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祖母が死んだ日

作者: 舞花

気持ちも落ち着き、お盆が近いため、また忘れないために投稿します。





おじいちゃんは、おばあちゃんと何処で出会ったの?




狭い車内、過ぎ去る風景をぼんやり眺める祖父は私の素朴な疑問を小さく笑いながら答えてくれた。




兵隊から帰ってきてな、美容院で知り合ったんや




懐かしむような、悲しんでいるかのような、少し濁った瞳は遠くを見たまま、話は途切れた。











青年は戦時中、医療班としてマレーシアに派遣されていた。来る日も来る日も重傷者や死体と向き合う日々。兵隊になる前は理容師として働いていた青年には苦しい日々だった。


それから数年、日本の敗北により戦争は終戦、あの息苦しい夏より2年後、彼はやっと日本へ帰国した。





医療班として働いていた青年には医者として働く道も存在したが、彼は田舎に帰り、元の理容師の道を再び歩き始めた。

そこで出会ったのが美容師として働く娘だった。東京で修行を積んだその娘は、田舎では目新しい技術を多く持っており、町ではちょっとした有名人だった。



そんな娘と青年は結ばれ、独立し、自分たちの店を持った。誠実で仕事が丁寧な青年、多くの技術を持ち女性のファンが多かった娘。そんな2人のお店は連日人が押し寄せ、深夜になるまでお客の相手をした。


子どもにも3人恵まれたが、2番目に生まれた長女は生まれてすぐに亡くなった。そんな2人を支えたのは仕事と長男。そして5年後に生まれた次女。


それから50年以上、青年と娘はともに店に立ち続けた。年を取ろうとも、新しい安い美容院ができようとも、老いてもなお2人は日に来るか来ないか分からないお客のために立ち続けた。

たまに来る孫娘が、美容院に行くようになった時も、20歳の成人式前に顔剃りに来た時も、ただ微笑んでいた。彼らの心はいつも穏やかだった。時代の波に逆らうことはせず、晩年はゆっくりと日常を過ごした。










おじいちゃん、この部屋寒いから温かい部屋行かない?




冷える霊安室。棺を見つめる青年、いや祖父はちらりとこちらを見た。




ありがとう。でもな、ばあさんが寂しかろうけん、ここにおるわ。




そう微笑む祖父は少し疲れきっており、その背中は小さくみえた。




うん、わかった。




その言葉しか言えずに外に出た。泣かないように我慢していた涙がこぼれ落ちる。祖母を亡くした悲しみか、1人になってしまった祖父を想う悲しみか、涙の意味は見つからない。






ごろごろして過ごしたあの日、会っておけばと何度も後悔しました。本当に人ってあたりまえの奇跡に気づかないものです。自分への戒めのために、読んだ方が同じ後悔をしないように願います。

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