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その初心者のエリアに王都はある。当たり前のようだが、王が打ち取られると負けになるらしい。こちら側にもプロのゲーマーが聖騎士として、王の側近として存在してはいるものの三人しかいない。情報誌によるとサービスが始まった最初の時点で『悪の方がなんだかカッコイイ』との事でほとんどが魔王軍に行ってしまった。
嘘のようだが、本当の話である。
(聞いた事がある。これは年に一度あるかないかの一大イベント。全てを無に還す、運営の意図のはずだ……)
一回死んでしまえば、復活するのに一週間時間を費やさないといけない。素早く復帰したい場合は、リアルマネーで諭吉さんが一人死んでしまう。基本無料を謳ってはいるが、そういう点で運営は飯を食っているのだろう。もし復活させずに一週間経った場合、壊れた剣や鎧をまた最初から作り直さなければならないのだ。『死んだ時点で鎧が壊れ、諭吉さんが死んだ場合にもまた最初から作り直しになるのでは』との声もあったが、その点はサービスされるらしい。なんともリアリティに欠けるが、一万円支払った特権なのだろうか。
強い防具を拾い、鍛え上げるまでおよそ半年、さらにレアリティの高い武器を拾うのも個人の運に左右されるため、サービスが始まってからのこの二十五年間で一度も拾えてない人もいる。頻繁にレア武器を拾う豪運の持ち主は俗に『当たりID』などと揶揄される。もっとも十神魔将は、最初からチート級の超火力武器やマシンを振りまわしているのだが。
ただ、不思議な事に、一度も諭吉さんを使って復活した人をグレンは見た事がない。
(じ、十神魔将……? 一体、どんな奴らなんだ?)
ごくり、とグレンは固唾を飲む。今まで魔王軍の敵と戦ってきた。ただそれは一番隊から十番隊まであるうちの部下、プレイヤースキルやレベルがほぼ同レベルの魔族だった。乱戦しても辛うじて今まで負けなしで通ってきた。だけど、今回は違う。まさか幹部のお出ましだとは夢にも思ってなかっただろう。しかも、十人まとめて。
「くっ、くるぞ……!」
「く、くそがぁぁぁッ! 負けてたまるか! 討伐報酬は俺が貰うぜぇぇぇぇッ!」
無理矢理己を鼓舞し、テンションを上げて剣を抜く者、額に汗を見せ、静かに屋根の上から弓を構える者、気配を隠し、木の陰に隠れ奇襲を狙う者……様々な思いを胸に、門に向かう。
その時、頃合いを見計らったかのように厳重に閉じられていた門が、たった一人の影により砕け散った。
十神魔将の一番隊隊長、なっちゅが他九人を率いて登場すると思いきや……まさかまさかの二人しかいない。
「ここか? 本当に今度こそ、この辺りなのか? あのオヒメサマの反応は」
「えぇ。この街で間違いありません。無関係な国王軍プレイヤーをいっぱい殺してしまいましたね」
「はぁ……。ったく、余計な揉め事は運営の奴らから止められてるってに……。これじゃ、また給料が減るぜ」