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「もっと余裕があるなら、王女様らしい部屋を取っていました。お許し下さい」
全然違った。グレンに毒されたのか、なかなかに現金な性格だ。
「いや、自覚もないし、そういう事は特に気にしていない」
「あっ、やっぱり? マジで? サンキュー」
「ただ、もう蹴らないでほしいな、なんて……」
選択肢間違った、と視線を横にフイと逸らす。どうやらものすごく我慢しているようだ。本当は、こういうのはメルリアーヌの嫌いなタイプなのだろう。目は口よりも正直だ。
「もうごはん食べますよね? マリエッタ? お願いします」
四人部屋の中央に置いてあるテーブル席へと座る。とくに酒場で話してもいいのだが、王女となると話は別だ。
もしかしたら王女を快く思っていない奴がいるかもしれない。
殺そうとする者が出てくるかもしれない。実は、元から王女は男だったのかもしれない。
常に最悪の事態を想定して動かなければならない。言わば『かもしれない運転』だ。
そして、みんな忘れかけている本当の問題……。実は、こっちが本当の世界かもしれない。今まで平和に楽しく学校に行っていた世界が、偽物かもしれない事。
メビウスの輪は不思議だ。中学生くらいの時に、おそらく聞いた事があるだろう。その輪の存在を。注意して聞いた事がないにしても、耳にした事ならあるはずだ。
ここから先、ちょっと実際にやってもらいたい。
とっても謎だらけの、メビウスの輪の作り方を説明しよう。
定規のように細長い紙の端を百八十度回転させ、輪を作ってテープで止める。ただそれだけだ。小学生でも出来る。
『はン。これのどこが』
と思う者も多いだろうが、実はこれ、ちょっと変わった存在なのだ。両面では存在出来ず、片面しか存在出来ないという事を示唆している。
作ってくれただろうか。出来るだけ幅が広い紙を使ってくれた方がありがたい。
テープで留めた所から、ボールペンなりシャープペンシルなりで一周してみよう。すると、不思議な事に、百八十度回転して、違う出口に行ってしまう。百八十度回転させて作ったのだから当たり前といえば当たり前なのだが。
これがなぜ不思議なのかというと、さも当然のように一つの存在として在るからだ。どちらが本当か分からない。今ペンで辿った側が表なのか、それとも裏なのか。
ちなみに、先ほどグレンたちが別の現実世界へ行ってしまった事も、このメビウスの輪にて証明される。
これを、ペンの進行方向に沿ってぐるりと一周、国王軍の紋章としてハサミを入れていくとどうなるのだろう。もちろんテープを外さずに。きっと血管が凍てつくほど驚くはずた。
そして、もう一度同じ要領で切ってみると……?
不思議な現象が誰の目の前でも起こりえる。別の言い方をすれば、その手元にある物が、五次元の正体なのかもしれない。




