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ふぁぁ、とプロレスラーほどありそうな体格のいいイケメン魔将が欠伸を漏らした。
(二人……? たったの二人?)
「敵は二人だぁぁッ! 一気にやっちまえ!」
周囲の別パーティをも巻き込み、猛き者が叫んで先陣を切る。狙いの定められた矢は鋭く放たれ、木からの奇襲は成功した。……かのように見えた。
「おや。これはこれは……穏やかではないですね。大丈夫ですか、ゆっきーにょ」
穏やかなる雰囲気を出しておきながら、先制攻撃した者に対しギンと大きく見開く。
こちらの攻撃は、一切通用していなかった。矢は、閉じようとしていた口……欠伸の閉じかけの歯で受け止められ、剣は軽く受け流されて奇襲しようとしていたもう一人の胸を貫かせている。
「あ……れ?」
勇敢な大男が、一瞬ひるんだ。その隙を見逃さず、ゆっきーにょの素手による攻撃が顎に当たる。途端に木を叩き割ったような嫌な音が響き、大男が糸の切れた人形のように地面へと崩れ落ちてしまった。
「お前じゃ話にならん。この街のリーダー……一番強い奴は誰だ?」
周囲の人間が一斉に俺を見つめる中……
「はっはっは! この俺様が一番強いに決まってるだろう! さぁ一戦交えぎゃふん!」
誰かよく分からん奴が一人、勇ましく突貫していったと思ったら思いっきり蹴り飛ばされてゴミ箱の中へ頭からツッコんでいた。その一撃で死んでしまったのだろうか、三面記事にも載りそうにない、恐ろしいほどまでに情けない格好で固まっている。
「お前か。なるほど」
普通に歩いて近寄られ、ゆっきーにょと呼ばれた人物は値踏みするかのようにグレンをジロジロと見つめる。
「で、マジで強いのかお前?」
刹那に鈍い音が聞こえた。
「十神魔将かなんか知らねぇけど、俺とやり合う気なら兵連れてこい」
コメカミを裏拳にて殴られたゆっきーにょが、スライドダウンしていく。挑発されたのがムカついたのだろうか、グレンの瞳孔が開いていた。
「へぇ? あのゆっきーにょに一発当てるなんて……やりますね」
「……へへ。いいぜ、お前。楽しくなりそうだ。おい松下、感心するのは構わねぇけどよ、絶対手ェ出すなよ?」
「手を出すもなにも……本来の目的を忘れてもらっては困ります。あなたが揉め事引き起こしてどうするんですか、筋肉バカ。私たちはこの街の者と争いに来たわけではないのですよ? 行方不明になったなっちゅを回収するためだけに来たのですから」