6
視線を逸らして紅潮させた顔がみるみる固まっていく。(自称)学校一のアイドル教師としては、一番堪えたセリフだっただろう。
「おうコラつるぺた。俺はもう今後一切ログインしねーからな? 受験だって控えてるのに、なに勝手に自習にしてんだよ。バカかテメェは」
彼は相手の反応も見ようとせずまくしたてる。
「だいたい、こんなの初歩中の初歩は初心者に読ませるべきだろうが! いいや初心者未満だな。チュートリアルかよ」
「……よ」
「ン?」
聞き取れなかったグレンは、顔をしかめながら教師の顔を見下す。
「……なによ。ちょっと強くなったからって、威張り散らして……もういい」
ぐすっ、ひっく、と嗚咽を漏らしている事に気付いたグレンはギョッとして目を見開いた。マリエッタは、いつもだいたいこの程度なら反撃してくるタイプだったりする。
「アンタなんて、大っ嫌い!」
本当に授業を放り出して、結局、帰りのホームルームの時間が来ても彼女は帰ってこなかった。
(ちょっと……言い過ぎたかな)
* * * * * *
帰宅後、グレンは寝る前に携帯ゲーム機を取り出して電源を入れた。『今後一切ログインしない』と宣言したばかりだったが、泣かせたままだと後味が悪いらしい。もちろん、グレンの言っていた事の方が正論なのだが。
「あっ、ごめんなさい。あの、今ちょっと急いでて……」
どん、とグレンにぶつかってきた少女が慌てた様子で走り去っていこうかという時。彼は少女の髪をガシッと掴んだ。『がっ!?』と小さな悲鳴を上げて苦しそうに振り返る。
「おいちびっ子、人にぶつかっておいて『ごめんなさい』の一言で済むと思ってんのかコラ、アァン!? だいたい、そんな目隠ししてたら普通ぶつかるに決まってんだろうが!」
今時ヤクザもこんな事言わない。
その言葉が聞き捨てならなかったのか、もしくはよっぽど痛かったのか。少女は不気味な一つ目のマークがついた目隠し越しに、ガン飛ばしてくる。普通ならば怯えてすぐさまこの場から立ち去っていくだろう。
「ふん、下衆が。この私を知らぬとは、とんだモグリだな」
大根役者並みの棒読みだ。怒っているのは本当のようで、口角が下がっている。ただ……舌足らずなのが幼い印象をより深めた。
「まぁいい。今は貴様に構っている余裕はない。命拾いしたな」
鼻まで覆いそうなほどの巨大な目隠しをしたまま、少女はどこかへ行ってしまった。ふン、と鼻からため息を吐いたところで、警報が鳴り響く。
『緊急任務発生! 魔王幹部連合軍、十神魔将がメルフィスに向けて進軍中! ただちに迎撃態勢を! 繰り返します! 緊急任務発生! 魔王幹部連合軍、十神魔将がメルフィスに向けて進軍中! ただちに迎撃態勢を!』