城
シャインは無事を喜ぶカイに経緯を話した。
「戦争時以外は自由にしていいらしいから王国に連れていってあげられるよ」
「ほんとですか!? ありがとうございます」
母と会えるかもしれない。カイは目の端に涙を浮かべて喜んだ。
魔王より与えられた城に向かうことにした。居城は軍団長待遇の一つ。
といっても元自分の家だ。闇のダンジョンを管理するために住んでいたという砦。シャインにとってはここが最も都合が良かった。
連絡係のパートナーになったサキュバスの幼女クル・ハープを先頭に城下町を歩く。クルは機嫌が良さそうに羽をパタつかせている。
大通りを歩くと立派な服屋が目についた。ガラス越しにスカートやドレスが飾られている。シャインから見てもかなりハイファッションで値も張りそうなお店だ。
あまり服に興味はないが、女性はあるだろうと思う。
「カイ、好きな服を選んでいいよ。クルもね」
「え、これで問題ないですよ?」
カイが自分のシャツを引っ張りながら言った。
「お金はあるから遠慮しなくて大丈夫」
背中を押してやると、足を踏ん張られた。
尻込みしているような表情。
――まさか買い物が怖いとか?
ありえる。自分だって一人でお洒落な高級レストランに入る勇気はない。だとしたら余計なことをしただろうか。
そう考えたシャインの横を、チビサキュバスがスカートの端を持ちながらびゅーっと駆け抜けて服屋に突撃していった。
――奴はやる気だ。
あまり面識もないのに。
カイもあれぐらい厚かましくてもいいのにと思う。
「クル、カイの希望を聞いて服を見繕ってあげてくれないか?」
クルが振り返り大きく頷く。
クルに見てもらってと促すと、おそるおそる入っていった。
☆
一時間後――頬を上気させて服を選んでいるカイの姿があった。
――やっぱり女の子なんだなぁ。
荒らし回るように服を選ぶクル。店主はさぞ迷惑だろうと見てみると、文字通り顔に笑顔を張りつけて、手を揉み揉みさせていた。
――なるほど。無関係といっても、やっぱりこの国ではサキュバスは別格の扱いらしい。
二時間経過――待ちくたびれたシャインは向かいの道具屋で時間を潰していた。
やっと店からカイが出てきた。
「えええっ!?」
シャインが驚愕する。カイがフリルがついたような青のジャケットにピチッとした白パンツを履いていた。レイピアを腰に下げた姿は男装の貴公子然としている。
――男だったらいいよ?
本音をいうと<身体変化>を使わずに女性らしい格好が見たかった。
あれはあれで絵になっているからいいか。
チビサキュバスの方はゴスロリメイドな格好になって登場。
何がしたくてどこを目指しているのか分からない。
道具屋を出て迎えに行こうとした時、以前カイを苛めていた例の三人組がやってきた。またおちょくりだそうという雰囲気だ。カイの顔色が変わる。
今の自分には止められる力がある。さすがに出ていった。シャインが無言で三人の前に立つ。
「あ、こいつ!」
三人がシャインを見ると、見る間に血相を変えて逃げていった。諦めたのかなと思ったら、しばらくすると戻ってきた。人数が倍になっている。
「父上こいつです! いきなり僕たちを襲った暴漢魔です!」
三人組が口々に自分の親らしき人物に訴える。親らしき人物はそれぞれが恰幅がよく、貴族のように豪華な服を着ている。
「貴様か! 私の息子を暴行してくれたガキは!」
「いや、先に俺の仲間に暴行してたのはそっちのガキだからね」
「嘘をつけ! お前は謝っても済まさんぞ! 鞭打ちの刑に、して――」
三人の親父がまくしたてるようにシャインに近づくが、だんだんと声がしぼみ始める。
シャインも、あれ? こいつらどこかで見たなと小首を傾げた。奴隷商のところにカイを取り戻しにいった時に、その場にいた商人仲間だと思い出した。
三人の親父がシャインを見る、そしてカイを見てクルを見た時、顔が真っ青に変化した。
「「し、失礼しましたああああああ!」」
三人が地べたに額を擦りつけ土下座をした。
「え、パパ? 何してるの」
「こら! お前らも頭を下げんか! この方はな、魔王様の息子だ」
「え! ひいいい、すいませんでした」
カイを苛めていた三人組まで土下座をする。
町の通行人が何事かと集まり始めた。
「ちょ、目立つからやめて下さい。魔王とこちらの町は無関係だと聞いています。魔王の息子だからといってかしこまらないでください」
「そ、そうですね、分かりました」
「ただ次、誰かれ構わず苛めて、それが僕の仲間だった場合。肩書関係なく個人的にそちらと潰し合いが始まりますのでよろしくお願いしますね」
シャインはやんわりと、毒の含む言葉をぶつけた。
「は、はい。肝に銘じて息子らに伝えておきます」
奴隷商での一件を知る親父たちはそれが嘘ではないと知っている。真剣な面持ちで返事をした。
◇
城下町を出て、東に歩き問題なく砦に着いた。
湿地帯はもう瘴気は出ておらず、ゾンビもいなかった。あれは転生直後の地盤沈下などの影響だったと判断した。
砦というより小さな城。
半月状の湖に囲まれた砦の景観はやはり美しかった。
――小さくても城!
一国一城の主。
今は貰って良かったと思う。
カイも目を輝かせている。
城内に入るとわりと殺風景でシンプルな造りだが、部屋がたくさんある。
「じゃあ二人には自分の部屋を一部屋あげよう」
その言葉にカイは遠慮をしたが、喜びが隠せていなかった。
クルも目を輝かせて嬉しそうだ。
砦は地下室があり2階建て、屋上にいけるという造り。
真ん中が吹き抜けになっており、二階には9部屋並んでいる。
カイは部屋を見て回って奥の角部屋を選んだ。隅っこが落ち着くみたいだ。
クルは庭を一望できる南側の真ん中を選んだ。
□ □ ■
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□ ★ □
(■がカイ、★がクルの部屋)
掃除はクルが得意だそうで砦の管理は任せることにした。
サキュバスの姉さんたちと離れるのは不安じゃないか、寂しいなら戻るか? と聞いたら泣きそうな顔で首をブンブン振り全力で拒否された。
カイと過ごす初めての夜。
シャインは当然女として意識していなかったわけではない。むしろ奴隷商で見た時の女性版カイを見たときから、いや初めて会ったあの日から意識している。豊満な胸、透き通るような白い肌、小尻ながらプリンとしたヒップラインが頭にちらつく。
――しかし向こうはないだろうな。
そんな気がする。
「今日は一緒に寝る?」
「はい」
嫌な素振りがあったらやめておこうと思ったが、カイが笑顔で返事をした。シャインは胸が高鳴った。
自室の南東の角部屋に移動する。
二人でベッドに入った。布団の中がカイの匂いで満たされる。
「お母さん以外で誰かと一緒に寝るの初めてです」
カイが嬉しそうに言う。
シャインは可愛すぎると思った。どうにかなってしまいそうだ。
そんなカイを見て今日の3人組が頭を過る。ここで変なことをしたらあいつら以上のトラウマを与えることになるかもしれない。
もう少し男と女の関係を理解するまで待つことにした。
「尻尾触っていい?」
「はい」
尻尾を触る。先端から付け根までもふもふさらさらな毛並みを楽しむ。最高だ。少しお尻に触れてしまい、ビクンとして振り返り上目遣いで顔を伺われたが気にしない。これぐらいは許して欲しい。




