪を直に受け継いでいる俺こそがギフテッドよ」

「な」


 自分たちが神の寵愛を受けていると自負している王族がシャインの言葉に驚愕する。


「その通り」


 唐突に玉座後方にある部屋から声が聞こえた。

 扉が開き白い鎧に身を包んだ金髪碧眼の美青年が現れた。


 シャインだけではなく全員が神々しいオーラに打たれて固唾を飲んで動けずにいた。シャインは警戒しながら黒剣を仕舞う。青年の瞳はその剣を追った。


「懐かしい――気配がした」


 青年はそう言った。


「おい、貴様どこから入って――」

「初代様!」


 貴族の一人がどなりつけようとした時、アレクサンダー王が叫ぶ。

 玉座から立ち上がり膝をついた。

 王が頭を垂れる。若い兵士は事態が飲み込めずにいた。しかし、ぽつりぽつりと老兵が声をあげる。


「……守護者様」

「守護神だ」


 亡国の危機にだけ現れるという伝説の人物。魔王国との大戦のおり、一度だけ見た者たちがいた。


「そう。この方こそ初代アレクサンダー王にして王国の守護者である」


 頭を下げながら王が言った。全員が我に返ったように王に倣う。

 そんな貴族たち一瞥もくれず、青年はシャインに歩み寄る。


【初代、アラン・アレクサンダー】


 ――アラン?

 どこかで聞いたような。


「先ほどの剣、どこで手に入れた?」


 青年が問うた。シャインは思い出した。


「その質問に答える前に確認したい。お前がカグヤさんを殺した男か?」

「そうだ――」


 瞬間、肉を打つ鈍い音が響いた。

 シャインがアランの顔面を殴り飛ばしたのだ、さらに押し倒し馬乗りになって殴る。


「ひぃ! 初代様!!」


 王が絶叫する。

 シャインに飛び掛かろうとした兵士を、殴られながらアランは左腕を上げて制止した。


 シャインは違和感を感じた。殴っているのに、効いていないような。

 殴っているそばから回復しているような。

 ゾクリと背筋に冷たいものが走る。シャインは後ろに飛び退いた。


 平然と起き上がるアランを見て嫌な汗を垂らす。


「今のは痛かったよ。痛覚遮断を解除したからね」


 アランがにっこりと笑いながら言った。


「もう一度聞こう、その剣はどこで手に入れた?」

「……闇の聖女の墓所」

「……」


 アランは続きを促すように無言で見つめ返した。それでは君が激昂した理由にならないだろうとばかりに。


「アンデッド化した彼女はお前を恨んでいた」


 何にも動じなさそうな青年の瞳が大きく揺れた。


「そうか」


 静かに佇むアランの瞳から一筋の涙が流れ落ちた。

 ただ男が泣いただけ、しかし息を飲むほど美しかった。アランはゆっくりと語り始める。


「1000年前――私は一つのスキルを手に入れた。最愛の者を生け贄に捧げることで不老不死を得るという禁忌スキルだ。当時私にはカグヤとソフィアという二人の恋人がいた。占星術を扱えるソフィアが私に言った、建国間もないこの国のためにカグヤを生け贄に捧げなさいと」

「――馬鹿な、嫉妬で言っただけだろ」

「そうかもしれん。当時まだ国も貧しく先行きは不透明。私は子供のためにもこの国を護ると決め、カグヤを生贄にした――」

「酷過ぎる」


 シャインが鋭く睨む。


「恨まれることは覚悟していた。しかしこれはカグヤの呪いかもしれないな――」


 アランが遠い目をすると瞳から光が消えていく。


「生物とは不思議なもので不死になったら生殖機能が停止した」


 そう絞り出すように言ったアランの表情は虚ろだった。


「妻を老衰で看取った。老いていく我が子を看取った。それでも孫の代までは良かった。孫を看取ったあたりで何が壊れた――何も感じなくなった。もはやどこも似ておらず権力闘争に明け暮れるばかりのゴミたち――こんな奴等のためにカグヤを殺めたわけではない」


 そのアランの言葉に王や貴族たちが、沈痛な表情を浮かべた。


「だからと言って国が滅べば私のしたことが全て無意味になってしまう。怖かった。魔王のトゥルーナイトメアを食らった時、私だけが悪夢を見なかった。何のことはないその時気がついたのだ。この現実こそが悪夢なのだと――罰なのだと」

「……」


 悲痛な表情の青年に、シャインは投げ掛ける言葉が見つからなかった。いや一つだけ。


「それでも、愛していると言ってカグヤさんは成仏していったよ」

「……そうか」


 アランはぽろぽろと大粒の涙を零した。


「初代様――こやつは魔王の息子でして、貴族殺しの疑いがありまして――」


 現王が言いにくそうに話す。


「私はこやつとは敵対しない」


 アランが言い放った。


「初代様!?」

「それで王国が滅んだとしても私は助けぬ」

「そ、そんな――」


 謁見の間が騒然となった。


「守護者様は裏切ったわけではない。手を借りずとも我らだけで魔王を討つべきだ」


 蘇生したものの王子が殺されたことで戦争派が勢いづいた。


 その時、謁見の間の扉が開かれた。

 慌ただしく兵士が入ってくる。


「緊急につき失礼します! 魔王軍が西部の国境を越えてきました!」

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